第1261話 野蛮人ども

 あれ? オレ、なにしてたんだっけ?


 なんて思ってしまうくらいハヤテに騎乗してジャングルを爆走していた。


 ハヤテも走るのが楽しいようで、グルルと喉を鳴らしている。猫か!


「なんと言うか、この数日でハヤテの体つき、よくなってません?」


 一日の大半をエサ確保に走らなくてよく、栄養満点丸々太ったオークや海竜を腹一杯食べ、充分に休み、ジャングルを爆走する。そりゃ体つきもよくなるさ。


「しかし、野生の生き物がここまで懐くとは思いませんでした」


「野生の生き物だって、エサと安全を得られるなら人に懐きもするさ」


 完全に懐いたわけではねーが、従っていればエサと安全が手に入ると理解する程度には知恵はあるし、強さを示していれば野生は抑えられると、旅の獣使いは言ってたよ。


「マイロード。ミタレッティー様より連絡です。調教が終わったのでこちらに来るそうです」


 初日からリジャーを乱獲して来たアホども。急遽トカゲさんのところに向かい、土魔法と結界で檻を創り、天に召される五秒前のリジャーにエルクセプルを飲ませた。


「アホか! 加減しろや!」


 副司令官に一喝。でも、ありがとよと、酒を渡しておく。


「さすがべー様」


「そんなおべっかいらねーんだよ。ミタさん。ザイライヤー族と一緒に調教してくれや。オレはハヤテを調教してるからよ」


 で、三日が過ぎて、ミタさんから連絡が来たわけですよ。


「了解。オビライ山で落ち合おうと伝えてくれや」


 ドレミネットワークはGPSより優秀で正確。迷わず合流できるだろうよ。


「オビライ山へ向かうぞ!」


 オレの護衛としてついて来たシープリット族のヤツらに叫んだ。


 さすが下半身が狼(サイズは馬くらいある)だけはある。ハヤテに負けない速度を出しやがるのだ。


「シープリット族があんなに速いとは思いませんでした」


 シープリット族は特注の防具をしているので、足元を気にせず走られる。本気を出せば時速百五十キロ以上で走られるそうだ。


「魔大陸の生きもんはおっかねーな」


 他の大陸の生きもんより二段階上をいっている感じだわ。


 魔力強化により持久力もあり、二時間休まず走り続け、合流するオビライ山へと到着した。


 オビライ山は、カイナーズが命名したもので、ここを南大陸の拠点にするらしい。よくは知らんです。


 標高三千メートルはあろうかと言うギアナ高地のテーブルマウンテンみたいな感じなところで、山頂を滑走路にしようとしてるよ。


 ……後世で自然破壊とか言われそうだな……。


 まあ、その頃にはオレは死んでいるし、それがこの世界の流れ。気にしてもしょうがねーや。


 テーブルマウンテン(仮)では工事をしているので、その下──と言ってイイのかわからんど、第一遊撃団の仮基地がある。


 まあ、基地と言ってもプレハブ小屋がいくつか並んでいる程度で、とても基地とは思えない様相であった。


 けど、第一遊撃団の面々は気にしてない様子。それどころかやる気に満ちて原住民化してるよ。


 ハヤテから降り、水飲み場へと連れていき、ミタさんが来るまで休ませる。


 オレも一休みするべく借りたプレハブ小屋へと向かい、メイドさんに軽い食事をお願いした。


 ドレミクッションに埋もれ、差し出されたアイスコーヒーをもらっていただいた。あ~キンキンに冷えてウメ~。


「……あなたは、計画的に事を進めることができない人なのね……」


 おや、委員長さんたちも来てたのね。ご一緒にアイスコーヒーなどいかがです?


「ザイライヤー族がエボーを捕まえたわよ」


「…………」


「完全に忘れている顔ね」


 あ、うん、そんな感じかな? で、なんでしたっけ?


「勇者を探し求めるためにバルザイドの町へいくために荷車を作り、それを引くエボーを捕まえる。なのに、あなたはリジャーを乗り回しているの。思い出したかしら?」


 あーハイハイ。思い出した思い出した。そんなことしてましたね。完全無欠に忘れてました。


「じゃあ、荷車に積むもんを用意しなくちゃな。あ、アイスコーヒーお代わり」


 あ~二杯目もアイスコーヒーがうめ~。


「べー様。魔女さんたちがブチ切れる五秒前ですよ」


 じゃあ、あと四秒はゆっくりしてられるな。なんてふざけてる場合じゃねーな。四方からワンダーワンドを構えられてたら。 


「落ち着けよ。そんなんじゃ一人前の魔女にはなれんぞ」


 なんて余裕ぶっこいて言ってみる。ここは弱気を見せてはヤられる。


「オレがなにも考えず、ただ走り回っていたと思うなよ」


 いや、なにも考えず走り回ってたんだけどね! アレと遭遇するまでは、な。


「遊撃団! 集まってくれや!」


 プレハブ小屋から出てシープリット族を呼んだ。


 遊撃団のすべてがすぐに集まった。


 無限鞄から体長二メートルくらいの一本角を生やした猪を出した。


「野郎ども。これと同じものを狩って来い。一番デカいものを狩って来た野郎にはオレが作ったハルバードくれてやる」


 前に作ったネタ武器を出して地面に刺した。


「さあ、野郎ども。狩りの時間だ!」


 うおぉぉぉぉぉっ! と、野蛮人どもが吠えた。


「オレにシープリット族の力を示せ! いけ、戦士たちよ!」


 張り裂けんばかりの咆哮を上げてジャングルへと散っていった。


 ガンバれ。オレのためにな。


 魔女さんたちの冷ややかな眼差しを一身に浴び、三杯目のアイスコーヒーをいただいた。あーウメーでござる。

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