第1239話 治った

 この村は、ジャッドと言い、今は近隣の村の者がここに避難して来ているそうだ。


「それでは食料も足りなくなるわな」


 村の規模の割に人が多いと思ったらそう言うわけか。


「魚はたくさんある。まずは腹を満たしな」


 鯵のような魚とパンケーキ、あと、一日中詰めさせられたたい焼きを出してやった。


 組み合わせワリーな。とは言っちゃイヤン。皆さん喜んで食べてるんだから。


「長殿。あの女戦士はどう言う集団で? 衣服からここの者とは思えないのだが?」


 村の者は麻のような貫頭衣を着ているのに、アマゾネスのオネーサマたちは革のビキニアーマーを着、槍に小剣を腰に差していた。


 ……文明と言うより文化が違うって感じだな……。


「あの者らはザイライヤーと言う渡りの部族じゃよ」


 なんでも女だけの部族で、この大陸中を渡り歩き、傭兵稼業で食ってるらしい。


「珍しい部族だ」


「手を出すのは止めておけ。ヤツらの掟か教義か知らんが、男と交わることは罪とされてるそうだからな」


 交わる気は欠片もないが、成り立ちにはスゴく興味はある。本にして売って欲しいぜ。


「それはおっかねーな。なら、近づかないでおこう」


 今は勇者ちゃんのことに集中したいしよ──と思ったら、あちらから接触して来ちゃいました。


「少し、よいか?」


 三十半ばくらいの赤毛の女と右目に眼帯をした短髪女。感じからして部族の長とエースってところかな?


「ああ。構わんよ。なにか用かい?」


「商人と聞いたが、薬があったら売って欲しい。金は払う」


 と、長的な女。エース的な女はオレを牽制するように睨んでいる。


 ……金髪アフロのねーちゃんよりは劣る感じだな……。


「売ってくれと言うなら売るのが商人だ。他にも入り用なら言ってくれ。なんでも、とは言えないが、大抵のものは用意しよう」


 場所を広場へと移し、土魔法でコの字の台を創り出す。


「薬は傷薬から熱冷まし、虫下し、女の月もの、痛み止め、等々。どれも上物だ。あと、高額になるが失った腕すら生やす薬もある。と言うか、オレは商人でもあるが薬師でもある。よほどの重症や難病でなければ診てやるよ」


 まあ、南の大陸特有の病気だったらどうしようもねーが、処置しねーよりはマシなことはしてやれるつもりだ。


「薬師、なのか?」


「まあ、作るほうが得意の薬師ではあるがな」


 オババのお墨付きだぜ。


「そっちの。その眼帯をしているほうの目は病で色を失ったのか? それとも戦いで失ったのか?」


 エース的アマゾネスのオネーサマに尋ねる。


「……戦いで失った」


「なら、オレの腕がどんなもんか教えてやる。これを飲め」


 エルクセプルを突き出す。


「いいだろう」


 と、なんの躊躇もなくエルクセプルを受け取った。


「封を切ったらすぐに飲め。それは封を切ると同時に劣化するんでな」


「わかった」


 封を切り方を教えたら躊躇いもなく行動してエルクセプルを口にした。


「──うっ」


 呻き声を出して右目を押さえた。


「それは治るときの痛みだ。我慢しろ」


 親父さんのときも痛みを感じたと言うから目もそうなんだろう。ただ、その痛みがどれだけのものかは本人しか知らない。親父さん、我慢強いから参考にならんのよね。


 このオネーサマも我慢強そうだし、訊いても大したことないって答えそうだ。


「体にある傷も治ったのはご愛敬だな」


 金髪アフロのねーちゃんに比べたらないに等しいが、オネーサマの体のあちこちにあった傷がなくなり、素敵な小麦色の肌へとなった。


 ……もしかして、傷があったほうが肌を回復させる力があるのか……?


 これは検証の価値ありやね。他にも飲ませてみるか。


「……ジール。どうなのだ……?」


 長的な女の呼びかけに、オネーサマは眼帯を取った。


 琥珀色の瞳には力が宿っており、自分の手を見て、長的な女を見て、あちらこちらへと目を向けた。


「治ったようだな」 


「……あ、ああ。よく見える……」


 そう言うと、回れ右してどこかへと走っていってしまった。


「すまない。治してもらって……」


「誰にだって見せたくない涙はあるもんさ。気にしてないよ」


 治った。薬師にはそれがすべてさ。

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