第1268話 シザーハ○ズ

 死んだように眠るシープリット族。死屍累々にしか見えんな。


「……クセーな。こいつらちゃんと風呂入ってんのか……?」


 清潔な獣人もいるが、体毛が多い獣人になるほど獣臭かったりする。特にシープリット族の野郎は鼻を塞ぐほど臭かった。


 種族による臭いはあるからそれを非難することも否定することもできねー。が、ゼルフィング家で働くなら清潔は必至。サプルの合格点をもらわなければならねー。そこに慈悲はなし。ダメなら放り投げられるだけである。


 死屍累々の中を見回しながら歩いていると、赤鬼のメイドがハンカチで口と鼻を押さえているのが目に入った。


 他のメイドも見ると、同じくハンカチで口と鼻を押さえていた。ミタさんは平然としてるけど。


 サプルの薫陶を受けたのか、うちのメイドは信じられないほど清潔だ。きっと体臭もイイのだろう。食から体を変えるからな、サプルってマイシスターは……。


「メイドの髪って、誰が整えてんだ?」


 髪の艶もイイが、髪型も綺麗に切られている。これは誰かが切ってる証だ。


「美容部のメイドです」


 そんな部まであるんだ。うち、なんでもありだな。


「ここにいるかい?」


「はい。四名います」


「それって多いの? それとも少ねーの? つーか、美容部って何人いんのよ?」


 美容部と言うのだから十や二十じゃねーはずだが。


「十四名です」


 あら。意外と少ないのね。需要ねーのかい?


「いえ、センスがあるものが少なくて、増やせないのです」


 センスとか自然に使ってるミタさん。このメイドに勝てるメイドなし、だな。


「サリバリに頼るか?」


 性格に難はあるが、技術とセンスはピカ一だ。いずれ美容師として名を上げるだろうよ。


「王都で忙しくしていると聞いてますから止めたほうがよろしいかと。またプリッシュ様に叱られますよ」


 プリッつあんに叱られようが一向に気にしないが、あのメルヘンは同調者を募るが上手い。集団で責め立てられたら厄介なので止めておこう。うん。


「美容メイドを増やしたいのですか?」


「う~ん。ちょっと悩んでる」


 オレが求めているのはシープリット族の体毛をなんとかできるものだ。


「ゼルフィング家で雇うなら身嗜みにも心がけてもらわねーと困る」


「……ですね。サプル様がいたら荒れ狂ってるでしょう」


 オレですら鼻をつまみそうなくらいなのだ、サプルなら一切の躊躇なく焼却しているところだろうよ。


「シープリット族って風呂入るのかい?」


 まあ、入っている臭いではねーけどよ。


「水浴びはするようですよ。放っておくと虫が湧きますから」


 それならよけいに綺麗にすると思うのだが、まあ、いろいろあるんだろう。


「風呂を造るか」


 野蛮人どもを文明人に導くのも雇い主の役目だ。まあ、風呂に入れるのが文明人の証になるかは知らんけど。


 あらよ、ほらよ、どっこいしょ~は魔法の言葉。ドリャと二十五メートルプールサイズの風呂を土魔法と結界で築いた。


 水は川から引き、こいつまたなんかやってるよと言う目をしながらオレのやっていることを見ていた魔女さんに火の玉を放り込んでもらった。


「ミタさん。カイナーズホームから理髪用のハサミとか買って来てくれや」


「わたしのをお使いください」


 と、ジュラルミンケースを無限鞄から出した。


 持っているのはオレに必要なものとか言ってたのに、理髪用のハサミなんて持ってる……いや、こうして必要になってんだから言葉通りか。この万能メイドは未来でも見えるのか……?


 ジュラルミンケースを開くと、サリバリに作ってやったハサミより優れたハサミが何種類と入っていた。


「ベー様は、髪を切れるのですか?」


「毛長山羊を刈ってたし、サリバリに髪の刈り方を教えたのはオレだぜ」


 サリバリほどのセンスはねーが、毛長山羊を誰よりも刈って来た。シープリット族の毛を刈るくらい雑作もねーよ。


「丸裸にしそうな勢いですね」


 心配めさるな幽霊さん。加減は知っていますよ。


「テメーら! いつまで寝てやがる! さっさと起きやがれ!」


 足元に転がる野郎を蹴飛ばして結界風呂に放り込んでやる。


 深さは二メートルくらいにしたので溺れはしまい。まあ、仮に溺れてもすぐに救うから問題ナッシング。


 次々と野郎どもを蹴飛ばして結界風呂に放り込む。


「ミタさん、石鹸」


「はい」


 ミタさんに手を出したら宇宙の刑事さんが蒸着するより速く石鹸をオレの手に置いた。


 石鹸をデカくして結界斬。幾百に切り分けた石鹸を結界風呂に放り込んだ。


「体を洗え! 綺麗になるまでそこから上げねーからな!」


 反論も抵抗も許さねー。綺麗になる以外、そこから出れるとは思うなよ。


 汚れたお湯を排出しては新しいお湯を投入するを繰り返し、野郎どもを入れ替えして獣臭を消し去ってやった。


「さあ、今からオレはシザーハ○ズ。テメーらを刈り刈りしてやるぜ! シャキーン!」


 ハサミを構え、野郎どもの毛を刈り始めた。うおりゃーっ!

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