第1483話 ダリム

「な、なんで!?」


 それはこちらが訊きたいことだな。なんで叡知の魔女さんから突き飛ばされるんだ?


「まあ、来ちまったもんはしょうがねー。ついてきな、ボサボサさん」


 なんか語呂がよくねーな。モブっぽい顔立ちだが、モブ子はもういる。モブ子が二人がいたらどっちがどっちだかわからなくなる。違うあだ名をつけるべきだろう。


「普通に名前を覚えるって選択肢はないんですね」


「わたしはダリムです! ボサボサと呼ばないでください!」


「あ、そばかすさんが委員長さんより真面目と言ってた見習い、あんたか」


 怒りながらも真面目な口調に思い出したよ。


「わたしは普通です。他が不真面目なだけです」


 確かに委員長さんより真面目な性格っぽいな。こっちを委員長さんにすりゃよかったか? いや、今さらか。


「真面目な割には髪の毛はボサボサなんだな」


 真面目だけど身嗜みには無頓着、って感じか?


「これは生まれつきです。ちゃんと毎日洗って綺麗にしてますから」


 凄まじい髪質もあったもんだ。見た目で損するタイプだな。


「まあ、魔女は帽子を被るし、髪型なんて気にしねーか」


 昔の転生者により魔女スタイルが正装となったぽい大図書館の魔女。外にいるときは帽子着用なのでボサボサ頭も隠れるから気にしてないんだろう。元々大図書館は女しかいないしな。


「これでも気にはしています。けど、大図書館では不要なお洒落は禁止さてますから諦めております」


「確かに言われてみればお洒落してる魔女はいねーな」


 清潔にはしているが、髪飾り一つしてなかったっけ。まあ、外との繋がりはねーし問題ねーか。


「あんたは、なにか得意分野とか特殊能力があったりするのかい?」


 これまでの見習いからしてなにか持っている者を選んで選出してるのがわかる。なら、この見習いにもなにかあるはずだ。


「わたしにはありません。普通の見習いでしたから。もっと優秀な見習いはいたと言うのに……」


「それでも叡知の魔女さんはあんたを選んだか。それはおもしろいな」


 俄然、この見習いに興味が出てきた。この見習いにはなにかあるぞ。


「わたしにはよくわかりませんが、大図書館の魔女が選んだことには興味がありますね。なにか、思い詰めているって感じもありませんし」


 だな。委員長さんやララちゃんみたいな張り詰めた気配ないし、なにか興味を持つ感じもない。至って普通。普通・オブ・ザ・普通って感じだ。


「なにを期待してオレのところに押し出したんだろうな?」


 人の才能なんて様々。開花することは希だ。自分の才能を知らないまま一生を終えるなんてざらだ。他人が早々見つけられるもんじゃねー。


 だが、叡知の魔女さんはこの見習いのなにかに期待している。それがまた興味をそそる。なんなんだ、この見習いに隠されたものは?


「あんた、名前なんだっけ?」


「今言ったばかりで忘れないでください。ダリムです」


「ダリムか。うん。覚えた」


「まったく信用ならないセリフですね。そう言って忘れた名前、両手両足の指を使っても数え切れませんよ」


 今回は大丈夫。この興味がダリムの名前を覚えた。そんときのオレの記憶力は限界を超えるのだ。


「だったら限界の先にいてください。すぐに戻って来ないでくださいよ」


 オレの限界はループする。またスタート地点に戻って来るもんなんです。


「限界まで壊れた方ですよ……」


 他にも壊れてるみたいに言わないで。オレは正常に稼働してますから。


「はぁー。なぜわたしが……」


「きっと他の見習いさんたちも思ってるでしょうね。もしかしたら、べー様と絡んでないから生け贄にされたのでは?」


「生け贄ってなんだよ? オレは食ったりしねーよ」


「食べたりはしないでしょうけど、報告書を作る量は増えるでしょうね。この短期間でライラさんがげっそりさせるほどの報告を書かされてるんですから」


 それはオレのせいではありませんので文句は受付ません。


「あ、ねーちゃん。こっちは大図書館の魔女、の見習いな。ダリム。こっちのねーちゃんは……なんて名前だっけ?」


「限界の先から戻ってくるの早すぎです」


 オレはいつでも原点復帰できる男なんだよ。


「自己紹介させたいのならべーは下がっててくれ」


 首根っこをつかまれて脇へと退かされてしまった。いや、オレ仲介なんだけど。


「わたしは、ザーネル。アイゼン商会の隊商部頭取をしている。よろしくな、大図書館の魔女殿」


「わたしはダリム。まだ見習いなのでダリムとお呼びください。ザーネル様」


 背中にかけていた帽子を頭に被せてから胸の前に移動させて一礼した。なんとも綺麗な所作をすること。見習いの中では一番ではないか?


「そうか。ではダリムと呼ばせてもらうよ。わたしもザーネルと呼んでくれ。こうして縁が生まれたのだからな」


「はい。わかりました。ですが、年上の方を呼び捨てにはできませんのでザーネルさんと呼ばせてください」


「アハハ。礼儀正しいのだな。ああ、ダリムのいいように呼んでくれ」


「はい。ありがとうございます」


 コミュニケーション能力、と言うより社交性がある、って感じか? 閉鎖された世界でよくこれたげのことができるもんだ。そばかすさんに委員長さんより真面目と言われたのはこの社交性があるからなのかもな。


「んじゃ、自己紹介も終わったし、買い物でもいくか」


 せっかくカムラまで来たんだから名物の漬物でも買っていくとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る