第1176話 ランデブー
レヴィウブでの用事は粗方片付いた、と思う。
オレの今生、脇道寄り道回り道なので主目的がなんだったか忘れてしまったが、あとは任せてもイイくらいには片付けたはずだ。
「ミタさん。留学者をブルー島に連れていく。住む場所を用意してくれ」
「畏まりました
なんて言っておいてなんだが、大丈夫なん?
「ブルー島にはメイド見習いの宿舎があるので大丈夫ですよ」
オレの視線を察したのか、ミタさんが笑いながら教えてくれた。ありがとうございやす!
「それでは、大図書館の魔女さん。またいつか」
「いつか、ではなく日時を決めんか」
「それは無理と言うもの。わたしは気の向くまま風の吹くまま、自由自在に動き回る。天が望むときが再会のときです」
できない約束はいたしません。
「……自由なヤツだ……」
「はい。それがヴィベルファクフィニー・ゼルフィングと言う男ですので」
オレから自由を取ったらオレではなくなる。
「では」
ミタさんに視線を送り、留学者たちと食堂を出た。
「ベー様。転移は避けてプリッシュ号改での帰宅がよろしいかと」
なんでや?
「魔女に転移を知られるのは不味いかと」
「わかった。プリッつあん、頼めるか?」
ミタさんがそう言うなら従うまで。オレに否やなし。
「任せて! 久しぶりにわたしの操船を見せてあげるわ!」
なぜかやる気のプリッつあん。変なスイッチ押しちゃったか?
まあ、プリッつあんが喜んでるならなにより。オレの心は平穏ってことだ。
「四番、チェンジアップ!」
で、船長服へと変身した。
「準備して来るね!」
と言うのでプリッスルの前で皆さんと一緒にブレイクタイム。お紅茶を一杯飲んだ頃、プリッシュ号改が空から降下して来た。
「そう言や、伯爵さんたちと誼を結ぶの忘れてたわ」
せっかく結んだ縁がもったいねーな。
「ミタさん。レヴィウブに来たときに会った二人の伯爵……なんて言ったっけ?」
ヤベー! 完全に忘れたわ!
「ウイルトン伯爵とバインエル伯爵です」
と、ドレミが教えてくれた。うんイイ子イイ子。
猫型のドレミを抱きしめて撫で撫でしてあげる。
「ミタさん。両伯爵にオレの名で酒でも送っておいてよ。奥さんや子どもたちには甘いもんをさ」
「畏まりました。すぐに手配します」
ミタさんに任せれば送られたも同然。伯爵さんたちのことは頭からポイだ。
プリッシュ号改が着地し、巨大化したメルヘン船長が出て来た。
「ようこそプリッシュ号へ。皆さんを歓迎します」
船長モードのメルヘンさん。ステキー! と言っとけば世は平和に回るもの。んじゃ、お邪魔しまぁ~す。
見習い魔女さんと世話役に連絡員が乗り込み、続いてメイドさんたちが乗り込む。
「では、皆様によき空の旅を」
プリッシュ号改が離陸。我が故郷へと発進した。
見習い魔女さんたちは初めての空の旅に騒ぎ、終始落ち着きがない。それを嗜めるはずの世話役や連絡員も同じだ。
「微笑ましいもんだ」
そんな魔女さんたちを眺めながらコーヒーを飲んでいると、監視していたメイドさんが声を上げた。
「十時方向に船影あり!」
と言うので十時方向を見るが、なんかいるって程度にしか見えない。どんだけ目がイイんだよ?
「ミタさん、わかる?」
「恐らくヴィアンサプレシア号かと思います」
「なら、サプルだな」
ってか、ちゃんと日付は理解してたんだな。結構大雑把だったのに。
「はい。メイド長が仕切ってますから」
あ、ああ、そうだったね。ニューメイド長さんがいれば狂いはないか。お見逸れいたしやした!
「せっかくだ。ランデブーして帰るか」
「ランデブーってなぁーに?」
「一緒に並んで帰りましょうってことだよ」
違ったらごめんなさい。
「誰か照明弾打ち上げて」
持ってるかどうかは知らんけど。そして、あちらが理解するかも知らんけど。
でも、うちのメイドに抜かりはなし。照明弾はちゃんと持ってるし、打ち上げたらヴィアンサプレシア号とランデブーもした。
「あ、サプルが手を振ってるわよ」
君たちの視力で語らないで欲しい。どこにいんだよ? わかんねーよ!
でも、メルヘン船長が見てる方向に向けて手を振ります。サプル、見えてる~。
なぜか魔女さんたちまで手を振り出し、ヴィアンサプレシア号とプリッシュ号改は並んで帰路についたとさ。めでたしめでたしっと。
さあ、我が家に着くまで読書でもしよぉ~っと。
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