第1482話 室長 2022.01.01
次から次へと本が運ばれて来る。
「ってか、多くね?」
確かに店にはかなりの数があったが、それでも十数人でやってりゃ三十分ともかからないはず。なのに、一時間過ぎても運ぶのが終わらねー。どうなってんの?
「地下に放り込んでおったのを忘れていた」
「地下なんてあったんだ。かなりボロい小屋みたいなもんだったのに」
「置くところがないから掘ったまでだ。城と違ってうるさくないからな」
いや、城で穴を掘ったら怒られもすんだろう。自由か。
「またお主は仕事を増やしているようだな」
叡知の魔女さんがやって来るなり文句を言ってきた。
「オレはしたくない仕事をさせたりはしねーし、嫌なら断ってくれて全然構わねーぜ」
やるやらねーはそちらで決めろ。オレは強制しねー主義だ。
「そちらもこいつには苦労させられてるようだな。帝国の魔女殿」
「苦労では片付けられんよ。百年に一度の災難に襲われたかのようだよ、カムラの老師殿」
なにやら仲がよいご様子。そうなるほど頻繁に会ってたのか?
「じじばばの昔話ならあとにしな。さっさと本を片付けるぞ」
「カムラ王国の大魔術師様と大図書館の館長をじじばばと言えるあなたの怖いもの知らずも大概よね」
「人外をよく見てたら慣れもするわ」
強さで言うならご隠居さんや居候さんが遥かに上だ。それより二段階落ちるじじばばなど見劣りするわ。まあ、どちらも力では計り知れないものを持ってるがな。
「お前が一番の人外だろうが」
「オレは血も涙も出る人の中の人だよ」
「わしらも血も涙も出る人だわ」
「そうなの?」
人外になったら血も涙も枯れるもんだと思ってたよ。
「こいつにかかると調子が崩されて困る」
「然り」
人外に足を突っ込んだ二人から呆れられるオレ。
「いつものことですね」
ハイ、人外に両足突っ込んだやつらから罵詈雑言を受ける村人がオレです。それが、なにか?
「ほら、さっさて手足を動かせ。じーさんも変なところに本を並べられても知らんぞ」
「わかっておる」
それで本を運ぶのを再開。二時間かけてやっと運び終えた。フー。
「しかし、どんだけ溜め込んでんだよ? 国の大魔術師でも集めれる量じゃねーだろう」
「僅か数年で数百冊を集めたお前に言われてもな。いったいどう集めるのかこちらが聞きたいくらいだわ」
「優秀な商人にお願いして金の力で集めた」
本一冊で金貨一枚なんでざら。そして、軽くて嵩張らないもので金儲けができるのだから商人としては張り切って集めてくれるさ。
「非常識な自称村人だよ」
「自称じゃなくてオレは正真正銘村人だわ」
ここ最近、村にいないことが多いけど!
「叡知の魔女さん。今度からここを任せるからじーさんを通してくれや。あ、室長って呼ぶとするか」
数ヶ月後には忘れてそうな気がしないでもないがな。
「そう言う肩書きはもうゴメンなんだがな」
「大した肩書きでもねーだろう。村人んちの書庫を管理するだけの仕事なんだからよ」
「普通の村人のうちに書庫はないし、帝国の魔女が気軽にくる村人の家もないわ」
「ここにあるんだから現実を受け入れろ」
「現実はいつも理不尽だな」
理不尽と折り合えるのが大人ってもんさ。オレはまだ子どもだけど。
「ありがとさん、見習いたち。楽しい報告書制作に戻ってくれや」
なんて言ったら全員から睨まれました。
「あ、あの、館長。このことも報告書にしたためないといけないのでしょうか?」
「いや、しなくてよい。このことはわたしが書く。お前たちは残すな」
叡知の魔女さんの言葉にホッとするも、その言葉に含まれた意味を理解して表情が固くなった。
「うちは別に秘密にしてねーぞ」
「こんなこと言えるか。カムラ王国の大魔術師が他国にとか、アーベリアンの主は文句を言ってこんのか?」
「うちは管轄外っぽい。たまにうちに来るしな」
ご隠居さんなんて避難場所としているくらいだ。じーさんが来たくらいで文句は言わんよ。
「お主の面倒を見ないとならぬ者らに同情するよ」
「オレ、面倒みられるようなことしてねーし」
「聞いたご隠居さんたちが激怒しますよ」
激怒されようとオレは面倒みられてねーし。
「とにかく、ここはじーさんに任せた。そんで、あっちの店はどーすんだ? 放置か?」
「ロイの孫娘。お前に任せる。好きなように処分してくれ。あとでわしから手紙を出しておく」
あ、巨乳なねーちゃん、いたのね。色物ばかりで視界から溢れていたよ。
「一番の色物はベー様でしょうに」
オレは真っ白な心を持つ心優しき村人だよ。って言ったらゴーストに鼻で笑われました。
「わ、わかりました。祖父と父にはわたしからも報告しておきます」
「じゃあ、扉を閉めるぞ。ねーちゃん、ちんたらしたらボブラ村に置いていくぞ 」
カムラ王国とここを繋ぐつもりはねー。臨時な転移結界門は消させてもらいます。
転移結界門を潜り、巨乳なねーちゃんが続いたことを確認繋がりを解除しようとした瞬間、ボサボサ髪の見習い魔女が飛び込んで来た。いや、誰かに突き飛ばされた感じだ。
「ダリム。しっかり付き添え」
叡知の魔女さんの冷たい言葉とともにオレは転移結界門の繋がりを切ってしまった。え?
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