第1253話 オレ、なんかやっちまった感じです

 今すぐ勇者ちゃんを捜さなきゃ!


 と、言うわけにはいかないか。まだ、魔女さんたちによる薬草採取や調合、解剖や回復魔術が続いているし。


「ミタさん。この周辺の地図ってできてる?」


 カイナーズが地図製作してたはずだ。


「周囲百キロはできております。南西方向に町がありましたので探索班を侵入させているそうです」


「仕事が早いこと」


「カイナーズは評価制ですから」


 なにを評価するかは知らんけど、カイナーズで働くのも大変そうだ。


「町ってどのくらいの規模なんだい?」


「人口は約二千人。南大陸人がほとんどで、バルバラット族系が数十人いるそうで」


 バルバラット族? なんだっけ?


「トカゲさんたちです」


 と、ドレミさんが教えてくださいました。あーハイハイ。トカゲさんね。思い出した思い出した。


「町まで遠いのかい?」


「距離はありますが、シュンパネが使えるのですぐにいけます」


「なら、一度いっておくか」


 転移バッチに覚えさせておけばいつでもいけるしな。


「畏まりました」


 と、いったことがあるカイナーズの者を呼び、なぜか女性陣までいくことになった。君ら、暇なの?


「暇をもて余した村人に言われたくないわね」


 べ、別に暇をもて余してなんかいねーし! 毎日有意義に生きてる村人だし!


 口で勝てないのでムーとするだけ。さあ、青オニーさん。町に飛んでおくれ。


「で、では、いきます」


 シュンパネは接触する必要ないからイイよな。


「バルザイドへ──」


 視界がブレ、浮遊感に襲われたと思ったらすぐに引っ張られる感覚。ゲームのアイテムだからか、なんか人に優しくないよな。


 転移バッチのよさを痛感してる間に視界が戻り、町の門? の前に到着した。


「ここは石組なんだな」


 近くに砕石所でもあるのか? 町を囲う壁の高さが十メートルくらいある。


「壁が高いってことは巨大な魔物が襲って来るのかな?」


 さすがカイナの孫だけあってレニスの脳は戦闘脳である。


「そうだな。道具を使う魔物っぽいな」


 三メートルの高さになにかで叩いた痕がある。おそらく、石斧みたいなもので叩いた感じだ。ってか、最近つけられた感じじゃね? 土もなんか荒れてるし。


「ミロードかな?」


 ミロード? 初めて聞くな。どんなのだい?


「大猿の一種で、五歳くらいの知恵がある魔物よ。結構いろんなところにいるわ」


「そうなのか? うちの近くに猿はいなかったがな」


 ゴブリンはよく出たが、猿系はまったくいなかったぞ。


「そうなんだ。平和な村なんだね」


「昔、ベーが山に住む生き物を根絶やしにしたことがあったって聞いたけど」


「あんちゃん、熱中すると止まらないから」


 そ、そんな過去もありましたね。イイ思い出です。まあ、山の生き物にとっては悪夢だったろうけど!


「ベー様」


 と、麻の貫頭衣を纏い、人族の男が駆けよって来た。カイナーズのヤツか?


「おう。ご苦労さん」


「こちらへ」


 まだ明るいのになぜか人の往来はないが、この大陸の格好をしてない。目撃されると面倒だと、男の指示に素直に従った。


 ……種族が違うと衣服の違いってそれほど気にならないもんなんだぜ……。


 貫頭衣の男に連れられたところは町から百メートルほどジャングルの中。開けた場所にテントがいくつか張られ、ジャングル仕様の迷彩服を着たカイナーズがいた。


「こちらへどうぞ」


 一つだけ大型のテントに案内され、席を勧められた。なんでや?


 なんかよくわからないままに出された薄味のコーヒーを出され、なんかA4の紙を束ねたものを配られた。いや、だからなんでよ?


「バルザイドは数ヶ月前に魔物の大群に襲われたそうです」


 と、赤鬼さんが語り始めた。


 空気が読めるオレとしては「なんでやねん!」とは突っ込めねー。真面目な顔で紙の束を捲ってみた。


 誰がどう調べたか謎だが、バルザイドの町の地図や店の名前が書かれ、写真も添付されていた。


「大群の大半はミジルグと呼ばれる大猿で、ヤンキーがつき従っていたようです」


 なに気にゴブリン猿がヤンキーと言う名称になってます。オレ、なんかやっちまったか?


「それにしては被害がなかったね?」


 空気を読まないレニスが疑問を口にした。黙って聞いてやれよ。赤鬼さんの見せ場なんだからよ。


「バルザイドを訪れた勇者ちゃんが撃退したようです」


 ん? 勇者ちゃん? もしかして、勇者ちゃんは勇者ちゃんとして呼称されてんのか? オレがそう呼んでるからそうなったとか?


 今さら勇者ちゃんの名前を聞いたところでオレの中では永久に勇者ちゃん。なんら問題ねーのだが、このやらかした感はなんだろう? 


「へ~。勇者ちゃんって強かったのね」


 メルヘンさんも勇者ちゃんで認識されてんだ。なら、空気が読める者としてはサラッとサラサラ流しましょう~、だ。


「はい。バットで無双したようです」


「ん? バット?」


「なぜに?」


 メルヘンさんやレニスが?の花を頭に乗せているのを見て安心した。


 皆さん覚えているだろうか? オレが勇者ちゃんに金色夜叉こんじきやしゃを与えたことを。


「そう言えば、勇者ちゃんって剣とか持ってなかったわね? なんで?」


 と、オレに問われても困りますぜ、メルヘンさん。


「前に聞いたら、剣は十歳になってからと言われたみたいだよ」


 と、マイシスターが知っていました。


「まあ、剣とか持たせちゃダメな性格よね、あの子……」


 メルヘンから痛い子されてる勇者ちゃん。まあ、異論はないので黙ってますが。


「そんな子にバット? を持たせたのって……」 


 全員の目がオレに集中される。


 オレ、なんかやっちまったようです。

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