第1240話 ドレミネットワーク
ジャット村に逃げられたザイライヤー族は六十人くらいで、半分がヤンキーに殺されたそうだ。
弱い者から死ぬ道理(摂理か?)なのか、病人はいず、年よりも少なく十歳以下がいない。一族を纏める者と現役だけが生き残った感じだな。
普通なら滅び一直線だろうが、ザイライヤー族は女だけの集団。各地を回り、女児を引き取り育てることで成り立っている。
女がいる限り滅びることはない。のだが、よく成り立っていると感心もする。環境か掟か教育か? 民族学者なら気になるところだろうよ。
まあ、オレは民族学者ではなく薬師である。ザイライヤー族の薬師のほうが一番気になるでござる。
「薬師を見捨てないとは、ザイライヤー族はちゃんとしてるのだな」
それだけでザイライヤー族が長く続いていることがわかるぜ。
「知恵は一度失うと取り戻すことはできないからな」
長的──いや、現長さんがきっぱりと言う。教育もしっかりしているようだ。
「そう言えば、この大陸では薬学が遅れていると聞いたのだが、ザイライヤー族はそうでもないのか?」
薬師がいることに意識がいってしまったが、南の大陸は薬学が遅れていることを思い出した。
「昔、ザイライヤーは別の大陸から来た者も受け入れたことがあるらしい。そのときに薬師もいたらしく、それから少しずつ学んで来たそうだ」
歴史もちゃんと受け継いで来てるのか。想像以上にしっかりした一族だな。
「薬師は何人いるんだ?」
「一人だ」
「弟子はいるのか?」
その問いに長は首を左右に振った。死んだと言う意味だろうな。
「なら、オレが支援するから薬師を増やしてくれ。南の大陸の薬学を絶やしたくないんでな」
それは人類にとっての損失だ。まだ残っているなら絶やしてはならぬ。
「なぜ、そこまでする? お前になんの得があると言うのだ?」
「知識は財産。歴史は指標。経験は力。先へ繋ぐものだ。ましてや薬師なら繋いで来たものの価値は金より重い。いくら金を出しても買えるものではない。今を生きる者が守り、受け継がせるのが役目だ」
先人に報いるために今を生きる者は次へと残す。少なくともオレはこの知識や技術を次に残すために今を生きているぜ。
「なんて、立派なことを言ったが、早い話、あんたらの知識を代価としていただきたいってことだよ」
薬師としては喉から手が出るくらい欲しい知識だ。自分の持っている知識を差し出しても惜しくないわ。
「……我らの知識は、お前が持つ知識より劣るものだぞ……」
「知識は積み重ねだ。なに一つ劣るものはない。劣るとしたら知識を蔑ろにするヤツだ」
忌むべき者は知識を蔑ろにするアホだ。それで失った知識の多さよ。そこにいたら全力でぶっ飛ばしてやるわ!
「まあ、ザイライヤーの秘匿だと言うなら諦めるさ。大事に仕舞っておけ」
渡せないと言うならないものとして諦めるさ。ただし、それ相応のもので払ってもらうがな。
「それで貴重な薬をいただけるなら我らに異存はない」
各地を渡っているだけに交渉力や損得勘定はあるようだ。強かだな。
「お互いの利が叶えられた。オレ、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングの名に誓ってザイライヤーの望みに応えよう」
この地で名前に誓うことがどれだけのものかわからんが、誠意を見せるには名前に誓うのが無難のはずだ。
「ああ。ザイライヤーの名に誓い、お前の望みに応えよう」
契約は交わされた。よかったよかった。
「わしはダイニー。ザイライヤーの薬師だ」
ザイライヤーの薬師──見た感じ六十前くらいのばーさんが連れて来られ、紹介された。
「長い名前があるが、ベーと呼んでくれ。薬師だったり商人だったりする」
村人が本職だけど。
「まずはオレの作った回復薬の効能を見せるよ」
ケガ人を呼んでもらい、回復薬の効能をばーさんに見せた。
「……ふざけた効能だね……」
「それがわかると言うことは、回復薬はあるんだ」
ラーシュの手紙でな軟膏程度の傷薬があるらしいが、ファンタジー薬はなかったはずだ。
「あるにはあるが、材料を集めるのが大変で重症な者にしか使えんよ。もちろん、もうない」
ヤンキーに襲われ、一族の半分を亡くし、籠城していればそうだろうな。
「材料は時期関係なく集められるのかい?」
「時期は関係ないが、場所が問題だな。肝心なボミーが崖に生る。しかも、そこにはミズリと言う羽虫がいる。ミズリは小さいが、群れで襲って来て血を吸うのだ」
血を吸う? 蚊か?
「ボミー以外は簡単に集められるのかい?」
「ああ。他はそこら辺に生っているよ」
それは朗報。もう採りにいくしかないじゃない。
「ドレミ。ミタさんと連絡取れるか?」
インターネットより通信範囲が広いドレミネットワーク。ここからでも通じるはずだ。
「はい。あと二十分内にはいきます! だそうです」
ピザ屋より速いミタさん。安全運転でお願いします。
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