第1132話 オレのために働け

「──あ、肝心なこと忘れてた」


 そうだよ。シュードゥ族を呼んだ本来の目的は魔道剣のことだろうが。忘れてんじゃねーよ、オレ!


「なあ、シュードゥ族って魔道剣は作れるか?」


 魔道剣と言うものは結構出回ってはいるが、性能はピンキリで、名工が作ったものとなれば魔剣にも匹敵すると言われている。


 ちなみに魔剣は滅多にお目にかかれるものではなく、大賢者とか大魔術師クラスでないと創れないとされ、世に出れば高額で取引されるものだ。


 もちろん、性能も魔道剣よりも優れており、自ら魔を生み出すことができるものを魔剣と呼ぶ。


 まあ、希な存在ではあるが、オレの出会い運がなせる業か、結構見てたりする。そして、博士ドクターと出会ってからは珍しくもないものになったのはご愛敬だろう。


「あ、ああ。何人かはいる」


「何人か? 魔大陸では魔道剣は一般的ではねーのかい?」


 本場ってイメージだったんだが、どうも違うらしいな。


「魔道剣より魔力が多いのがざらにいるからな、強度があるほうが好まれるんだよ」


 そう言うものなのか。まあ、肉体も凶悪にできてるからな、硬いもんじゃないとやってられないんだろう。


 ……って言うか、魔力や魔法を使っているヤツ見てねーな。銃を使ってる光景しか記憶にねーぞ……。


「ほんと、あのアホは自重しねーな」


 進化に正しいも悪いもねーとは思うが、段階は大事だとは思う。剣から銃はいくらなんでも飛躍すぎだろう。魔族の中でちゃんと受け入れられてんのか? 鍛冶とかする者から反発とか起きてねーのか? その面倒までこっちに持ってくんなよな。


 まあ、イイ。それぞれのやり方。好きにしろだ。不味いなら神が介入でもしてくんだろうさ。オレが心配することじゃねーや。


「魔道剣を作れるヤツがいるなら最高級のを作らせてくれや。作るだけ買わせてもらうからよ。ってか、あるならイイ値で買うぜ」


 博士ドクターの魔剣は性能がよすぎてオレの結界では扱い難いのだ。まったく、人外は扱い難くてたまらんぜ。


「確か、オルボスが持っていたはずだ」


 と言うことで、そのオルボスさんとやらを呼んでもらった。


 来る間、三人に酒を出してシュードゥ族の歴史を聞かせてもらった。


「我らは代々魔道船を造ることで生きて来れたのだ」


 話を聞いているうちにそんなことを老シュードゥが語った。って、なんかどこかで聞いたな、それ。どこで聞いたっけ?


「──あ、先生だ!」


 そうだよそうだよ。オレのところに来るのにシュードゥ族が造った魔道船で来たんだった。


「スゲーもん造るんだな、あんたらは」


 魔大陸から海を渡って来る船なんて飛空船を造るくらい高度な技術がいる。これはもしかして当たりを引いたか?


 博士ドクターや小人族が飛空船を造ってはいるが、運用するには莫大な金(って言うか魔石な)がかかる。ゼルフィング商会やオレは余裕で運用はできるが、他は毎日は飛ばせる者はいない。


 あ、あんちゃんとアダガさんなら一月に一回か二回、近場なら運用できるかな? 小人族は論外で。毎日運用可能でも交流できるところが人魚のところとバリアルの街だけだからな、安全のために飛ぶなと言ってあるのだ。


「……もう魔道船を造ることはないだろうがな……」


 なんで?


「ここには海がない」


 ハイ、ごもっともです。そして、ここに住めと言ってしまいごめんなさい。


「──って、海はあるだろう!」


 ミタパパがいる島……って、名前なんだっけ? 丸投げした時点でオレの中では完全終了したから聞くこともしなかったわ。


「ま、まあ、なんだ。魔道船の仕事を続けたいのなら場所の提供はできるぞ」


「それはありがたいが、飛空船を広めるのではないのか?」


「広めるさ。だが、魔道船も広めたい。空には空の魅力があり海には海の魅力があるからな」


 どちらにも魅了されるほどではないが、イイもんだと感じるくらいには魅力がある。楽しむためにも技術は残しておきたいぜ。


「べー様。オルボスさんがいらっしゃいました」


 誰とどうやりとりをしてるか謎だが、ミタさんがそう言うと、部屋のドアが開いてシュードゥ族にしては細身の老人が入って来た。


「わしになにか用か?」


「べー様が魔道剣を欲しいそうだ。融通してやってくれ」


「酒でも金でも好きなほうで支払うぜ」


 なにやら頑固そうな雰囲気。気に入らねーヤツには売らねーとか言いそう。


「本当か!? なら、酒で頼む! もう何年も飲んでなくて気がおかしくなりそうなんだ!」


 あれ? 見た目詐欺? 意外と軽い性格してる?!


「あ、まあ、酒でイイのなら酒で払うよ」


 とりあえずウイスキーやブランデーなどをテキトーに出す。ってか、もう飲んでるよ。アル中か!


「カー! ウメー! 生き返るぜっ!」


 ウイスキーをいっき飲みし、また新しいウイスキーに手を伸ばして飲み干してしまった。どんだけ飢えてんだよ。


「すまない。オルボスは一度飲み出すと止まらなくなるのだ」


「まあ、楽しく飲んでるのを邪魔するのも不粋だ。大いに飲んで大いに騒げ。明日への活力としろ」


 さらに酒を出してやり、酒場にいるシュードゥ族に振る舞ってやる。


「さあ飲め! 騒げ! 生きていることに喜べ! 今日の糧は明日の活力とするのだ!」


 そして、オレのために働くがイイよい! うわっはっはっはー!

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