第1185話 自由な兄妹

「──ただいま!」


 どこかに堕ちていきそうな意識を踏ん張って止めていると、トータが帰って来た。頭に花を咲かせて。


 ……あの花が人になるんだからこの世界の魔法法則ってどうなってんだろうな……?


「トータ、お帰りなさい」


 オカンが席を立ち、帰って来たトータを抱き締める。


「負けないでくださいね」


 そう言うお節介はよけいに落ち込ませることを知ってください。


「あんちゃん、ただいま。ハルメランではありがとね」


 気づかえる弟に涙が零れそうです。オレは今、最大級の幸せを感じてます!


「イイよ。オレも楽しめたしな」


 兄の威厳を失わないよう、余裕の笑みで答える。


「チャコは寝てんのか?」


「うん。陽が出てないと力が出ないんだ」


 そんな設定あったっけ? まあ、オレには理解できない生命体だしな、そんなもんだと流しておけ、だ。


「ほら。まずは夕食だ。土産話はあとにしろ」


 親父殿の言葉で皆が席につく。


 囲炉裏間に決まりはなく、誰がついても構わねーのだが、今日は遠慮したのか、ゼルフィングの者だけだった。


「じゃあ、いただくとしよう」


 いただきますと、久しぶりの家族団欒。なんかこそばゆいもんがあるな。


「なんだ、急に笑ったりして」


 親父殿の言葉に顔を触るとニンマリと歪んでいた。


「いや、家族団欒のよさを改めて感じたもんでよ」


 オトンが生きてた間。死んでからの間。親父殿が増えてからの間。家族が側にいた。前世じゃ感じなかった家族がいる幸せがなによりの宝だと教えられたよ。


「そうだな。家族がいる。おれも冒険者時代に知らなかった幸せだな」


 仲間たちとの和気藹々もイイだろうが、家族団欒とは違う幸せだ。知らなければわからない感覚だろうよ。


「久しぶりにねーちゃんの料理を食べるとホッとする」


 トータがポツリと呟いた。


「あたしは作ってないよ。メイドさんたちが作ったんだよ」


「そうなの? ねーちゃんの味がするよ」


 え、サプルの味ってどんな味よ? オレ、旨いか不味いかしかわからんのだけど!?


 味の良し悪しはわかるが、旨い不味いは問わない。オレのために出されたものはすべてご馳走。それで生きて来たもの。


「サプルが教えたからサプルの味になるのよ」


「それだけメイドの腕が上がったってことだな」


 うちにいないオレには口を挟めないこの悲しさよ。誰かオレに愛の差しの手をくださいませ。


「皆、腕が上がったよね。もうあたしがいなくてもイイくらいだよ」


 居場所を盗られた、なんて思わないところがマイシスターのよいところ。だが、そうしたらサプルはどうするつもりだ?


「ねぇ、あんちゃん。あたしもあっちに部屋を移してもイイかな?」


「あっち?」


「元の家だよ。あたしもあっちに住みたいの」


 サプルの言葉にニューメイド長さんを見る。知ってた……顔ではねーな。目を大きくさせてるし。


「オレは構わんが、どうなんだ?」


 ミタさん。あなたの出番ですよ。


「丸投げですね」


 背後の幽霊さんはシャラップです。


「サプル様の思いのままに」


 で、イイの、ニューメイド長さん?


「ゼルフィング家を支えるのがわたしたちの勤めでございます」


 ならお言葉に甘えさせてもらいます。


「好きにしな。あ、サプルの部屋だったところはミタさんが使ってるからトータの部屋だったところを使えな。オレの部屋でもイイぞ」


 外にキャンピングカーを置いて部屋にすればイイしな。


「トータの部屋を使うよ。荷物はヴィアンサプレシア号に置いてあるし」


 その荷物の量がどれだけかは訊かないでおこう。


「あいよ。ただ、ブルー島は転移できないから注意しろよ」


 昼夜も逆転するが、それは自分の体で体験するしかねーな。時差とか説明しても理解できんと思うからよ。


「わかった」


 ニューメイド長さん。ご迷惑かけると思いますがよろしくお願いしますねと、目を向けると、畏まりましたと一礼した。


「あ、親父殿。年越し祭の間はメイドさんたちを休暇にしてイイか?」


「休暇? いいんじゃないか」


「なら、年越し祭の六日間は休みだ。あと、特別手当て出すんで親父殿、よろしくな」


「おれがやるのかよ!」


「当たり前だろう。一家の主なんだから」


 なに言っちゃってんのよ。


「執事さんに相談してやればイイだろう。ガンバレ」


「お前がやれよ。跡継ぎ」


「跡継ぎはこれから生まれて来る子に継がせろ。オレはブルー島のほうで精一杯だ」


 オレは自由気ままな村人。メンドクセーことは他に丸投げよ。

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