第1237話 神の手
歩き始めてすぐ、斜め横を歩いていたドレミがオレの前に出た。なんや?
「猿のような生き物です」
道の先に猿のような生き物が団体さんでたむろしていた。
「ヤンキーか?」
「ヤンキーがなんなのかわかりませんが、なにか食べてるみたいですよ」
霊視で見てるのか、たむろしているヤンキーがなにをしているかわかるらしい。なに食べてんの?
「……人、っぽいですね……」
「弱肉強食な世界は厳しいや」
魔物がいる世界。弱い者が食われることに怒りを感じることはねーが、人としての感情は持っている。不愉快って感情が、な。
「まったく、人は傲慢だぜ」
「人だと言ういい証拠じゃないですか」
レイコさんの返しに肩を竦めてみせた。まったくもってその通り。なら、人らしく生きましょうかね。
「殲滅技が一つ、殲滅拳!」
とは、土魔術で創り出した砲弾を結界筒に入れてぶん殴って撃ち出す技である。
本当はサプルが創り出す砲弾が威力も高く精巧でもあるのだが、獲物が竜じゃないのだからオレの土魔術で創った砲弾で充分である。
撃ち出された砲弾はヤンキーどもに命中。土砂が噴き上げた。
「……えげつな……」
うん。殺戮技だし。
「さらにもう一発っ!」
止めとばかりに撃ち込んでやる。
「マイロード。二時方向から群れが来ます。いろはに捕獲させますか?」
「いや、オレが殺る。鈍った感覚を取り戻したいからよ!」
戦闘のセンスは皆無だが、殺戮センスはあると自負する。
「嫌なセンスですね」
うっさいよ! ないよりはあったほうがイイんだよ! こんな弱肉強食な世界ではな!
「殲滅技が一つ、殲滅乱舞!」
と言うほど乱舞にはなってないし威力も落ちるが、ヤンキーにはすぎた威力。木々を薙ぎ倒し、土を吹き飛ばし、血吹雪が舞う。
「……なるほど。ミタレッティーさんたちは、ベー様に戦わせないようにしてたんですね。被害が大きすぎて……」
いや、ミタさんやカイナーズの連中が戦ったほうが甚大で迷惑だと思うんですけど?
「……まあ、どっちもどっちですけどね……」
あ、うん。そうだね。否定はできませんね。この状況では……。
「殲滅技の向上のためにはやむなし!」
命は命を得て生きている。だからオレは弱肉強食を肯定するし、強い者の糧になっても恨みはしない。弱い自分が悪いと死んでやるさ!
「ドレミ。ヤンキーの反応は?」
「何匹かはいますが、大体は遠ざかりました」
「まだいるんかい」
大暴走はよくあるとは言え、ここのは多くないか? 千は軽く超えてそうだぞ……。
「まあ、一万は超えたこともありますし、まだいいほうじゃないですか?」
魔大陸で蟻の群れ見たしな、千や二千、騒ぐことではねーな。
ヤンキーがいなくなったので先を進み、三キロくらい歩くと、脇道が現れた。
道幅や轍のあとからして主要道だろう。レイコさん。確認よろしこ。
「木の柵で囲まれた村がありました」
木の柵? それはまた貧弱なところに住んでるな。ちょっとした開拓村でも丸太壁に囲んでいるってのによ。
「被害は出てそうかい?」
「いえ、被害が出てるようには見えませんでしたね。ただ、厳戒態勢のようでした」
まあ、ヤンキーがあれだけいれば厳戒態勢にもなろうわな。
「厳戒態勢ならこのままだと不味いな」
ヤンキーが溢れるところに村人ルックで現れたら怪しいどころか不気味でしかねー。即攻撃されても文句は言えねーよ。
「どうするんです? 幽霊のわたしが言うのも変ですが、あり得ない組合せですよ」
村人、幽霊、幼女メイド、これの関係性を見抜けたヤツは頭狂ったヤツに違いないわ。
「ドレミ。金髪アフロのねーちゃんに姿を変えられるか?」
あのインパクトある姿はここでも通じるはずだ。たぶん……。
「はい。問題ありません──」
と、金髪アフロのねーちゃんにトランスフォームした。
「そう言えば、大人バージョンだったのになんで幼女バージョンなんだ?」
バイブラストでスライムを吸収? して容量増えたんじゃなかったっけ?
「小回りが利かないので止めました。ベー様の視界を塞ぐことにもなりますから」
「ベー様ならあるものでも見えなくすると思いますけど?」
そんな能力ねーよ。スルーしてるだけだ。
「轟牙装着!」
を着て結界でこの大陸の風貌にして革鎧に変える。あとは、大剣を背負わせればイイだろう。
「よくそんな大剣持ってましたね?」
「狂戦士を思い出して造ってみた」
この大剣なら神の手でも倒せるぜ!
「……ベー様の心が読めるようになったのに、ベー様がなにを言ってるかまったく理解できません……」
理解し合えって悲しいわ~。
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