第1266話 決着
「ナイチンゲールになった気分だな」
いや、やってることは人体実験をするマッドサイエンティストだが、傷ついた戦士を回復させてるのだからよそから見れば神々しく見えるはずだ。
「ナイチンゲールがなんなのかわかりませんが、わたしから見たらご主人様にしか見えませんけどね」
先生と一緒にしないで。アレに並び立つ者はおりませぬ。
「ベー様。そろそろ決着がつきそうです」
ん? ああ。そう言うや、阿鼻叫喚が静かになってるな。
「まったく、死人を出さないようにするのは大変だぜ」
夜な夜な調合していた回復薬が打ち止め寸前だわ。
最初、エルクセプルを使っていたのだが、回復すると阿鼻叫喚に戻ってしまうので、戻れないていどに回復させることにしたのだ。
「魔女さんたち。あとは頼むわ」
委員長さんらも辟易して来た感じだが、この状況をふいにしたくなはないようで、回復と記録に分かれてシープリット族を診ていた。
「わかったわ」
一人……いや、二人は今もやる気に満ちている。まあ、片方は先生のところに預けようかと思うくらい違う方向に走ってるけどな。
……ちなみに、解剖大好きサダコじゃなくてメガネっ娘です……。
死屍累々なシープリット族を避けて山の一つにいくと、さながら決勝戦って感じだった。
「あ、ベー様。そろそろ終わりそうですよ」
ハルバードと担いで高みの見物をしているシープリット族の巌窟王──じゃなくて……ル、ル、なんだっけ? まあ、巌窟王と命名しておこう。
「巌窟王は余裕だな。混ざりたいと思わんのかい?」
「ルダールさんの名前がガンクツオーになりました」
いや、ガンクツオーじゃなくて巌窟王なんだけど……まあ、通じるならなんでもイイや。
「そ、そうか。まあ、ハルバードと同じ名前なのはどうかと思うが、ベー様からいただいた名前なら名誉なことだ」
「なら、ガンクツオーは名字──家名にでもすりゃイイさ」
魔大陸にも名字文化はあるが、よほどの有力者じゃなければ持ってない。いや、一族名はあるのか?
「……家名……」
「強制はしねーさ。オレが巌窟王と呼びたいだけだからな」
オレの中で巌窟王になっちゃったんだからしょうがないじゃない、だ。
「いえ、家名をガンクツオーにします! 子々孫々まで名を継がせます!」
「継がせたきゃそう簡単に死ぬなよ」
一代で終わったら笑いもんだぜ。
「もちろんです! ガンクツオーを与えられ、家名をいただき、誇りを持った今、そう簡単に死んだらそれこそ不名誉。生きて名を轟かせますとも!」
まあ、やる気があってなにより。生きてオレの役に立ってくれ、だ。
「副司令官さんは順当に生き残ってんな」
「バルナド様は昔、魔王軍で将軍をやってましたからな」
副司令官さん、バルナドって言うんだ。あ、副司令官じゃなくなったから、これからは団長と呼ぶことにしよう。
「普通に名前で覚えてあげたらいいじゃないですか」
オレに普通が通じると思うなよ! オレは常にオンリーワンだ!
「……ほんと、理解しようがないベー様です……」
無理に理解されなくて結構です。
「ベー様。五番と三番が決着したみたいです」
と、ミタさん。見てる方々にもボーナス出さんとな。
「団長はどうなったい?」
「おそらくバルナド様だと思います」
「理解してくれる方が近くにいてよかったですね」
なんだろう。スゴくバカにされたような気がするんですけど……。
「……バルナド様は、ダニラオズ様とまだ戦ってますね」
様? そいつも魔王軍の将軍だったのか?
「ダニラオズ様は、カイナ様直属にいた方です。確か、第六機動隊の隊長だったはずです」
「今は、第二遊撃団の団長です」
それじゃ団長が被るじゃないか。どうすんだよ?
団長同士の戦いがどんなものか見にいくと、スローなライフと言うジャンルに相応しくない戦いが繰り広げていた。
「あれ、本当に決着つくのか?」
まだまだ元気に見えるけど。つーか、殴り合いなんだ。
「つきますね。ダニラオズ様が負けます」
「断言するんだ」
「まあ、ダニラオズ様も強いですが、バルナド様は歴戦ですからね、負けはしません」
オレにはさっぱりわからんが、戦士にはわかるのだろう。
五分くらい観戦してると、団長さんの右ストレートが第二団長さんの脇腹にクリーンヒット──からの、左アッパー。それで決着がついた。
第二団長さんが沈んだのを確認した団長さんは、ヨロヨロと第一の旗をつかんで高々と掲げて雄叫びを上げた──と思ったら倒れてしまった。スゴい執念だこと。
「ヤオヨロズに闘技場造って競わせるか」
あれだけの戦いをするなら観客集めて見世物にすれば金になるな。野蛮人どもの血抜きにもなるしよ。
「ミタさん。勇者たちを魔女さんところに運んでくれや」
「畏まりました」
オレも勇者たちの回復の続きをしますかね。
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