第1327話 知らないパンツ

 ……。


 …………。


 ………………。


 知らないパンツだ。


 なんで目覚め一発に小汚ないパンツを見せられにゃならんのだ? 優しい恋人の笑顔なら気持ちよく目覚められるのによ。


「小汚なくないわよ! 毎日三回は交換してるわよ!」


 ゲシゲシと鼻を蹴りつけられる。ヤメテケレ。鼻、折れるわ。


「まったく、四日も眠っていたのに口の悪いのは治ってないんだから」


 四日? 眠ってた? ほぉわっつ?


「……えーと、なんだっけ?」


 なんか記憶が混濁してるな? 寝る前、なにしてたっけ? 思い出せん。


「セーサランに襲われたのよ」


「──あ、そうだ! X5が出たんだった!」


 思い出した思い出した。いやー酷い目にあったぜ。さすが宇宙産。メッチャ強かったわ~。


「X5はあれだけだったのか?」


「今のところあれだけね。ベーの引きの強さは筋金入りだわ」


 なんの得にもならん引きだな。神よ、もっと得ある引きを我に与えてくださいませ。


「体はどう?」


「まあまあだな」


 四日も寝てたから体に力が入らねーが、体に異常はねー。さすが五トンのものを持っても平気な体。副次効果様々だぜ。


「ってか、ここどこよ?」


 知らないパンツで視界が塞がれていてわからなかったが、なんか見覚えがあるようなないような……なんだっけ?


「ヴィアンサプレシア号よ」


 あ、オカンと親父殿に用意した部屋か。まだあったんだ。


 新婚旅行用に仕立てたのであって、終わればサプルの部屋にでもすればイイやと思っていた。まあ、サプルは広い部屋よりこじんまりした部屋が好きだけどよ。


「まだ寝てなさいよ」


「オレの無限鞄を取ってくれ」


 なんか病院着みたいなのを着せられて、ダブルベッドに寝かせられている。手の届かない台に服や無限鞄などが置かれていた。


「エルクセプルならミタレッティーが飲ませたわよ」


「あれは肉体を癒す力はあっても精神までは回復してくれないんだよ」


 しかも、オレは神聖魔法と魔法を限界以上に使った。肉体じゃなく精神体のほうがダメージを負っているはずだ。四日も眠ってたのがイイ証拠だろう。


「はい、無限鞄」


「あんがとさん」


 無限鞄を手のひらに乗せてもらい、魔力回復薬を出して飲み干した。炭酸にしたの失敗だったぜ。


「……少し、楽になった感じだな……」


 魔力回復は精神を癒す、と言われてたが、それが本当かどうかはわからなかったが、楽になったところをみると本当のことだったようだ。


「なにか食うものを頼む。重くないのを」


 食って寝るが一番の回復法だからかな。


「わかったわ」


 メルヘンさんが呼び鈴を鳴らすと、メイドさんが津波のように入って来た。いや、入りすぎっ!


「ベー様、大丈夫ですか!?」


 ミタさんが迫って来て、わんわん泣いている。


「大丈夫だよ。つーか、そっちが大丈夫かだよ?」


 ずっと泣いてたのか、瞼が腫れている。委員長さん、ちょっと回復魔法をかけてやってよ。


 メイドの海の中に魔女さんの三角帽子がちらほらと見えた。


「ほらほら、ベーは大丈夫だから安心しなさい。それより、食事を用意して」


 メイドの海を退かせるメルヘン。君はどれだけの力を持ってるのよ?


 部屋に残されたのはミタさんと武装したメイドさん二人に、叡知の魔女さんと委員長さん、あと見知らぬ魔女さんが二人だ。


「叡知の魔女さん、助かったよ。ありがとな」


 オレだけじゃ倒し切れなかった。おそらくカイナーズでも無理だっただろう。いや、勝てる方法はあるだろうが、消滅魔法がなければ被害は甚大だっただろうよ。


「……お主の非常識には呆れるよ……」


 いつもの無表情が呆れ顔になっている。


「その非常識を凌駕した存在に言われてもな、説得力がねーよ」


 オレが限界以上を出しても倒し切れなかったX5を一発で倒した。しかも、オレが限界まで硬化させた壁ごとな。誰がどう見ても非常識は叡知の魔女さんだろうが。


「非常識なのは消滅魔法でわたしはいたって常識のうちだ」


 それは人外の常識のうち、ってことだよな?


「まあ、その非常識の魔法に救われたんだからなんでもイイよ」


 考えた初代さんに感謝だ。


「体に問題はないんだな?」


「まだ精神疲労はあるがな。あ、魔女って魔力回復薬作ってたりする?」


「魔力回復薬は、秘薬なんだがな?」


「え? そうなの? 普通にオババから教わったけど?」


 基本薬として教わったぞ。


「オババ? 名前はなんと言う?」


 オババの名前? あんのか?


「よい。自分の目で確かめて来る」


 そう言うと風のように部屋を出ていってしまった。お付きの魔女さんを残して。


「──館長!?」


 遅れてお付きの魔女さんたちも部屋を飛び出していった。


「なんなんだ?」


「わ、わからないわよ!」


 委員長さんもわからんらしい。なんだって言うんだ?


「あんちゃん。いっぱい作って来たよ!」


 久しぶりのマイシスター。お前はいつでも元気なやっちゃ。ただ、晩餐会でも開きそうなほどの量はいらないからね。


 ミタさんにタッパーよろしくと視線を送り、サプルの愛情たっぷりの料理をいただいた。旨い旨い。

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