第1199話 全年齢仕様なスローライフ

 デジャブリターン。


 と思いながらトカゲさんたちと物々交換をしていた。


 まあ、キなんとかとの物々交換とは規模は小さく、屋台規模のものだが、トカゲさんたちの状況を示すかのように大盛況だった。


「最近、人族の商人が来なくて助かった」


 なんでや? と訊いたらグロッドさんがそんなことをおっしゃいました。


「あの多頭ヘビが原因か?」


「ああ。バンボラウトが現れて商人を襲っているのだ」


 その言い方からして八岐大蛇っぽいのは複数いるってことか。おっかねー場所に降り立ったもんだぜ。


「それは大変だな」


 トカゲさんたちのことはトカゲさんたちが解決すること。オレが口出すことじゃねー。余計なお節介はしないでおこう。


 ってか、物々交換が途絶えることがねーな。どんだけ滞ってんだよ。結構追い込まれてたのか?


 その割には荒れてないし理性的だよな。腰蓑しかしてない文化なのに。


「人族との交流は長いのかい?」


 トカゲさんたちにお茶を飲む習慣がないので、日本酒を出して話を訊いています。あ、物々交換は応援に来たボーイさんに任せてます。


「長いな。ただ、交流は少ない」


 ふ~ん。人族の領域からかなり外れた場所なのかな、ここ? 


「グロッド。ここで狩りをさせて欲しい。もし許してもらえるなら酒を融通させてもらう」


 ペラペラとおしゃべりするタイプでもなかろうから単刀直入に訊いた。


「バンボラウトか?」


「他にも狩れるなら狩りたい。もちろん、そちらが困るほど狩らない。それ相応の礼はするよ」


 槍を使ってるならと、博士ドクターが作った魔槍を無限鞄から一本取り出した。


「……こ、これは……」


「オレの知り合いが作った魔槍だ。水を操れる」


 人魚用なので陸地では効果が薄いだろうが、沼地でならそれなりに使えんだろう。強度的にも石の槍よりは勝るだろうしな。


「許されるならこれをあと三本渡す。どうだろうか?」


 悪い取引ではねーはずだぜぜ。


「……よい、のか? 業物だろう……」


「こちらはそちらと無駄に争いたくはない。友好の証でもある」


 さらに三本を出して地面に刺した。


「わかった。お前たちを歓迎しよう。好きに狩るがよい」


 ハイ。お許しをいただきました~。


「感謝する。あ、案内を頼めるか? 狩ってイイもの、狩ってダメなものを教えてくれると助かるのだが」


 監視者がいればそちらも無駄に警戒する必要もなかろうし、こちらも無駄な争いを避けることもできるはずだ。


「いいだろう。おれが案内する」


 勇者自ら案内とはね。まあ、八岐大蛇っぽいヤツを倒せるような一団なら当然な人選だわな。


「……美味しいそうでし……」


 ほんと止めて。トカゲさんたちを見ないで言わないで。こっちは仲良くやれるようガンバってんだからさ~。


「ミタさん。少し狩りに出るよ」


「畏まりました。すぐに用意します」


 なにを? と問うのもメンドクセーのでミタさんにお任せ。


「あ、あの、ベー様。カイナ様に報告してカイナーズを呼びよせたいのですが、よろしいでしょうか?」


 と、青鬼っ娘さん。あ、いたね、君。ってかついて来たんだ。すっかり忘れてました。ごめんなさい。


「まあ、構わんが狩りするだけだぜ?」


 武装メイドだけでも間に合ってるのにカイナーズを呼んでどうすんだよ。


「あ、いえ、ベー様が動くときは報告する義務がありますので……」


 なんか乾いた笑みを見せる青鬼っ娘さん。つーか、どんな義務だよ?


「勝手にしな。ただ、あんまり大勢は連れて来んなよ。あちらさんに変に疑われると困るからよ」


 どんなに友好を示そうが、武装した一団を見たら心穏やかではいられねー。テメーら生意気なんだよ! なんて因縁ふっかけられて全面戦争とかごめんである。


「わかりました。カイナ様にはそう伝えておきます」


 ビシッと敬礼。ズボンのポケットからシュンパネを出すと、ゼルフィングの館へと飛んでいった。


 なにか大事になりそうな感じだけど、成るようにしか成らねーのだから慌ててもしかたがねー。用意が揃うまでゆっくり待ちましょう、だ。


 ってか、ギンコの踊り食いが美観にそぐわない。オレのスローライフは全年齢仕様なのによ……。

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