第1260話 容赦ありません
「お前の名は、ハヤテだ!」
どこぞの執事にいそうな名前だが、疾風の如くがよく似合う走りをする。こいつにピッタリの名だ。
馬具を柔堅能力と伸縮能力でハヤテの体に合うように変化させ、初走りへと出たのだが、なかなか凄まじいスピードである。時速にしたら百キロは出てんじゃねーかな。メッチャおっかねー!
「でも、楽し~い!」
空飛ぶ結界や機械の乗り物とは違う生き物の躍動と振動。オレにはこちらのほうがしょうに合ってるぜ。
「イイぞ、ハヤテ! もっといけぇぇぇっ!」
いき先はハヤテに任せる。
生まれてすぐから調教していれば手綱で操作するのだが、ついさっきまで野生だったハヤテに言うことを聞けとは無茶振りだ。無理にやれば戸惑うだけ。まずはハヤテを理解することが先である。
「べー様。ミタレッティーさんが大変そうですよ」
ミタさん? って振り向くと、空飛ぶ箒──ワンダーワンド(今の今まで忘れてました)で追いかけて来てた。
「よくついて来れるよな」
ハヤテはまっすぐ走ってるわけじゃない。飛んだり跳ねたり右に左にとアクロバティックな走りだ。しかも、ここはジャングル。木々が密集しているのだ、避け切れず弾き飛ばしたりもしている。生身じゃ打撲必至。下手したら激突死だ。
そんなとこワンダーワンドを操り、ハヤテの速度について来れるのだから万能メイドはメチャクチャである。
「わたしから言わせたらべー様もミタレッティーさん以上に万能だと思いますけどね」
「オレの場合は器用貧乏だよ」
万能メイドと一緒にされても困る。オレは凡人なんだからよ。
「とは言え、さすがにワンダーワンドでジャングルの中を飛ぶのはキツいか」
ワンダーワンドにも結界を出せるが、空気抵抗を考慮しながらアクロバティックな飛行をする。いくら万能でも全能ではねー。無理をさせるのもワリーか。
「ハヤテ。スピードを緩めろ」
と言っても伝わるわけねーのでハヤテに結界を纏わせ負荷をかけてスピードを緩めた。
「グルル?」
「ワリーな。不快なことさせて」
よしよし(バシバシ)とハヤテを叩いてやる。撫でるにはハヤテの皮が厚すぎるからな。
「べー様。どうかなされましたか?」
追いついたミタさんが拳銃を構えながら尋ねて来た。あ、オレにではないからね。周囲にだからね。
「ミタさん用にリジャーを捕まえる」
「あたし用ですか?」
「まあ、ミタさん用ってよりザイライヤー族に、って感じだな」
「ですが、リジャーは単独で動く竜ですよ」
「人はそれを屈服させて来た生き物だよ」
と、旅の獣使いが言ってました。
「ハヤテにも番を用意してやりたいしな」
竜種は雌雄が判別し難いのでハヤテがどっちかわからんが、二十匹も集めたら見合うのがいんだろうよ。
「単独で生きてるんだから捕まえるのも大変では?」
「ミタさん。カイナーズ呼んで」
と、お願いしたら五分もしないて三十人くらい集まった。いや、早くね!? どんだけ近くにいたんだよ!?
「全員、獣人族の方ですね」
あ、本当だ。マスクしてたからわからんかったわ。
「シープリット族もいますね」
とは、シーカイナーズの副司令官さんと同じ種族だ。
「お久しぶりです」
「え? 副司令官さん?」
マスクを脱いで現れたのはまさかの副司令官さんだった。な、なんで??
「異動願いを出して南大陸基地第一遊撃団の団長となりました。今はべー様つきとなっております」
カイナーズの人事とか組織とかよーわからんけど、着実に世界規模になってるのは理解したよ。
「ゼルフィング商会もですけどね」
ハイ。ガンバっている婦人に大大大感謝です。
「ま、まあ、出世したのか降格したのかわからんけど、リジャーを捕まえるのに協力してくれや。一匹につき一万円出すからよ」
と言ったらカイナーズのヤツらが百人以上集まってしまった。
……カイナーズは組織として上手くやれてんだろうか……?
「リジャーは結構強い。生け捕りも大変だと思うから傷を負わせても構わねーが、完全に心を折るようなことはするなよ。折ったのは買取り不可だ」
その見極めは結構難しい。なら、やらせんなよと言われそうだが、さすがに一人では無理。十匹中三匹も集まればよしとしよう。
……死体はウパ子のエサにすりゃイイんだからな……。
「わかりました。生け捕りしたリジャーはどこへ運びますか?」
「そうだな? まずはジャウラガル族のところにするか」
トカゲさんたちのところなら驚かれたりはしないだろう。
「了解です。お前ら! べー様からの依頼だ。我らの力を示すぞ!」
鼓膜が破れんばかりの雄叫びを上げるカイナーズども。気合いを入れるのはイイが、そんな痛いほどの魔力を吹き出したら飛竜も逃げるわ。
「チームで挑め! しくじるアホは飯抜きだぞ!」
また鼓膜が破れんばかりの雄叫びを上げてジャングルへと散っていった。
「大丈夫かな?」
なんかスゲー不安なんですけど。
「まあ、べー様よりは大丈夫でしょう」
最近、背後の幽霊の突っ込みが容赦ありません。まあ、突っ込み入れるヤツは大体容赦はありませんけどね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます