第1458話 桃源郷?

 ハンターギルドの裏の山に墓はある。


 ってだけの情報で出発したのだが、山に続く道がなかった。


「立ち入り禁止か?」


 いや、カイナが教えてくれたのだからそんなことはねーか。ならなんで道がねーんだ? 空を飛んでいけってことか?


「あの山にはじーが幻術をかけてるんだよ」


 どうしたもんかと悩んでいたらレニスの妹が現れた。仕事イイんかい? 重要な立場にいんじゃねーのか?


「あそこはじーの大切な場所だからね。じーが許した人しか入れないのよ」


「なるほど。カイナらしいな」


 自由奔放なクセに大切なものは見せたがらない。まあ、心を許した者にはあけっぴろにはなるがな。


「こっちよ」


 レニスの妹が先を歩き出したので、黙ってあとに続いた。


 茂みに入ったレニスの妹が消えた。


「な、なんてすごい幻術なの!?」


 そばかすさんは、山にかけられた幻術がわかるらしいが、オレはさっぱりである。とは言え、カイナはこんなこともできんだな。器用なやっちゃ。


「いくぞ」


 カイナが許可を出したならなんも恐れる必要ナッシング。茂みへと突っ込んだ──ら、なんの桃源郷だよ? って世界が広がっていた。


「……す、凄い……」


 その驚きには共感できるな。これを見て驚かないヤツはいねーだろうよ。


「桜が満開とか、季節ガン無視だな」


 今は冬だと言うのに桜の花が満開になっている。気温も春のそれだ。幻術で囲んでいると言うより結界みたいなもので囲んでいるって感じだな。


「あまり驚かないのね」


「カイナがやった中では大人しいほうだからな」


 地下にホームセンターを創ったり、ファンタジーな世界に軍隊創ったり、マスドライバーを創ったり、他にもいろいろありすぎてなんだったのか思い出せねーな!


「じー、やりたいことは全力でやるって話だからね」


 自重を元の世界に置いてきたようなアホだからな。


 しかし、あのアホ、植物まで出せたんだな。


 元の世界のものを魔力と交換して出せる(創らせるか)とは聞いてたが、植物までとなるとか危険じゃねーか? よくこちらの神(?)が許したものだ。環境破壊なるんじゃねーのか?


「あなたは桜を知ってるのね」


「オレの知っている桜かどうかはわからんがな」


 季節無視の桜が元の世界と同じなのかどうなのかはわからんわ。


「これ、一年中咲いてんのか?」


「ううん。おばあちゃんが死んだときに合わせて咲くって話だよ」


「ってことは、命日が近いのか?」


「うん。四日後だね。そのときには家族で墓参りにいくわ。じーはうちを出ていってからは来てないみたいだけど」


「……そうか……」


 おそらく、カイナなりのケジメであり、レニスのばーちゃんの願いでもあるんだろうな。過去ではなく未来を見るようにな……。


「また階段か」


 山の頂上だから覚悟していたが、すべて階段とは思わなかった。オレ、階段に呪われてんのかな?


「大丈夫?」


「あ、ああ。まだ大丈夫だ」


 地下からの階段と違ってここの階段はなだらか。それに、景色を楽しめるから苦ではねー。ゆっくり登れば問題ねーさ。


「体力ないわね」


「まったくだ。もっと鍛えねーとな」


 一朝一夕で体力はつかねー。地道に体力作りをしていくとしよう。


「そばかすさんは大丈夫か?」


「……しばしの休憩をお願いします……」


 大丈夫じゃなかった。


「んじゃ、休憩すっか」


 オレはまだ平気だが、そう急ぐ必要もねー。のんびり登っていけばイイさ。


「あんたは時間、大丈夫なのか?」


 もう案内はいらんし、時間がないなら戻ってもらっても構わんよ。


「大丈夫よ。今はそう忙しくないからね」


 冬は閑散期なのかな?


 結界で足場を創り出し、テーブルと椅子を出した。


「あなたも結構非常識よね」


「オレなんてまだまだ常識の範囲にいるよ」


 山一つ結界で包むようなアホと同類にされても迷惑だっちゅーの。


「べー。ケーキ食べたい。あと、紅茶も」


「ケーキはねーが、シュークリームならあるぞ」


 いつ買ったか忘れたが、旨そうと思ってカイナーズホームで買ったものだ。


「紅茶はティーバッグでガマンしろな」


 オレはコーヒー派だが、たまに紅茶も飲みたくなるのでティーバッグをいくつか買っておいたのだ。


 人数分のカップを出してやり、ティーバッグを入れてお湯を注いだ。


「シュークリームはいっぱいあるから遠慮なく食いな」


 確か百個くらいは買った。大食いなそばかすさんでも食い切れんだうさ。


「恵みに感謝を!」


 大図書館ではそう言うんだ。ってか、見習いたち、そんなこと言ってたっけ? 少なくともララちゃんは言ってなかったぞ。


「シュークリームか。懐かしいわね」


「甘いもの嫌いか?」


「ううん。好きよ。ただ、わたしはエクレア派なの」


 シュークリームもエクレアも似たようなものじゃん。とは言わないでおいた。なになに派と言うヤツに「同じだろう」は禁句だと知っているからな。


「ティーバッグで紅茶を飲むのも久しぶりだけど、わたしはレモンティーが好きだわ」


「レモンティーか。それはオレも好きだな」


 缶のやつで、疲れたときに飲むと旨かったっけ。


「ハンターギルドの売店で売ってるから買っていけばいいわ」


「そうだな。覚えてたら買っていくよ」


 何気ないおしゃべりをしながらシュークリームを食べ、紅茶を飲んで休憩をまったり過ごした。 

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