第1179話 考えたら負け

「ボブラ村よ、オレは帰って来た!」


 ………………。


 …………。


 ……。


「なんだ、ベーか」


「なにごとかと思ったよ」


「さあ、仕事に戻るか」


 ………………。


 …………。


 ……。


「……ベー様……」


 見ないでー! そんな哀れんだ目でオレを見ないでー!


 ヤだ。なにこの仕打ち? 久しぶりに我が村に帰って来たのに、なんで誰も温かく迎えてくれないの? オレ、村のためにガンバって来たよね? ガンバったよね? なのにこの扱い酷くね?


 ミタさんに同意を求めるが、サッと視線を逸らされた。


 留学者諸君はどう思うよ? と視線を向ければこちらを見てもいなかった。


 沈黙が痛い。だが、ここで負けてはいられない。オレはボブラ村のベー。村人の中の村人。キング・オブ・村人。ネバーギブアップスタンドアップだ、オレよ!


 崩れ落ちた脚に喝を入れ、根性で立ち上がる。


 汚れてはないけど、ズボンをパンパン。架空の埃を払う。


「うん。久しぶりの村はイイもんだな」


 なかったことにする。そう、なにもなかったのだ。イイね、皆。


「──はい。いいものですね」


 できるメイドは空気も読める。なに事もない顔で乗っかて来てくれた。


「冬でも漁をするんですね」


「ああ。冬にはサオラって言う回遊魚? が岸の近くまで来るんだよ。鍋にすると旨い」


 白身魚だが、煮るとイイ味を出してくれるのだ。


「うん。今日はサオラのゴジル鍋にしよう」


「はい。では、買いにいかせますね。ナオ。お願いします」


「畏まりました」


 と、青鬼のメイドさんが買いに走っていった。もう、気にもならないくらいに村に溶け込んでるってことね。了解了解。


「んじゃ、いくか」


「ベー様。歩きでいかれるのですか?」


 ん? なんか不味いか?


「皆様は長旅で疲れていると思うので歩きは辛いかと。館は山にありますし」


 留学者を見れば歩きは辛いです! と目で訴えてる感じがする。軟弱か!


「そうだな。馬車でいくか」


「馬車ですか?」


「まあ、正確に言うなら竜車だな。ピータ、ビータ、出て来い」


 皆さん、覚えているだろうか。竜人からもらった二匹の護竜のことを。オレはすっかり忘れてました。生きてる? ってか、いる?


「ぴー!」


「びー!」


「やっと出れたでち!」


 おっと。ウパ子さんもいましたっけね。完全無欠に記憶から抜けてましたわ。メンゴメンゴ。


 ぴーびーなんか文句を言ってる感じ。わかんないけど、ごめんなさいと、誠心誠意、謝らせていただきます。


「ブルー島に帰ったらいっぱい遊んでイイから竜車になってくれよ。なあ?」


「ぴー」


「びー」


「しょうがないでし」


 うん。ウパ子さんはやらんでイイからね。ピータとビーダを先導してちょうだい。


 結界で荷車を創り出し、大きくさせたピータとビーダに装着させる。


 あ、クルーザーを仕舞わないと。残しておくと大変だからな。ほい、収納。


「では、留学者諸君。乗ってくれ」


「ベー様。皆様のお荷物はこちらで運びますね」


 あいよ。任せた。


「ゆっくりいくんで村をよく眺めてくれ。オレの自慢の村をな」


 村を見れるように背向かいの座席にしました。


 結界で創った荷車(人を乗せるときはなんて言うんだっけ?)にびっくりしなが留学者が乗り込んだ。


「ピータ、ビーダ、出発だ」


「ぴー!」


「びー!」


「いくでし!」


 なんの行進だ? とか思っちゃダメ。そして、海部落の方々の奇異な目に負けちゃダメ。君たちは帝国の代表みたいなもの。毅然としなさい。


「手でも振ってやりな」


 海部落の子どもたちよ。世にも珍しい見習い魔女さんたちだよ~。


「……なんの辱めかしら……?」


「……恥ずかしい……」


 そんな君たちにイイ言葉を教えてやろう。


 考えたら負けだ! ってな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る