第1281話 バルザイドの町へ向け出発
パラリラから帰って来てすぐに寝て、起きたら雨が降っていた。
「幸先悪いわね」
ビニール傘をさした魔女。童話の題名にしたい光景だが、生憎とオレに童話を創る才能はないのさっさと諦めた。
「そうかい? オレは幸先イイと思ってるけどな」
この大陸に来て初めての雨だ。つーか、今まで乾期だったのか?
「どうして?」
「旅は苦難の連続。快適な日のほうが珍しいくらいだ。うちのところでは出発の日に雨が降ると隊商の面々の気が引き締まるって喜ばれるよ。まあ、それは隊商の頭だけだがな」
快晴で心浮かれるより、雨で心落ち込んで苦難があってもそれほど気落ちはしない、ってことらしいよ。
「ところ変われば、ってやつね」
「まーな。朝食を済ませたら出発するぜ」
テントの下で朝食をいただき、コーヒーを飲むことなくメンバーに声をかけて馬車に搭乗させた。
オレはハヤテに跨がる。馬車──ではなく、竜車の御者は村のヤツに任せたからな。
「ザイライヤーが先頭だ。人数は任せる。ルダールは最後尾だ。カイナーズは臨機応変にやれ。では、出発だ!」
「あっさりした出発なのね?」
リジャーに跨がった委員長さん。獣魔──いや、使い魔にしたのか?
「行進じゃねーんだ、派手なことはしないよ」
まあ、村に残るヤツやシープリット族がいるので歓声がスゴいことになってるけどな。
「ところで、この隊商に名前はあるの? 記録するのに不便なのだけれど」
あ、名前な。すっかり忘れてたわ。
「ゼルフィング商会コファー隊にしておけ」
ゼルフィング商会のマークもコーヒーカップにしてあるし、コファーはコーヒーだ。オレが率いるにはちょうどイイ名前だろうよ。
「ゼルフィング商会って、またフィアラさんに怒られますよ」
あ! 婦人に話を通しておくの忘れてた! ど、どーすっぺ?
「ミタさん。金勘定が得意なメイドっている?」
「はい。何人かおります。必要であれば会計部より連れて参りますが」
会計部とかあるんだ。いや、もう何部があっても驚きはしないけど。
「じゃあ、隊商の会計をやらせてくれ。ゼルフィング商会とは別会計にするからよ」
それなら婦人も怒らんでしょう。たぶん。きっと。そうであって欲しいです。
「畏まりました」
できないと言わないミタさんがカッコイイ!
「では、隊商の名簿と給金も決めますね」
「ああ、頼むよ」
これで心配はなくなった。あーイイ旅立ちができてなによりだぜ。
「ベー様! 我らは離れて護衛します!」
雷撃の槍、雷電を掲げた……なんだっけ?
「イップスさんですよ」
カンニング幽霊さん、サンキューです。
「イップス。羽目を外すなよ。やるなら静かにやってくれ」
周りで騒がれたら隊商としていく意味がなくなるんだからよ。
「お任せあれ。静かにやりますとも!」
自信満々にイップスたちがジャングルへと消えていった。
「波乱がないとイイんだがな」
「波乱が起こる前にシープリット族が抹殺しそうですけどね」
だな。魔王でも襲ってこなけりゃ隊商まで辿り着けんだろうよ。
ザイライヤーのビキニ戦士が二人、リジャーに跨がり先頭をいく。
「あの少ない布にどれだけの防御力が秘められてるんですか?」
「防御力ではなく夢と希望が込められてんだろう」
「どう言う意味ですか?」
「女にはわからないことだよ」
オレには上手く説明できんが、男なら感じてくれるはずだ。
軽い荷物を牽く竜車が続き、四台目と五台目の間に入った。なぜか委員長さんも続いて入った。
「なぜここなの?」
「ここが隊を指揮するのにイイからだよ」
まあ、隊商もいろいろだからここが決まりと言うことはねー。先頭にいたり最後尾にいたりする頭もいるからな。
「本当なら隊商にこんな護衛はつかん。イイところ十人くらいだろう。護衛費だけで儲けが飛んじまっては意味ねーからな。オレらはザイライヤーにシープリット族が前と後ろばかりか周りにまでいる。そんな状況で頭は中心近くにいたほうがイイ。なにかあれば指示しやすいからな」
なんてのはこじつけだ。これだけの護衛がいたら竜車でゆっくりしてられるわ。
だが、隊商を組織するなんて初体験。どんなもんか味わうのもイイだろう。またこんなことがあるかもしれんからな。
「まっ、何事も経験。そして、勉強だ。いろいろ学んで失敗しな」
これだけ揃っていればどうとでもリカバリーできる。これからの人生の糧にするんだな。
「そうするわ」
やる気があってなにより。さあ、バルザイドの町へ向けて出発だ!
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