第1158話 ワンダーワンド

 なにかうるさくて目を覚ました。


 毛布に包まりながら瞼を開くと、イッツ・ア・スモールファンタジーが広がっていた。なに?


 寝ぼけてんのかと瞼を擦り、もう一度見る。うん、イッツ・ア・スモールファンタジーですね。


「マイロード。お目覚めですか?」


 いや、まだちょっと夢の中かな? なんかあり得ない光景が広がっますわ~。


 これはきっと夢だ。寝ぼけてんだ。そうだそうだ、もう一度夢の中へ出発だぁ~!


 ………………。


 …………。


 ……。


「──なるかっ!」


 なんなの、このファンタジー・オブ・ザ・オバチャーンは? もう悪夢だよ! 夢も希望もねーよ、こん畜生がっ!


「あ、ベー様。起きましたか」


 空飛ぶ箒(仮)で掃除をしているミタさん。


「ベー様、これおもしろいですね。気に入りました!」


 空飛ぶ箒(仮)のどこに嵌まったのか、子どものようにはしゃいでいた。


 ……ミタさんのツボがよくわからない……。


「そうかい。喜んでくれんなら創った甲斐があるよ」


 オレはもう空飛ぶ箒(仮)がなんの役に立つかわからなくなったけどさ。 


「ベー様。他にどんな機能があるんですか?」


 よくわからないでよく使ってたね、あなた。その度胸が万能の原動力か?


「水を出したりお湯を出したりできて、風を吹いたり吸ったりできるな。まあ、やってみたほうか早いか。貸してみ」


 多機能なので口で説明するよりわかりやすいだろう。万能メイドならな。


「と、まあ、掃除機能はこんな感じで、攻撃はこれだな」


「マガジン、ですか?」


「ああ、そうだ」


 マガジンの中から弾丸──ではなく、モコモコビームが込められたビーム弾だ。


「そう言や、アリザってまだビームとか出してんのかい?」


 ってか、最近見てないけどなにしてんだ?


「食べすぎたときに出すと聞いてます」


 ゲップかよ。つーか、殺傷力あるゲップとかはた迷惑だな。


「まあ、出せるんなら補給は大丈夫だな。で、このマガジンをセット」


 カシャンと中央部の柄が伸びてマガジンをセットできるようになる。


「弾数は六発だけど、十発は内填させられるから」


 飛んでる最中に撃ちたくなるかもしれんからな。


「あと、バリアーも張れるから。たぶん、竜に踏まれても大丈夫なはずだ」


 これは闇夜の月の魔術師のねーちゃんに売った杖と同じだから簡単につけられたな。ってか、よくよく考えたら空飛ぶ箒じゃなく空飛ぶ杖だな、これ。


 ……そう言やアリテラたち、今どこでなにしてるかな……?


 酷く昔に感じるが、冒険者をやってるなら一年二年会わないこともある。売った武器には秘密の仕掛けを施してあるから死ぬことはねーし、そのうち会えんだろう。それまで心待ちしてろ、だ。


「それと、収納陣で荷車一台分入るから好きなの入れな」


 なにを入れるかはあなた次第。秘密なものを入れちゃって。


「ベー様。これに名称はあるんですか?」


 名称? 空飛ぶ箒(仮)じゃダメ……か。オレの中で箒から杖に変わっちまったし。う~ん。なんだ?


「……ワンダーワンド……」


 なんかポロっと出た。


 うん。イイかも。ワンダーワンド。それに決定だ。すぐに忘れそうだけど。


「ワンダーワンドですか?」


「ああ。ワンダーワンドだ」


 空飛ぶ箒(仮)より響きがイイぜ。


「それと、このワンダーワンドを仕舞っておく手段か道具はないでしょうか。持ち運びに不便なので」


 あー。そりゃそうだわな。常に持っていてこそのワンダーワンドだしな。


 ん~。なにがイイ?


「ミタさん、要望とかある?」


「すぐ出せるほうがいいですね」


 すぐか。となると手元か? ポケットか? 鞄か? メイドだとどこが邪魔にならないんだ?


 つーか、メイド服は機能性のある服なのか?


「まあ、呼んですぐ現れるのがイイか。収納陣」


 ワンダーワンドが縦に入るくらいの収納陣を創る。


「この収納陣はミタさんだけしか出せないようにした。出す合言葉を決めてくれ。短くてイイからよ」


「ラン、でよろしいですか?」


「構わんよ。じゃあ、ランで設定っと。ワンダーワンドを収納陣に入れてみな」


「こうですか」


 杖の頭から入れるミタさん。


「で、入れると消える。もう一度ランって言ってみな」


「ラン」


 で、収納陣が出現。ワンダーワンドが飛び出す。


「早さはこれでイイかい?」


「そうですね。もっと速くできますか?」


 もっとか。チチンプイっと。どう?


「もっと速くても構いません。できれば一秒もかからないでいただけると助かります」


 宇宙刑事が蒸着するより速くか? できるか? チチンプイっと。どうよ?


「はい。いい感じです。ありがとうございます」


 見えない速度で現れるワンダーワンドを見えない速度でつかむ万能メイド。君はなにを目指してんのよ?


「では、他のメイドにもお願いします」


 いつの間にかワンダーワンドを持つメイドが並んでました。


「……お、おう……」


 ただその前に、空飛ぶ箒で飛んでるご婦人方の説明をしていただければ幸いかな~と思いますです。

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