第1172話 メイド長に逆らってはならぬ

「──遅くなりました。申し訳ありません」


 と、ミタさんがやって来た。ご苦労さまです。


「構わんよ。無理言って悪かったな。ありがとさん」


 無茶なお願いをした自覚はあるので素直に謝罪し、心を込めて感謝の言葉を述べた。


「いえ、こちらこそありがとうございます」


 やはりオレの意図を見抜いてたか。できるメイドはさすがだよ。


「しかし、よくこんなに早く集められたな。結構かかると思ったんだが」


「シフが、メイド長が以前から選別してくれてたので早く決められました」


 ニューメイド長が? 予知能力者か?


「そうか。メイド長さんに礼を言わんとな」


 それとボーナスも。できるメイド長は労わないとな。


「はい。そうしていただけるとメイド長も報われるでしょう」


 まあ、ニューメイド長といつ会えるかは知らんけど、忘れないようにしておこう。


 ……でも、忘れたときは申し訳ありませんです……。


「で、交換留学者は?」


「入って来なさい」


 と、色とりどりの魔族の少女が食堂に入って来た。


 一列に並んだ魔族の少女を見て思ったことは、よう選んだもんだってことだった。


「……また、厄介な……」


 大図書館の魔女さんの呟きに、そうだろうなと同意する。そして、ニューメイド長さんには逆らわないよう心に決めました。予知能力者じゃなかったらミタさんよりヤベー人ってことだわ。


 十人とも違う種族であり、この大陸にいない種族である。それはつまり、帝国に魔族を認知させるってこと。オレが帝国に来て、大図書館の魔女さんを見て考えたことをニューメイド長さんはその前から考えて用意していた。オレの思考、読まれてますやん!


 ヤベーよ。マジでヤベーよ! ニューメイド長さん、ドン引きするくらいヤベーよ!!


「止めますか?」


 なんて恐怖を押し殺して大図書館の魔女さんに笑って見せた。


「……いや、お主を相手にするよりはマシだな……」


 なにかを悟った、いや、吹っ切れたような笑いを浮かべる大図書館の魔女さん。そりゃこちらのセリフだわ。


「そちらが引き受けてこちらが拒否したのでは帝国の名折れ。誓いは守ろう」


「その辺は疑ってはいませんよ。わたしは大図書館の魔女に嘲笑されたくありませんからね」


「我もお主に嘲笑されたくはない」


 口約束ほど怖いものはなし、だな。お互いの大切なものに誓うと言うのはよ……。


「ベー様。メイド長から世話役と連絡員をつけていただけると助かりますとのことです」


 そう言われたらノーとは言えんでしょうが。


「ってのことですが、どうします?」


「お主が怖がる者の言葉なら否とは言えんだろう」


 さすが大図書館の魔女さん。バレてぇ~ら。


「ミタさん、何名必要?」


「欲を言えば八名。最低でも六名は飲ませてくださいとのことです」


 うん、それもう脅しやん。飲ませなきゃオレがヤバイじゃん。大図書館の魔女さん、譲歩するから飲んでくださいませ!


「わかった。こちらも八名出す」


 ありがとうございやす! 恩にきやす!


 無限鞄からエルクセプルが六本入った箱を出し、大図書館の魔女さんに押し出す。


「仁義に反しますが、これをお受けください」


 公爵どのには誠心誠意謝罪しよう。メイド長さんに逆らうよりは幾万倍もマシだ。


 訝しながら箱を取り、蓋を開いた。


「……まさかとは思うが、これは……」


 そのあとが続かない。と言うことはそれがなんなのか予想はできてるってことだ。


「大図書館の魔女さんが思ってるものです。バイブラスト公爵産です」


 ウソは言ってませんぜ。作ったのはバイブラストだし。


「……やはり、エルクセプルか……」


「もう出回ってますか?」


「バイブラスト公爵が皇帝陛下に献上したよ。薬を求めて国が争うようなものを十二本もな」


「生命の揺り籠でも材料を採取できますよ」


 と言ったら睨まれました。ちょー怖っ。


「外に持ち出す前に効力が消えるわ」


 さすが大図書館の魔女さん。もう作ったんだね。


「……効力を維持する技術があるのか……」


「普及させられないのが悲しいです」


 オレと同じ結界が使える者が毎年のように生まれてくれたら世に広まるんだろうけどね。希少能力は困ったもんだよ。


「よく言いおる」


 だって本当のことだも~ん。本心だも~ん。


「入り用ならバイブラスト公爵におっしゃってください。わたしの名を出せば多少なりとも融通してくれると思いますよ」


 もちろん、正当な代金はいただきますけどね。


「ありがたくもらっておこう」


「大事に使ってください。容器は脆くなってますので」


 まあ、好意であげたもの。どう使おうとそちらの勝手。人を救うのに使おうが、探究に使おうが、オレは気にしませんよ。


「……ああ。大事に使おう……」


「はい」


 苦虫をかみつぶしたよう大図書館の魔女さんに、笑顔で答えた。

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