第1189話 遠慮無用
「ってか、医者に診てもらったのか?」
オカンも……診てもらったかは訊いてねーな。まあ、サラニラには話がいってんだろう。でも、オババにも話を通しておくか。産婆としての実績があるからよ。
「ううん。バルキリアアクティーに搭載されてる生体チェックでわかったのが二十日前くらいだから」
ってことは二十日もさ迷ってたのか、このアルティメット方向音痴は? 逆に生きてるのが奇跡だわ。
「ってことは四ヶ月は過ぎてんのか? メチャメチャだな。鍛えてるかもしれんが、初産なんだから体を大事にしろや」
妊婦が戦闘機に乗るなんて狂気の沙汰以外なにものでもねーわ。自分の嫁がそんなことしたら生まれるまで地下牢に放り込むわ。
「ミタさん。サラニラを呼んでくれ」
戻って来たミタさんにお願いする。
どこかに消える前にサラニラに診てもらおう。ここで見逃したらカイナに申し訳ねーからな。
「畏まりました」
「レニス。どこにもいくなよ。みっちょん、レニスが動くときは一緒についてってくれな。ブルー島から出すなよ」
ブルー島から出るには転移結界門しかねーが、実は箱庭──フュワール・レワロには出入口が一ヵ所あり、その出入りはみっちょんたちに任せてある。なので、みっちょんたちが認めない限りは出ることも入ることもできないのだ。
……結界と同じ力のようでオレは許可なく入れるんです……。
「わかったわ」
ミミッチーの鳥籠から出てレニスの頭にパ◯ルダーオンした。
「人の頭の上のなにがいいのかと思ってたけど、なかなかいいものね」
レニスの頭を踏み均しているダークメルヘン。人には理解できない境地があるのだろう……。
「うん。決めた」
「え、なにを!?」
たぶん、宿主(家主)を見つけたってことだよ。可哀想に……。
視界の隅で羨ましそうに二人を見ているメルヘンは気にしないとして、カイナも呼ばんとならんな。ってかあいつ、孫がいること気がついてないのか? 真っ先に来そうなもんだがよ。
「ドレミ。お前ってカイナと連絡できるっけ?」
「いえ、できません」
エリナとカイナ、協力してるように見えたが、そうでもなかったねかな?
「メイドさん、誰かいる?」
離れでミタさん以外のメイドは見ないが、オレの結界には四人の反応がある。と言うか、保存庫を控室にしたようで、そこでお茶してるよ。
「──はーい! 只今参りまーす!」
随分と軽い返事をするメイドだな。
「お待たせしました。なんでございましょう?」
現れたのは人族の女で、蜂蜜色の髪をしていた。
……この辺の髪の色ではねーな。どこの出身だ……?
「カイナと連絡つけられるかい?」
「カイナ様ですか?」
ん? カイナを知らんのか?
「──申し訳ありません!」
と、青鬼のメイドさんが飛び出して来た。
「すぐにカイナ様に連絡を入れます」
蜂蜜髪のメイドを引っ張るようにして下がった。なんや、いったい?
「あ、カテリーヌさんは帝国で雇ったんだ」
とはマイシスター。帝国で雇った? なんか事件の臭いがする発言だな。
「そうか。雇ったのはカテリーヌさんとやらだけか?」
「うん。ハーニャ姉様たちは下でマナー教室を開いてるよ」
なんだろう。姉様とかマナーとか、貴族と一悶着あったことを示唆するワードが胃を絞めつけて来やがる。
「……お、おう。そうか……」
まだ心の準備ができてないのでここは無理矢理流しておこう。
「それよりサプル。オレの部屋をレニスに使ってもらうから整えてくれ。オレの荷物は押入れに入れておけばイイからよ」
結界押入れは部屋ごとに創ってあるし、どの部屋からでも取り出せる仕様となっております。
「いいの? 部屋取っちゃったりして」
「構わんよ。オレの部屋はここみたいなもんだし、外にキャンピングカーを置いてそこで寝ればイイんだしな」
なんかキャンピングカーで寝泊まりしてるほうが多いような気がするのはきっと気のせいだ。
「必要なものがあるならサプルかメイドさんに言いな。大抵のものは揃えられるからよ。買い物したいときは館のファミリーセブンを使いな。一応、金を渡しておくよ」
百万円と銅貨を詰めた小袋を出して渡した。
「ありがとう。いつかお礼をするよ」
「気にすんな。カイナにはいろいろ協力してもらってるからよ。その分をレニスに返しておくだけだからな」
協力と言うか、丸投げしている。その礼ができるのなら安いもんだわ。
「うちにいる間は遠慮する必要はねー。カイナの家族ならそれはオレの家族でもある。なら、健やかに暮らせるようにするのがオレの役目だからな」
遠慮無用。ただ、破産しない程度にお願いします。
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