第1608話 フォーエバー

 おばちゃんの説明が終わり、村の連中も当主の言葉を素直に受け入れていた。


 ボブラ村もド田舎だが、隊商が来るのでそこまで従順ではなく世間を知っている。この村のように上の言葉を簡単には受け入れたりはしねーものだ。


 おそらく、外との交流がねーのだろう。よく村が存続できてるよな。近親交配が強くなって百年くらいで滅びそうなもんなんだけどな。定期的に外から血を入れてんのかな?


「これからは外に出たい者は好きなように出なさい。それで村が滅びたりしてもあなたたちの責任にはしませんから」


「……ライニエス様……」


「古い時代は終わったのです。わたしたちも変わらざるを得ないのですよ」


 まるで滅びてしまうかのような沈黙である。


「勘違いしているようだが、これから農作物の消費が増える。この村からも買いつけに来る商人も増える。農作物が売れたら金も入り、暮らしが豊かになるだろう。まあ、今の暮らしが変わることには違いねーがな」


 そもそもハイニフィニー王国は人が少ねー。なら、農民も少ねーってこと。あんちゃんたちが動けば動くほど農作物は中央(王都)に集まるだろう。


 人が少なければ増やすかどこからか連れてくるしかねー。それがどんな未来をもたらすかまではオレにもわからねーが、この村はゼルフィング伯爵が治めてきた。なら、村の繋がりは強いはず。外から情報が入って来ようと三十年くらいは大丈夫だろうよ。


「心配することはねー。新しい当主は、この地を見捨てたりはしねー。ゆっくりやって来る時代に慣れていけばイイさ。おばちゃん。姉妹の誰かをここに住まわせな。ゼルフィング家が支援するからよ」


 まあ、やるのは親父殿が、だけど!


「……また、本人がいないところで丸投げする……」


 本人がいるところで言ったら文句を言われるじゃん!


 無限鞄からカイナーズホームで買った塩や砂糖、そして、銀貨を五百枚くらい入った袋を出した。


「当分の足しだ。遠慮なく使ってくれ」


「そんなもの渡されても困るだけだよ」


「なら、ここに移り住む者に管理させな」


 オレは誰が管理しても構わねー。農作物をたくさん作ってくれるならな。


「話も済んだなら帰るか。親父殿も苦労してるだろうからよ」


「主にべー様が苦労させてるんですけどね」


 聞こえなーい! 聞こえなーい! 聞こえなーいったら聞こえなーい! ほら、帰るぞ。


「べー様。カバ美さんを外に放置したままですよ」


 あ、そうだった。邪魔だから外に放り投げたままだったよ。


「カバ美さんに噛り殺されますよ」


「カイナバリアで防がせてもらいます」


 あ、カイナ、南の大陸にいってるんだった。じゃあ、エリナのマンションの前に捨てておこうっと。


「命に責任を持ってくださいよ」


 命のない幽霊に責任とか、なんの冗談だろいうか? 笑えばイイのかな? ぶっひゃっひゃっひゃっ!


 外に出ると、厳重に固めた結界が今まさに破られそうだった。ハイ、補強っと。


「カバ子も凄かったが、カバ美もスゲーな。なんなんだ、この種族は?」


 オレの結界は人外には通じねーが、それでも多少は効果を見せた。なのに、人外の域に入ってねーのに破られるとか意味わかんねーよ。


「昔、魔大陸を統一していた魔王の子孫ですからね」


 カバが統一してたとか悪夢でしかねーな。


「ん? カバ子、種族平等を掲げてなかったっけ?」


 皆はカバ子が聖女だったの覚えてる? オレは完全に忘れてました~! ごめんね!


「わたしも存在してなかった時代なので詳しくは知りませんが、そのときの魔王が他種族排斥に動いていたみたいですよ」


 うん。カバな世界に転生しなくてよかった。


「ドレミ。カバ美をエリナのマンション前に捨ててきてくれ。オレが捨てたと勘づかれるなよ」


「いや、そんなことするのべー様しかいないんだからすぐバレますよ。と言うか、ドレミさんを通じて見てるんじゃないですか?」


「それもそうか」


「創造主様でしたらコミケの用意で忙しいようです」


 はぁ? コミケ? 開けるほと同好の士がいるのか?


「なら、チャンスだな。そっと置いてこい」


「イエス、マイロード」


 よかった。エリナに逆らえない存在じゃなくて。


 ドレミ隊がどこからか現れ、カバ美を持ち上げて転移していった。


「可愛がってもらえよ」


 さらばだカバ美。フォーエバー! と敬礼して見送った。


「んじゃ、帰るべや」


 転移バッチ発動。ゼルフィング伯爵の館へ──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る