第1269話 リサイクル
「うん、飽きた」
安定の飽きっぷりだが、四十人もシザーすれば飽きてもしょうがないでしょ。それでなくともシープリット族は全身毛だらけなんだからよ。
「ミタさん。あとは美容部に任せるわ」
美容部のヤツか知らんが、二十人ばかりでシープリット族をシザーハ○ズしている。
「畏まりました」
なぜかミタさんも混ざっている不思議。シザーがしたかったのか?
「……毛だらけだな……」
ガタイがイイから一人分がスゴい。毛長山羊二匹分になるんじゃなかろうか?
「髪質も毛長山羊みたいだったら使い道があるんだがな」
感じが熊みたいだ。いや、熊より堅いかな?
結界で集めて握れるくらいに束ねてみる。
……タワシくらいの堅さか……?
「メイドさん。お湯とシャンプーを用意してくれや」
近くにいる蛇のような目を持つメイドさんにお願いする。ミタさんはシザーってるから。
「なにするんですか?」
持って来てくれた金盥にお湯が注がれ、シャンプーを入れると、興味を持ったレイコさんが前に出て来た。
……この幽霊、自分がわからないときに前に出て来るよな……。
「ブラシにしたらどんなもんかと思ってな」
プールから上がったときに思ったのだが、シープリット族の毛は撥水性がある。どんな構造かは知らないが、水に強いなら体を洗うブラシにイイんじゃねーかな?
シャンプーを浸したお湯で毛を洗い、完全に汚れ落とす。こんなもんか?
また結界で集め、乾かし、ブラシにできるくらいに束ねて長さを一定にする。
ハサミではバラつきがでるので結界刀で切断。手持ちの糸で毛の中央部を括り、毛が抜けないように編み込んだ。
「こんなもんか?」
見た目はタワシだが、手に感じる感触は少し柔らかかった。
シャツを捲って腕を撫でてみる。オーク毛のブラシよりは堅いかな?
「メイドさん。ちょっと感触を確かめてくんない?」
男の肌にはちょうどよく感じるが、女の肌にはちょっと堅いかもしんねーな。
「肌でよろしいのですか?」
「ああ。無理しない程度にな。あと、差し支えがなければ髪も頼むわ」
なににイイかわからんし、試してくれるならお願いしやす。
蛇のような目を持つメイドさんが頬で確かめ、赤茶色のお団子ヘアーを解いて髪をすいてくれた。どや?
「肌はちょっと痛いですが、髪にはちょうどいいです」
「髪か~」
髪に使う毛はオークの毛が人気だ。シープリット族の毛を使わせるには宣伝が必要だな。
「ベー様。これは筆に使うほうがよろしいかと思いますよ」
筆? 習字をするのか?
「メイク道具です。ファンデーションを塗るときに適してると思います」
化粧のことはよくわからんが、この毛では堅くね?
「鬼族の肌は人より堅いので強い毛のほうがいいんです。カイナーズホームで売っているのは柔らかくて困っていたんです」
まあ、カイナーズホームは基本、人に合わせたものだ。いろんな種族がいる世界では合う合わないはあるわな。
「そう言うの作れるヤツってうちにいるかい?」
「ゼルフィング家にはいませんが、クルフ族なら作れると思います」
クルフ族? って、あいつら機械いじりが得意な種族じゃなかったっけ?
「全員が全員そうではありません。衣服を作るのが得意な者や工芸をする者もいます。クルフ族のメイドを呼んで訊いてみますか?」
お願いと、クルフ族のメイドを呼びにいってもらった。もう一人の蛇のような目を持つメイドさんが。
「ってか、うちにクルフ族のメイドなんていたんだ」
全員、クレインの町(造船所か?)に移ったと思ってよ。
「フミ様のよう職人気質なのは少数です。大体は家庭的な女性が多いですよ」
そうなんだ。フミさんが標準だと思ってたわ。
しばらくしてクルフ族のメイドが三人、シュンパネでやって来た。
……確かにフミさんとは違うタイプだな……。
フミさんはガテン系なら目の前の三人はお嬢様系だ。同じ種族とは思えない差だぜ。まあ、それは人でも同じか。
「この毛を使って筆を作れる職人ってクルフ族にいるかい?」
オレが尋ねると、三人は向かい合って話し合った。
「……バルオット家かしら?」
「そうね。バルオット家ならできるかもしれないわね」
「バルオット家は皆さん手作業に優れてました」
しゃべり方までお嬢様である。どんな環境で育ったんだ?
「なら、そのバルオット家とやらに話を通してくれないか? 作ったものはすべてゼルフィング家で買い上げるからよ」
職人がいるなら囲っておきたい。カイナーズホームばかりに頼るのは危険だからな。
「畏まりました。バルオット家にかけあってみます」
「頼むよ。条件はなんでも飲むからよ」
まあ、飲んでもらっただけの仕事はしてもらうけどな。
「では、すぐに結果をお持ちします」
と、お嬢様ズがシュンパネで戻っていった。
「ってことで、シープリット族の毛を集めてくれや」
捨てればゴミ。活用できるなら資源。リサイクルは世界を救う、である。いや、テキトーに言ってるけど!
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