第1544話 度し難い

 モリブにきて六日。周辺を探索に出たねーちゃんたちが戻ってきた。ご苦労様です。


 創っておいた風呂に入ってもらい、よく冷えたビールを出してやった。


「ぷっはー! これ、美味しいわね!」


「この苦味がたまらない!」


「仕事のあとのお酒って最高よね!」


 騎士のねーちゃんらは喜んでビールを飲んでるが、アリテラはウイスキーをロックで飲んでいた。あなた、酒豪でしたっけ?


「探索はどうだった?」


「空気がまるで違ったわ」


 空気? そりゃまあそうだろうな、大陸が違うんだから。


「べーくんみたいに転移であっと言う間に移動してるとわからないでしょうけど、歩いて移動してると土地土地の空気の違いに気づくものなのよ」


 そりゃオレも空気が変わったことくらい気づくよ。だが、そこまで感慨を持つものなのか?


「冒険者は繊細なんだな」


 よくわからんが、冒険者には冒険者だけにしか感じない風情とかがあんだろうさ。


「そんで、ここの空気には慣れたかい?」


「ええ。慣れたわ。乾燥した地にもいったことあるしね」


 まだ二十歳半ばだろうにいろいろいってるねーちゃんたちだ。A級冒険者になるのも遠くないかもな。


「じゃあ、明日から地下迷宮に入るとするか。今日はゆっくり休んでくれ。家は創っておいたからよ」


「それは嬉しいけど、べーくんがいると堕落しそうよね」


「食事は美味しく、寝る場所はふかふか。お風呂もあってお酒も飲めるしね」


「贅沢な冒険よね」


 不自由な生活もそれはそれで楽しいものだが、不潔な環境はノーサンキュー。オレは暮らしをよくしたい村人である。


「厳しい環境が好きならそこら辺で寝てもらっも構わねーぜ」


 人の趣味や楽しみにどうこう言うつもりはねー。思うがままに冒険をしたらイイさ。


「いえ、こう言う豪華な環境も大好きよ」


「そうそう。なんだか成功者って感じだしね」


「一パーティーに一べーくんが欲しいわ」


 一家に一台みたいに言ってんじゃないよ。オレは猫型ロボットじゃねーわ。だからっての○太くんでもねーからな。オレはテストで七十点以下を取ったことねーし。


「優秀な人が弾けると碌でもなくなるのは世界が違っても同じなんですね」


 だれが碌でもないだ。いや、あ、うん、強く反論できないところもなきにしもあらずですが……。


 飲んで飲んで飲まれて飲んで。よくいる冒険者のように酔い潰れるねーちゃんたち。いや、アリテラは涼しい顔でウイスキーをロックで飲んでるよ。


「た、大丈夫なのか、そんなに飲んで?」


 もう一本空けてるよ、あなた。アルコール度数、五十はあるものだよ。


「このくらい問題ないわ。わたし、お酒に強いから」


 いや、強いとかのレベルじゃないだろう。異常なレベルだわ。


「べーの出してくれるお酒は最高よね。これを覚えてしまったら他の不味くて薄いお酒なんて飲めないわ」


 あーこいつはカイナや人外どもと同じ領域にいるヤツだわ。


「そうか。まあ、また旅に出るようになったら酒を持たせてやるよ」


「それは嬉しいわ。べーも飲めたらもっと美味しくなるのに」


「そうだな。下戸じゃなければ付き合ってやりたかったよ」


 オレはサロンでお茶を、なほうだ。酒場でカンパーイ! は一生できねーな。


「でもまあ、最後まで付き合ってやるよ。一人で飲むのはつまらんだろうしな」


 まだ時刻は六時くらい。余裕で四時間は付き合ってられるよ。


「ふふ。ありがと。皆はお酒に弱いからいつも一人酒だったのよね」


 いやいや、ねーちゃんたちも酒に強かったよ。あなたが異常すぎるんですって。


「ちなみにどのくらい飲める感じ?」


「そーね? あと六本は余裕かしら」


 エルフは酒好きが多いし、強くもある。アリテラはエルフの血がより濃く出てるんだろうな~。


「合間合間に水は飲めよ。若いうちからの酒は年取ってから来るもんだからな」


 肝臓が丈夫でもさすがにウイスキーをがぶ飲みしたら体壊すわ。


「わかってる。今日は三本で止めておくわよ。明日も冒険が待ってるんだからね」


 まったく、冒険者ってのは度し難いヤツらばっかりだよ。

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