第1459話 墓参り

 百個近くあったシュークリームが完食されてしまった。


「お前ら、どんな胃袋してんだよ?」


 一番食べたのはみっちょん。二番手にそばかすさん。三番手はエクレア派だと言いながら十数個も食ったレニスの妹。ちなみに四番手のオレは二個です。


「このくらい普通よ」


 まず一番普通じゃないメルヘンが普通を語るな。


「あーあ。カレーうどん食べてなかったら四十個はいけたのに。残念」


 なに一つ残念な要素が見つけられない。あなた、最低でも三十個は食ったよね?


「意外と美味しかったからつい食べすぎちゃったわ」


 食べすぎて十数個食うとかありえねーから。


「もうちょっと食べたいところだけど、腹八分目って言うしね。このくらいにしておきましょうか」


 なんか腹八分目の意味が違くね? いや、君にしたら八分目でしょうが、オレから見たら八十分目(自分で言ってて意味わかんねー)くらいだよ。


「べーくん。花*花でシュークリームをもっと置いてよ。人気がありすぎて一人一個しか買えないんだよ!」


「それはサプルかメイドに言ってくれ。オレはノータッチなんだからよ」


 下手に口を出すとメイドさんたちに恨まれる。なんか、花*花って仕事終わりの楽しみになってるっぽかったからな。


「うちの売店でもシュークリームは売ってるわよ。これほど美味しくはないけどね」


「シュークリームが食べれるなら構いません!」


「旨いもんばかり食ってると他の質素なもんが食えなくなるぞ」


「わたし、よほどのものでもなければ美味しく食べれるよ」


 それはまた羨ましい舌をお持ちで。いや、オレもよほどのものじゃなければ食えるか。ただ、美味しくは食える自信はねーがな。


「あ、でも、エクレアも食べたいかも」


「エクレアは自信を持って美味しいと言えるわよ。わたしが厳選したものだから」


「厳選って、どこから仕入れてくんだよ?」


 いや、出所はカイナだろうが、カイナは十何年か外に出ていたはず。それで前世のものがなくならないってどう言うことだ?


「じーが地下にジャスティンを作ったのよ。そこから仕入れてくるのよ」


「ジャスティン? なんじゃそりゃ?」


「んー。簡単に言えば大きなお店かな? 地下百階までいろんなものが並んでいて、エクレアやシュークリームもそこから持ってくるんだよ」


 つ、つまり、カイナーズホームの前身がこの下にあるわけだ。いくらカイナでもホームセンターをあの短時間に創る(出すか?)のが不思議に思ってたんだが、その前に何度もやっていたからか……。


「よく腐らんな」


「おかあさんは、外の時間から離れているから腐らないって言ってたわ。わたしにはさっぱりだけどね」


 あのアホがやることに理解できるヤツはいねーし、魔神級の力を持ったヤツ。そうなんだと納得しておくほうが心穏やかでいられるわ。


「そうか。なら、村に戻る前に売店とやらによってみるか」


 これと言って欲しいものはねーが、どんなものかは興味ある。それに、そばかすさんが「いきましょう!」と目で訴えている。断ったらなにされるかわからんからいっておこう。


「べー。ケーキがあったら買ってよ。わたし、苺のケーキが大好きなの」


「ハイハイ。好きなものを好きなだけ買ってやるよ」


 離れにも置いておくか。いろいろ客も来るしな。


「んじゃ、そろそろいくか」


 出したものを片付け、また階段を登った。


 三十分ほどで階段は終了。煉瓦道がなだらかに続いていた。


「公園になってんだな」


 アスレチックなものや普通の公園にあるものなどがあった。


「小さい頃はよくここで遊んだわ」


 昔を思い出してるのか、穏やかな笑みを浮かべていた。


 煉瓦道を進むと、展望台みたいなところが見えてきた。


「あそこがおばあちゃんのお墓だよ。バリッサナが一望できるように作ったっておかあさんから聞いたわ」


 展望台のような墓に上がると、石板に十字架が立てられていた。


「質素だな」


 あいつのことだから派手な墓を想像してたんだがな。


「おばあちゃんは派手なことは好きじゃなかったみたいよ」


 まあ、それもあいつらしいか。


 無限鞄から梅酒と花を出して添えた。


「初めまして。フローラさん。オレはヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。あのアホの義兄弟だ。あのアホは楽しくやってるから安心しな」


 カイナがカイナらしくいられるのはこの人がいてくれたからだろう。この人がいなかったらカイナは人の心をなくして荒れていただろう。


「カイナを人として接してくれてありがとな」


 礼を言われるためにカイナを愛してくれたわけじゃねーだろうが、あえて言わせてくれや。


 梅酒の栓を開け、ちょっとだけ口をつけてレニスの妹に渡した。


 渡した意味を理解したレニスの妹は梅酒を飲み、そばかすさんに渡し、空気が読めるそばかすさんも口をつけてみっちょんに渡した。


「あら、美味しいわね」


 メルヘンは空気が読めませんでした。


 飲み干しそうな梅酒を奪い取り、残りを墓にかけた。


「義兄弟が愛した人に!」


 祈りはしない。ただ、空瓶を高々と掲げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る