第1395話 シティスタイル
昼食が終わり、ちょっと食休みしてからバリアルの街へと出かけることにする。
「ちょっと離れているからゼロワン改でいくか」
飛空船場は、バリアルの街から北にある森林地帯にある。距離にしたら五キロくらいか? 村人からしたら大した距離じゃねーが、歩くとなると夕方になっちまう。今日中には、ジャックのおっちゃんと会っておきたいぜ。
魔女さんたちを乗せて出発進行。十分もしないで到着した。
とは言ってもゼロワン改で入ると悪目立ちするので、途中で降りて徒歩で向かった。
冬に来るのはこれが初めてだが、門は開いているんだ。
「お前か。冬に来るとは珍しいな?」
なんか門番のおっちゃんに馴れ馴れしく話しかけられた。オレを知ってるのか?
「毎回おれを忘れるよな。おれが当番のときに来るクセに」
そうだっけ? まったく記憶にねーわ。
「まあ、いい。今日はどうした? 市はやってないぞ?」
「いや、今回は薬所に買い物だよ。材料が切れたんでな」
門番は怪しい者を発見するのもお仕事。それに従うのはよそ者の義務。訊かれたことには素直に答えるのです。まあ、余計なことは言わないがな。
「この寒いのに軽装だな?」
「あ、オレ、正式名は、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。ゼルフィング家の長男です」
毎回、入るときは名乗っている。が、名前記入の義務はなし。どこのもんで来た目的。門番が認め金を払えば入れてくれるのだ。
「ゼ、ゼルフィングって、ゼルフィング商会の者なのか?」
「身分を証明するものは持ってねーが、確認したいなら支店長に確認取ってもらって構わねーぜ」
身分証明書がないってのも面倒だよな。まあ、あったらあったで面倒だけどよ。
「で、入れてもらえるかい?」
「ゼルフィング商会関係者は入れるように通達されている。金もいらない。ようこそバリアルへ」
へー。問題有りのバリアル伯爵領なのに手際がよろしいこと。大老どのの存在が大きいのかな?
「んじゃ、お邪魔させてもらうよ」
と言うことで門を潜った。
冬なだけに門前広場は閑散としているな。隊商はなしか。
バリアルの街も冬はそれほど雪は積もらねー。降っても二、三センチだからまったく来ないってこともなし。何隊かはいると思ったんだがな。
「寂しい街ですね」
「帝都と比べるな。他の国の地方都市なんてこんなもんだよ。バリアルの街は中継都市でもあるからマシなほうだ」
たとえるなら地方の政令指定都市みたいなもんかな? 人口も他より多いしよ。
「まずは薬所にいく」
薬所と言うか、ドラッグストアーになってるけどな。
冬のバリアルの街を眺めながら歩いていると、なにかイイ匂いがしてきた。これは、ブロップを焼いているな。
栗のようなブロップは秋に生り、冬のオヤツになっているものだ。ボブラ村にもなってるが、ほとんど女たちに独占されてるから数えるほどしか食ったことねーんだよな。
……焼いた匂いだけなら毎年嗅いでいるんだけどな……。
「ちょっと買っていくか」
食えるチャンスが来たのだから食わんともったいねーだろうよ。
匂いに釣られて向かうと、ブロップを売る屋台があった。
「おねーさん。五つちょうだい」
ブロップは籠売り。一つ三百グラムくらいかな?
「はい、五つね。ありがとね」
本当はもっと買いたいところだが、そんな大量にあるものじゃねー。街のもんらに顰蹙は買いたくねーからな、ほどほどにしておこう。
魔女さんたちにも渡し、熱々のブロップの皮を剥きながらいただいた。
「食べ難いけど、美味しいわね」
「うん。甘くて美味しい」
「まあまあかしらね」
見習いには好評のようだが、色っぽい魔女さんにはあまりヒットしてないようだ。
まあ、味の好みなど人それぞれ。不味いんじゃなけりゃ問題ねーさ。
「旨いけど、口の水分を持っていかれるな」
「と言うか、歩きながらだと食べ難いわ」
「歩きながら食べれるようになったら一人前だよ」
それがシティスタイルだ。
「あとで食べるわ」
「あ、わたしもそうします。これ、夜に食べたいです」
女は寝る前に食うのが好きな生き物だよな。
無限鞄から手提げ鞄を出して収納結界を施し、見習い二人に渡した。
「それに入れておけ。その十倍は入るようにしといたから」
魔女に手提げ鞄は似合わないが、街の娘なら手提げ鞄の一つも持ってて当たり前。色っぽい魔女さんには似合わなそうだけど。
……どちらかと言えば花街スタイルがよく似合いそうだ……。
「わたしはもういいから二人で食べなさい」
オレは食いたいからあげないよ。
シティスタイルで半分くらい食べてたらジャックのおっちゃんがやっているドラッグストアーに着いてしまった。オレも夜に食べようっと。
「ここがそうなの?」
「ああ。オババの二番弟子がやっているところだ」
そして、バリアルの街で一番の薬所……じゃなくてドラッグストアーだ。
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