第1254話 依頼する
「以上、報告を終わります」
と、青オニーサンがそうシメた。
「あんがとさん。ためになったよ」
どうためになったかは聞かんでおくれ。ガンバってくれた方々を労うために言ったんだからよ。評価制とか言ってたし、認めてやらんとな。
「あんちゃん、町にいくの?」
「いや、まだいかんよ。準備もあるからな」
他種族や村ならまだしも町となると問題がいろいろ出て来る。それをなくすために建前を準備(用意か?)が必要なのだ。
「準備? なにを準備するの?」
「ん~。隊商が無難かな?」
金を出してジャッド村から人を出してもらい、ザイライヤー族に護衛をしてもらえば建前になるだろうよ。
「時間かかる?」
「そうだな。商品の用意もあるから十日くらいはかかるかな~?」
魔物に襲われたなら薬は少なくなってるだろうし、食料も不足していると青オニーサンが言っていた。塩とかも混ぜれば歓迎されんだろう。
「どうかしたのか?」
ついて来たいときは来るなと言ってもついて来るだろうに。
「レニスねーちゃん、そろそろお腹が大きくなって来たから……」
サプルの目を追ってオレもレニスの腹を見た。
「何ヶ月なんだ?」
「ん~? たぶん、五ヶ月くらいかな~?」
恐ろしく雑なやっちゃ。妊婦って自覚あるんか、こいつは?
「安定期かも知れんが、生まれるまで大人しくしてろよ」
オカンもそうだったが、この時代の女は頑丈で腹が膨らんでも仕事しちゃったりする。
薬師の知識だと妊娠者に啓蒙して回ったが、誰も聞きやしねーでやんの。あのときは教育の大事さを知ったときだったぜ。
「大丈夫大丈夫。無茶はしないよ。サプルがこうして監視してるし」
九歳ながら出産には立ち合っちゃってたりするマイシスター。オババの話では結構優れた助手らしいよ。どう助手してるかはわからんけど。
……出産は女の仕事と、薬師のオレでも立ち合わせてくれないんだよ……。
「まあ、サプルがいるなら問題ねーと思うが、自分の中に命がいるってことを忘れんなよ」
男のオレがどこまで言っても子を宿している女には勝てねーが、薬師としての矜持がある。無茶してやるヤツはほっとけねーんだよ。
「わかってるって。死なせたらタカオサに悪いからね」
ふ~ん。まだ相手の男を思ってんだ。
「今からいってかっさらって来たらどうだ?」
仲間のために残ったらしいが、オレだったら仲間に恨まれようがさらって来るがな。
「タカオサなら死なないだろうし、子どもが会いたいと言ったときに会いにいけばいいよ。わたしも会いたくなったときに会いにいくしね」
なんともサバサバした女だこと。
「そう言うところはカイナに似てんだな」
あのアホは情に厚いが、妙に割り切ったところがある。それならしょうがないって感じでな。
「よく言われる」
なぜか嬉しそうなレニス。あいつに似て喜べる理由がまったく理解できんわ……。
「まあ、無理だけはするなよ。メイドさんたちも頼むな」
サプルについてるかレニスについてるかわからんが、メイドが二人、常についている。あと、ドレミから分裂した茶色い猫も。あ、茶色い猫で思い出した。ぺ○シ好きの茶猫(名前は完全に忘れました)、なにしてるんだろうな?
「「お任せくださいませ」」
「二人はシフが選んだのでご安心ください」
二代目メイド長さんが選んだってだけで得られるこの安心感。末長くうちを支えて欲しいものです。
「じゃあ、ジャッド村に戻るか」
「あ、あんちゃん。あたしたちは一旦館に戻るね。サラニラさんに診察してもらわなくちゃならないからさ」
「サラニラに診てもらってんだ」
あ、あんちゃんの嫁さんで医師ね。覚えてる?
ってか、医師としてやってけてんだろうか? それともゼルフィング家のお抱えになってんのか?
「うん。集落にも診にいってるよ」
そっか。ちゃんとやっててなによりだ。
「じゃあ、またな」
自由気ままなオレたち。離れていても心は繋がっている。会えるべきときに会えば充分さ。
サプルらと別れ、オレらはジャッド村へ転移した。
「村長とザイライヤー族の長を呼んでくれ」
ミタさんにお願いして、二人にカイナーズのキャンプ地に呼んでもらった。
「村長。すまないが二十人ほど借りたい。隊商として町に連れていきたいんだよ」
「……あ、え? ど、どう言うことだ……?」
あれ? 今の説明でわからなかった? 簡素に纏めたのに。
「町──バルザイドって知ってるかい?」
「あ、ああ。サイルアン党の本拠地だ」
サイルアン党? あ、ああ。この村もサイルアン党の所属? だったっけな。
「ってことは、勇者ちゃんは、あっち方面にいったってことか」
まだ頭の中に地図を描くことはできねーが、距離や東西南北がわかればなんとなくは理解できる。
「そのバルザイドの町に入りたいんだよ。オレらじゃ目立つだろう? だからそのカモ──擬態として村の者を借りたいわけよ。あと、ザイライヤー族には護衛としてついて来てもらいたい。もちろん、報酬は出すぜ」
うちが支援しているとは言え、いつまでもオレらがいるとは思ってねーだろう。立て直しは考えているはず。なら、オレの誘いは渡りに船のはずだ。
「村の者と話し合っていいだろうか?」
「ああ、構わんよ。こちらも用意することがあるからな」
「ザイライヤーは受けさせてもらう。バルザイドにはいきたいと思っていたからな」
それはなにより。
「じゃあ、準備を進めておいてくれや」
さあ、オレもやったりますかね。
隊商と言ったら馬車。竜はともかく荷車を用意しなくちゃならねー。フフ。久々に工作を勤しむとしようじゃねーか。
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