第1300話 ミサギと命名
湖は静かで、生き物の気配が感じ取れなかった。
「おい! 魚だ! 魚がいっぱいいるぞ!」
「…………」
「なあ、獲ってくれよ! 揚げてくれよ!」
茶猫がオレの足に擦りついて来る。猫か! いや、猫だけど! 魂は人なんだから人のプライドをなくすなや!
「チッ。情緒のねーヤツだよ」
まあ、ペ○シとハンバーガーを食うヤツである。情緒を求めるほうが間違ってるか(超絶偏見です)。
「なあなあなあなあ」
鳴き声みたいに言うなや!
「ったく。わかったよ」
結界網を放ち、大漁ゲット。
さっき捕まえた小魚以外にもオレンジの点がある小魚まで混ざっていた。
「意外と生命に溢れた湖だな」
「この小魚はダメだな。毒っぽいものがある」
オレンジの点がある小魚を食った茶猫がペッと吐き出した。
「毒があるとかわかるんだ」
「なんとなくな」
野生の成せる業か?
「その毒は強いのか?」
「死にはしないくらいだと思う。ちょっと苦かったから」
毒は苦味があるとは聞くが、本当にわかってるみたいだな。こいつ、意外と有能だったりする?
「なあ、それより揚げてくれよ!」
食い物には貪欲だな、こいつは。
しょうがないので携帯用の火鉢と鍋、油を出して調理の準備をする。
イイ感じに油が温まったら一匹入れてみる。
「旨そうな匂いだ」
なんの下拵えもしてないのにイイ匂いが漂って来やがるぜ。
「こんなもんかな?」
ほれ、と茶猫にやる。
ハフハフとなんとも旨そうに食うこと。こいつの表情筋ってどうなってるんだろうな?
「旨い! お代わり!」
青汁でも出してやろうかと思ったが、文句を言われるのも面倒なので次を揚げてやる。
「ペ○シも飲みたい!」
「四次元なポケットから出しやがれ」
オレはそんなにペ○シ好きじゃねーから持って──たな。忘れてたわ。
三十本パックのペ○シを出してやった。
爪を器用に使ってフタを開け、ゴクゴクと飲む。もうなにも言うまい……。
「旨い! ゲフ」
「オヤジか」
下品な猫だよ。
次々と小魚を揚げてると、ゴルザ族のヤツが興味を示して来た。
「食うか? ってか、食えるのか?」
猿人って魚食えたっけ? 見た目は木の実とか食ってる感じだが。
「いただけるなら」
「なら、好きに食いな。いっぱいあるしよ」
と、勧めたらオレンジの点がある小魚をつかみ、口へと入れてしまった。いやそれ、毒があるやつ!?
「……旨いな」
「ああ、旨い」
う、旨いの、か? 毒があるんだぞ?
「……だ、大丈夫なのか……?」
オレたちの会話聞いてたよな? それで食えるとかなんなの?
「我々は多少の毒くらいなら問題ありません。多少なら旨味になります」
「普通の食事では物足りないくらいです」
種族によって食うものは違うとわかってはいるが、まさか毒を旨味とか言う種族に会ったのは初めてだよ。
「あ、そう言えば、ゴルザ族は、猛毒のキノコを平気で食べるとか聞いたことあります。住む場所も過酷ですし、そう言う体になったんでしょう」
生き物の進化はおっそろしーな。毒すら食える体になるんだからよ。
「焼いたり煮たりしたものは食えるのか?」
「はい。焼いたキノコはご馳走です」
一応、獣の域から出た種族なんだな。
「じゃあ、もうちょっと捕まえておくか」
また結界網を放ち、小魚──名前がないと不便だな。
「この魚に名前とかあるのか?」
「名前まではわからん。適当につけたらいいんじゃね? 世間に広めるんじゃなければよ」
それもそうだな。オレンジの点がある小魚なんてゴルザ族しか食わんのだしな。
「じゃあ、食えるほうをワカサギ。ゴルザ族が食えるほうをミサギと命名する」
ちなみに見た目詐欺を縮めてミサギにしました。
ワカサギとミサギを分けて結界に封じて無限鞄へと放り込む。
「根絶やしにする気か?」
おっと。放てば大漁だからつい夢中になっちゃったよ。
「二トンもあれば充分だな」
「完全に漁だな」
「ちんたら釣ってる暇はねーからな」
釣糸垂らして釣るのもイイが、今はそんな悠長な時間はねー。向こう岸も見えて来たしな。
「一応、桟橋を創っておくか」
カイナーズのヤツらが使うかもしれんしな。
「ミタさん。先に上陸して桟橋を創るから」
言って空飛ぶ結界でクルーザーを飛び立ち、岸へと上陸した。
土魔法で上陸地を均し、湖に向けて桟橋を創った。
「結局、深くない湖だったな」
真ん中辺りでも五メートルもなかった。水溜まり、って感じの湖だぜ。
クルーザーが桟橋につき、皆が降りたらクルーザーを無限鞄に戻した。
「時間も時間だし、ここで昼にするか」
日が暮れるまでは山の麓に到着できればイイんだしな。
「ミタさん、よろしく」
「畏まりました」
「べー様。付近を偵察して来ます」
「遠くにはいくなよ」
そう注意して、山岳隊が偵察に出ていった。
さて。オレは薪でも集めておくとしようかね。在庫が心ともないんでよ。
「殲滅技が一つ、結界乱舞!」
で、辺り一面の木々を切り倒した。
「うむ。まだ腕は衰えてないな。よかったよかった」
殲滅技も使わないと鈍るからな、たまに出しておかないとよ。
「……お前ってやることなすこと非常識だよな……」
村人にとって日常です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます