第1127話 玉に瑕

 拷問室──ではなく豪華な部屋に通され、尋問官よろしく厳しい目を向けて来るマダムシャーリー。お玉さんは……見れない。だってサダコさんより怖いオーラを出してるんですもの……。


「どう言うことかしら?」


 人外だけど、まだ人の温かみを感じるマダムシャーリーに集中する。


「どう言うこととは?」


 質問に質問で返す。だってなにを言わんとしてるのかさっぱりなんだもん。これで答えられたらエスパーだよ。


「それと、なぜオレが咎められてるかも教えていただきたいな。万が一、オレがなにかを仕出かしたと言うなら誠心誠意、謝罪させてもらうがよ」


 知らずに失礼をしてしまうことはよくある。だから謝ることに異論はねーし、言ったように誠心誠意謝るさ。


「お客様の心を満たすのがレヴィウブの矜持」


「まあ、何事も建前は大事だからな。よくわかるよ」


 本音を前にしたら反発され兼ねない。ほんと、本音を隠す建前を考えるのは大変だぜ。


「なに?」


 なんかさらに睨まれてんだけど。オレ、なんか変なこと言っちゃいましたか?


「これまでレヴィウブ内での不祥事は一件もありませんでした」


「そうしなきゃならないってのも大変だな。同情するよ」


 さぞや働く者にしたらここは神経が細くなるような職場だろう。オレならその日で辞めてんな。まあ、書類選考で落ちるだろうけどよ。


「だからなによ?」


 なんでそこまで睨まれなくちゃならんのよ? 言いたいことがあるなら口にしろ。察しられるほど付き合いが長いわけじゃねーんだからさぁ~。


「レヴィウブの体制は万全。例え相手側の失態でもすぐに対処して来ました。今回のような馬車の疲労故障など日常茶飯事。待ったと感じさせないくらい速やかに対処して来たのです。それが、気づくことなく報せが来るまでわかりませんでした」


「うんそれ、万全にはなってないよね」


 事後対応って言わない、それ?


「って言うか、自画自賛する論点がズレてね? 間違いや勘違い、事故は起こることを前提に動くもんじゃねーの? それともなに? レヴィウブは全知全能の神様が経営してんの?」


 そうだと言われたら反論しようもねーが、神の身でもねーもんが万全とかちゃんちゃら可笑しいわ。人の外に出た者は神になったとでも思ってんのか?


「あなたは、何者なの?」


「ただの人だよ。なに? もしかして、この一連の騒ぎはオレが仕出かしたことになってんの?」


 どう言う理屈よ、それ? なんでそうなるのよ? どう考えればそんな結論になんだよ! 意味わからんわ!


「でないと理屈が通らないわ」


「アホか! この世に理屈の通じないことなんていっぱいあるわ! それに理由つけるからおかしな考えにいたるんだよ! 人の外にいるあんたらが言うな!」


 ほんと、理屈が通らない人外のクセになに言っちゃってくれてんのよ。理屈うんぬんが言えるのはまっとうな世界でいきている存在に許された権利(うん。これも意味不明だな)だわ!


「……べーは神の存在を信じる……?」


 黙っていたお玉さんが突然、変なことを言い出しやがった。なによ、いったい? 宗教でも始めようとしてんのか? なら一口乗るよ。聖国に負けないくらいにしちゃうよ。


「なぜ乗り気なの? わたしは神の存在を信じているのか聞いてるだけよ」


 チッ。期待持たせんなよ。聖国からの目をお玉さんに向けさせようと思ったのによ。


「どうなの?」


 やけに食いついてくんな。神に怨み……と言うか、幽霊って神に見捨てられた存在っぽいよな。レイコさんは「こっち来んな!」とか言われそうな感じだけど。


「信じるか信じないかで言えば信じないのほうだな。だが、オレらを見下ろす超越したなにかがいることは知っている」


 たまに幻聴が聞こえたり、つい神にすがったりもするが、根本なところでは信じちゃいねーと思うな。


 しかし、前世で神に等しい存在に出会った者としては存在を否定することはできねー。なんと言うか、言葉にはできねー力を感じたからな。


「超越したなにか、ね」


「これはたぶんだが、オレはその超越したなにかの思惑と言うか呪いと言うか、超越した力が働いているように感じる。これもたぶんだが、今回のこともオレの出会い運が働いたんだと思う」


 前々からこの出会い運には違和感を感じていた。なんかご都合にもほどがありすぎて、なにかの物語の主人公になったような錯覚に捕らわれるのだ。


 だが、オレが出会うヤツらは主人公ばりのキャラの濃さで、山あり谷ありの人生(物語)を送っている。だから気のせいだと自分に言い聞かせ、オレはそいつらのサポート役なんだろうと思っていた。


 しかし、春先からの波乱万丈を考えると、超越したなにかはオレになにかをさせようとしてんじゃねーかと思うようになって来た。


 まあ、なにかがわかんねーから流れに身を任せてるわけだが、そう考えると他の事象にも考えがいってしまい、嫌な答えしか出て来ねーのだ。


 ってまあ、話が逸れたが、超越したなにかはいる。それは確信だ。ならばいると考えて動くしかねーわ。


「お玉さんがなにを考え、なにを思うかは知らねーが、勝てない相手には負けないように戦うことをお勧めするよ」


「つまり、神を欺け、と言うことかしら?」


 もし、全知全能の神がいるのなら、欺くことも反抗することもできねーだろうが、不完全なら欺くことも反抗することもオレはできると信じている。思惑通りになんて生きてやるか。オレはオレが思うように生きてやるぜ!


「まあ、超越したなにかの手のひらで転がされるのもまた手さ。その玉には傷があり、油断してたらどこにどう落ちるかわからんのだからよ」


 不完全には不完全で対抗すればイイ。どう転がるかどちらにもわからんのだからな。


「玉に瑕。まさにお玉さんのためにあるような言葉だな」


 いや、意味が違うから! って突っ込みはノーサンキュー。オレの辞書には不確定要素と書かれてんだからよ。


「ククッ。神をも恐れぬ村人だこと」


「世の中には神より怖いものがあるからな」


 特に目の前にいる神をも恐れぬ幽霊とか。もう全力で仲良くさせてもらうわ。

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