第1171話 約束

 プリッつあんのファッションショー! イエーイ!


 とかノリノリで言ってみたが、ファッションになんら興味のねーオレにはまったくもってテンションは上がらねー。ふ~ん。くらいだ。


 テーブルの上をモデルがあるく道? 台? なんかそんなもんに見立てて歩いている。


「プリッシュ様、可愛いですよ~」


「こっち向いてくださ~い」


「可愛い~」


 なんかメイドさんたちには大好評。もうそっちのテーブルで好き勝手やってよ。


 そう言って席を立ちたいが、周りをメイドさんに囲まれては無理。大人しくプリッつあんのファッションショーを見てるしかなかった……。


 こんなときこそスルー拳、なのだが、女のニオイで集中できないのだ。


 オレが三十年若ければ……って、生まれてもねーか。いや、前世で死んだ年齢から三十年ね。十代だったら若い女(種族はあえて目を瞑ります)に囲まれてラッキーと思っただろうが、前世の年齢+今生の年齢を足した今ではニオイで参ってしまうわ。


 別に嫌と言うわけじゃないし、臭いと言ってるわけでもないよ。そこは勘違いしないでね。


 なんて言うのだろう、どう表現してイイか困るのだが、脳のどこかが疼くと言うか、居心地が悪いと言うか、本当になんなんだ、これは?


 ……これなら素直に欲情してくれたほうが楽だわ……。


 前世の記憶と経験のせいで、いまいち欲情が働かなくなってるぜ。しかも死んだことで精神がちょっとねじ曲が……いや、止めておこう。なんか深みに入りそうだ。


 無心無心と念じること一時間くらい。救世主が現れ、ファッションショーは終わりとなった。


「じゃあ、わたし、双子ちゃんに渡してくるね」


 はい、いってらっしゃい。


 プリッつあんが消え、周りにいたメイドさんも散開した。


 このまま気を失ってしまいたいが、そうもいかないこの状況。ガンバって今を乗り切れ、だ。


「……なにか、疲れたような顔をしておるな……」


「いや、ちょっと酔っただけですよ」


 大図書館の魔女さんの訝しげな問いに力なく答えた。


「そうか」


 とだけ。空気を読んで流してくれたようだ。


「交換留学者を連れて来た」


 メイドさんが出したお茶を一口飲んだあと、そう切り出した。


「随分と力を入れてるんですね」


 そこまでする理由はなんなんだい? 帝国以上の知識がこちらにあるとは思えねーんだがな。


「当たり前だ。帝国にない知識を持つ者が現れたのだからな」


 あれ? 知識なの? マジか?


「大図書館の魔女からそう言われるとは誇らしいですね」


「これまで誇らないでいたほうがおかしいくらいだ」


「別に知識を振りかざす趣味はありませんから」


 広めたいわけじゃなく、自分の好奇心を満たすために求めてたからな。


「振りかざす必要はないが、広めることを怠るな。知識は世の宝ぞ」


「まさに至言ですな。そう言える方が帝国にいて羨ましいです」


 バリラにはそうなって欲しいもんだ。ヤオヨロズの知識の母に、な。


「それを理解してくれる者が帝国に増えてくれるとよいのだがな」


 愚痴を言うところを見ると、いろいろ苦労があるようだ。


「十人は連れて来たんですか?」


「ああ。通してもよいか?」


 まあ、誰かに丸投げするとしても顔合わせはしておくべきか。


「はい、お願いします」


 お供の魔女さんに連れて来るように言うと、お供さんは一礼してから食堂から出ていった。


「すみません。こちらはまだのようで、揃ってないんですよ」


「構わん。こちらが急ぎすぎたのだ」


 大図書館の魔女さん、意外とせっかち?


 少しして、お供さんが十人を連れて来た。


 薬を作っているときは年配の魔女が多く、若いのはいなかったが、現れた十人は少女と言ってもイイくらいの年齢だった。若すぎね?


「皆さん、魔女なんですか?」


 なんか白い法衣? に白いマント? 肩掛け? をしている。


「見習いだが、学ぶことに意欲ある者らだ」


 大図書館の魔女さんが選んだのならそうなのだろうが、なんかマジメちゃんばかりだな。個性ってもんがねーぜ。


 いや、変に望むと飛び抜けたヤツが集まりそうだから、これでよしとしとこう。これ以上、個性豊かなヤツはお腹いっぱいだわ。


「わかりました。ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングが責任を持って預かりましょう。あなたの元へ返すときは帝国にない知識と経験をたくさん抱えた魔女といたしましょう」


 まあ、どんな知識と経験を抱くかはこの十人次第。オレは導くまでだ。


「……お主は、涼しい顔で難題をふっかけおるわ……」


 まあ、そりゃそうだろう。同じことを要求してるんだからな。それが対等ってもんだ。


「よかろう。大図書館の魔女の名に誓い、お主の元へ返すときはそちらにない知識と経験を与えよう」


 コーヒーカップを掲げると、理解した大図書館の魔女さんもカップを掲げた。


「乾杯」


「乾杯」


 ここに、オレと大図書館の魔女さんとの聖なる約束は結ばれた。お互い、違えないようにガンバろうや。

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