第1177話 勝負は見えていない
「……ほんと、お前はどこにいっても騒ぎを起こすよな……」
現れるなり失礼なことをおっしゃる公爵どの。オレ自身騒ぎを起こした……こともないとも言えない我が人生。だが、今回は騒いだつもりはありやせんぜ。
「なんだい? ってか、ヴィアンサプレシア号に乗ってたのか?」
まだ航行中であり、出発して三十分も過ぎてねー。一緒に我が家へいこうとしてんのか?
「帝国を出るまでは安心してサプルの側から離れられねーよ」
「……なんかあったのか……?」
事と次第によっちゃそれ相応のことをするぜ。
「お前と比べたら大したことじゃねーよ。こちらで処理した。ついて来たのはおれが大事にしてることを知らしめるためだ」
よくわからんが、公爵どのがそう言うならそうなのだろう。豪快ではあるが女には誠実(?)な男だからな。
「お前の出会い運のことだから皇弟殿下と会うだろうと思ってたが、まさか大図書館の魔女まで会うとは思わなかったよ」
はぁ~とため息を吐く公爵どの。なんか老けた?
「説明しろ」
「なにを?」
「フューワル・レワロをレヴィウブに置いたこと、エルクセプルを教えたこと、他にもありすぎて頭がこんらがるわ!」
うん。いろいろありすぎてよくわからんな。どうしようとしてたんだっけ?
「……大図書館の魔女さんを見たとき、こいつヤベーと思ったのがきっかけかな……?」
その前に殿下と会ってたから記憶がいまいちだけど。
「まあ、帝国十姫の一人だからな」
十姫ってことは、あと九人もおっかないのがいんのかよ! かかわらないことをここに誓う。
「敵にしたら怖いので興味を引くものを出したわけだ」
結界でチェスのポーンを創り、空中に置いた。
「悪手、ではないよな? お前はそんなマヌケはしないから」
わかってらっしゃる。
「だが、ある意味悪手だったかもしれないな。あそこまで食いつかれると」
まだどちらもチェックまでいってない。今後どうなるかはオレにも読めんよ。
「ある意味では良手だったんだろう?」
「殿下や大図書館の魔女さんの目を公爵どのから逸らすことができた」
「……確かに、エルクセプルの出所が増えればうちの負担は減るな」
「無駄に恨まれなくもなるしな」
まあ、それでも劣化しないバイブラストのエルクセプルが重要度は高いがよ。
「フューワル・レワロ、生命の揺り籠をあそこに置いたのは、帝国の目を集中させるためだな」
「ヤオヨロズから目を逸らさせるためにか?」
「帝国兵を縛りつけておく意味もある。余計な色気を出されても困るからな」
公爵どのには悪いが、帝国兵を消耗してくれるのも願ってます。
「悪辣だな、お前は。フューワル・レワロはお前が握っている。お前の胸一つで閉じることもできる」
「そして、開くこともできる」
天空の城を崩壊しちゃうような言葉があったりする。
「まさにチェックメイトかよ」
「まだチェックにもなってねーよ」
「生殺与奪権を握ってる時点でチェックメイトだわ!」
それをやったら全面戦争。こちらがチェックメイトになるわ。
「今はまだ、持ちつ持たれつの状況だな」
「お前はそれすら利用するんだろう? ヤオヨロズのことがバレようともな」
「魔族を認知させる絶好の機会だからな」
留学はまさに渡りに船。帝国から持ちかけてくれたからこそ帝国はオレとの約束を守らざるを得ない。破れば帝国の格が落ちるばかりじゃなくオレの信頼も失うのだからな。
「他にもありそうだな?」
「あるにはあるが、オマケみたいなもの。重要には思ってねーよ」
オレと言う金蔓を逃がさないでいてくれたら、な。
「はぁ~。仕事が増えるぜ。車乗りてー」
「まあ、さっさと済ませて魔大陸で車を走らせるんだな」
広大な大地をかっ飛ばして憂さを晴らすんだな。
「あーなるほど。魔大陸にいけばいいのか」
「魔大陸にはカイナーズがあるし、誘えば競争してくれるぜ」
頼むからオレは誘わないでいてくれ。もう碌でもないことには合いたくねーからよ。
「おう。じゃあ、またな」
なにで来たと思ったらコーレンで来たのかよ。それ、そんなにスピード出せる……ものだっけ? あれ? 時速にしたら六十キロくらい出てるんですけど!
「フミさんたちが作ったコーレンですね」
と、ミタさんが教えてくれました。
シュードゥ族もシュードゥ族ならクルフ族もクルフ族だな。進化がハンパないわ~。
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