第1397話 吊し上げ

「……量が凄すぎよ……」


 棚から材料を持ってきて、テーブルに並べた色っぽい魔女さんが材料の豊富さに唸っていた。


「気候や時期に左右されるからな、あるときに採取して保存しておくんだよ」


 まあ、オレの結界頼りだが、昔から保存技術や加工技術はある。設備さえ万全なら十年は貯蓄してられるものだ。


「大図書館だって量がスゴかっただろうが」


「当然よ。力を入れているんだから。けど、こんな片田舎にある量だけでもなければ質でもないわよ。白頭って、一欠片でも家が建つくらいの値段がするのよ? なのに原木であるとか気を失いそうだわ」


 帝国では白頭はくとうって言うんだ。朝霧の木って。


「もっと欲しいならオレも持ってるぜ」


 エルフが住む森ではそこら辺に生っている木だ。オレの場合、お香として使ってるけどな。


「是非! 帝国では滅多に入手できないのよ!」


 無限鞄から木材類を入れている収納鞄を出し、朝霧の木を取り出した。


「……木ですね……」


「まあ、木だからな」


 手頃なのを引っこ抜いて収納鞄に入れたからな。あ、枝もいる?


「いただきます」


「邪魔なら切るぜ?」


 細い木ではあるが、長さは三メートルくらいある。力がなきゃ収納鞄から出すのも一苦労だろうよ。


「いえ、このままで構いません。他の者に見せたいので。あの、これはどこで手に入れたので?」


「エルフの森だよ。もっと必要なら発注しておくぞ」


 あんちゃんに話を通しておけばリュケルトに話がいくだろうよ。


「……エルフにも知り合いがいたのね……」


「帝国にだってエルフはいるだろう? 前に神光の氏族のエルフにあったぜ」


 金髪アフロのねーちゃんとパーティーを組んでいる金髪ロングのねーちゃんだ。名前は完全無欠に思い出せねーがな。


「いるにはいるけど、辺境に住んでいて大図書館でも会えないわ」


 まあ、他のエルフも引きこもり。人前に出て来るエルフが変なのだ。


「──ベーが来てるって?」


 と、ラーダの息子が入って来た。


「あ……なんだっけ?」


「ジャルドだよ! いい加減覚えろや」


 あーそんな名前だったっけ。よし、覚えた。


「絶対、忘れる顔だよな」


 ひ、否定はしねー。


「まあ、いいや。って、連れもいたか。いらっしゃいませ」


「ベーくんを見てると、一般の子がまともに見えるよね」


「そうね。なんだかホッとするわ」


 なんでだよ! いや、ジャルドは普通の少年だけどよ。


「デカくなったな。一歳しか違わねーのによ」


 なのに、五センチも差が出てるぜ。栄養ならオレのほうがイイはずなのによ。


「今日はゆっくりしていけるのか?」


「ああ。何日かはいるよ。そういや、妹はどうした?」


 妹はサプルの下だったから八歳か?


「温室にいってるよ」


「温室か。そういや、最初に作ってからいってなかったな。どうなってる?」


 街の外れにあるところに結界ハウスを創って、暖かい地の薬草を育てているのだ。


「今もいろいろ植えてるよ。シュラハの木も大きくなったぜ」


 すももに似た木で、味は熟したマンゴーみたいな味がする実を生らす木だ。試しに植えさせたものだが、ちゃんと根づいているようだ。


「明日にでもいってみるか」


「ああ、そうしろ。今日は泊まっていくんだろう?」


「部屋あるのか?」


 今日は宿にでも泊まろうとしていた。戻るのもメンドクセーからよ。


「うちの隣、宿屋だから大丈夫だ。部屋も綺麗だぞ」


「隣、宿屋だったんだ。気がつかんかったわ」


「夕食はうちで食べていけよ。かーちゃんが料理を奮ってくれるって言うからよ」


「ラーダの料理か。そりゃ楽しみだ」


 調合が上手いラーダは料理も上手かったりするのだ。


「ってか、ジャルドは薬師の修業してんのか?」


 跡取り息子ではあるが、あまり薬師としての才はいまいちなのだ。


「いや、おれは経営のほうを勉強してるよ。商売のほうが向いてるみたいだからな」


「まあ、これだけの規模の店なら金勘定できる者がいたほうがイイだろうな」


「だろう。とうちゃんも売上が多くて帳簿づけを夜遅くまでやってるよ」


 確かに一人で帳簿づけは大変だろうな。あの客入りでは。


「まだかかるのか? また話を聞かせてくれよ!」


 大きい街とは言え、外の世界を知っているものは少なく、話を聞ける機会も少ねー。知りたがり聞きたがりなジャルドは、外のことを求めているのだ。


「んじゃ、さっさと終わらして聞かせてやるよ。少し前まで南の大陸にいってたんでな」


「南の大陸? とうとう海まで越えたのかよ! ほんと、冒険者より冒険者っぽいことしてるよな、お前は」


「オレとしては穏やかに旅行をしているだけなんだかな」


「周りのねーちゃんたちの目がそんなことあるかと突っ込んでいるぞ」


 目を向けたら確かにそんな目でオレを見てました。


「ま、まあ、多少賑やかな旅であったことは否めねーな」


「多少? 賑やか? 波乱しかなかったでしょうが!」


「一生分の波乱を経験したかのようでしたね」


 見習い魔女による吊し上げが始まってしまった。オレが悪いわけじゃないのに……。

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