第1248話 ただの人なんですが……
採取そっちのけで委員長さんと回復魔法談義に花を咲かせていた。
委員長さんの回復魔法は、まだ弱く、擦り傷を回復する程度。だが、それはまだ抑えているから弱いのであり、もっと魔力を注げば切り傷までは回復させられるらしい。
「とにかく魔力を食うのよ」
「それは、無理矢理回復させてるからじゃねーの?」
「無理矢理ってどう言うこと?」
「体のことをなにも考えず、魔力押しで治してんじゃねーかってこと」
「体のこと? どう言うことかしら?」
「う~ん。どこから説明したらイイかな?」
人体解剖とか細胞とか知らんヤツにどう説明したらよいのやら。それが一番の難題だぜ。
「これは大雑把な概念だが、人は小さな小さな粒でできているとされている。小さすぎて目では見れない」
だがと、結界で顕微鏡を創り出し、近くにある葉をむしって葉を何十倍にも拡大してやる。
「本当ならもっと拡大したいんだが、オレの力じゃこれが限界だ。もっと技術が上がれば何百倍も拡大されるんだがな」
そこは未来の技術者に賭けるしかねーな。
「まあ、今はイイんだ。つまり、人は小さな小さな粒でできていると考えて、人の体を考えていくんだよ」
オレもそこまで賢くねーし、昔すぎて忘れていることもある。そんな雑な説明ながらも委員長さんは真剣に聞いている。
「すまんな。凡人にこれ以上の説明は無理だわ」
「それだけの知識があって凡人と言われても嫌みにしか聞こえないわ」
「凡人でも勉強すればこのくらいになると言うイイ見本だ。あんたはオレより賢いんだからオレ以上になるさ」
委員長さんは、天才ではねーが、秀才ではある。向上心もあるし、しっかり学べば五年で追い抜かれるだろうよ。
「まあ、オレからアドバイス──助言できるとしたら人型の魔物を解剖してみて、体の構造を知るとイイ。慣れたら人に移って、罪人なんかを実験台にすれば飛躍的に回復魔術は発展するよ」
人を回復させる者は人を破壊するのにも長けている。とかなんとか言った人がいたような? いないような? まあ、それは真理だとオレは思う。なんたって先生がそうだしな。
「……す、凄いこと言うのね……」
「綺麗事だけで人の体は理解できんよ。オレの知識だって何千人何万人の犠牲の上にあるものだし、オレだって知るために何千もの命を奪って来た。それを綺麗事にするつもりはねーぜ」
命を奪って生きているんだ、なんの罪もねーなんて言えねーよ。
「……そう……」
若い娘には酷なことだろうが、回復魔術を極めたいのなら避けては通れない。人と接していかなくちゃならないんだからな。
「まあ、あんたなら大丈夫だろう。理性は強そうだからな。オレの先生は探究心が強すぎて魔王になりかけたからな」
まあ、魔王と言っても過言ではねーが、本人は魔王になってないと言うのだから生徒としては言い分を尊重してやろうじゃないの。
「……魔王とも知り合いなの……?」
「魔王どころか勇者にも知り合いがいるぜ。ここにいる理由も勇者と会おうと思ってのことだしよ」
いや、おもいっきり道草してますけど!
「……冗談に聞こえないんだけど……」
「冗談じゃないからな。帝国には勇者いねーの?」
いるって聞いたことねーけどよ。
「いるわよ」
「え、いるの!? マジで?!」
まさかのこにビックリしてしまった。
「わたしは会ったことはないけど、風の勇者と呼ばれる方がいらっしゃるわ」
ん? 風の勇者? あれ? どっかで聞いたことあるぞ? どこでだっけ?
「マイロード。創造主様を追っていた者です」
「あ、エリナを追ってたヤツか!!」
昔……でもねーが、いろいろ濃い日々で忘れったわ。
「……あの勇者、帝国の勇者だったんだ……」
まさか風の勇者のことを今知るとはな。ほんと、ビックリだわ~。
「勇者って、他にもいるものなの? 帝国では一人しかいないけど」
「ま、まあ、勇者の定義なんて国それぞれだからな。うちの国の勇者は神託らしいけどよ」
勇者ちゃんは転生者だ。神(?)に三つの能力をもらっただろうが、前世の記憶は持って生まれなかった。
どう言うことかは永遠に謎ではあるが、ないことで国はさぞや混乱しただろうよ。敵もいないのに勇者なんて神託を受けたんだからよ。
「あなたの国、アーベリアン王国、だったかしら?」
「ああ。そうだよ。帝国からしたら小国すぎて知らないだろうがな」
「そうね。ここに来るまで名前さえ知らなかったわ」
「そうなんだ。人外の間では有名らしいがな」
特にグレン婆が、だけど。
「あんたも人外を目指すならアーベリアン王国のことは知っておいたほうがイイぜ。ヤベーのがたくさんいるからよ」
どうヤベーかは話さないでおくがよ。
「そうね。じっくり知っていくわ」
なぜオレを見て言うんです? オレは人外じゃなくただの人なんですが……。
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