第1115話 美魔女
君よ、妄想してごらん。
目の前には六人の美人がいると。
金髪、銀髪、黒髪、瞳の色もスタイルも君の好み次第。なんなら性別だって問わないさ。
そして君よ。その妄想を極限まで高め、見たいものを、信じたいものをその心に映すのだ!
………………。
…………。
……。
とか、カッコイイようで物凄く情けないセリフを言っちゃいましたが、オレには無理。極限を高めるどころか現実逃避したくてたまんないですたい。
──誰かオレに妄想力を分けてくれ!
なんてことを両手を天高く挙げて叫びたい。ってか、オレはこの短い人生で何度こんなこと言ってんだろうな? 三つの能力で妄想力とスルー力を願うんだったぜ……。
「六つ子かしら?」
頭の上の住人さんが気にするところはそれらしい。もっと疑問やら突っ込みどころは満載なのに。
いや、オレも気にはなるよ。双子三つ子は見たことあるけど、六つ子とか生物学的にあり得んのかよ! とか叫びたくなるし。いや、六つ子ってところじゃなく、六人すべてがクローンかよ! と突っ込みたいくらい顔も体型も似てんだものよ……。
……なんのオソマツ家だよ。シェ―とかかやってもらいてーわ……。
「ええ、世にも珍しい六つ子よ」
プリッつあんの疑問に答えたのは、白髪の妖狐。四十歳くらいの見た目だが、感じからして百年単位で生きてそうだ。
……ただ、ご隠居さんや居候さんよりは断然若い感じはするな。人外であることを隠し切れてねー……。
まさに妖艶。アラビアンナイトふうな衣装を身に纏い、大人の魅力をこれでもかと出している。が、頭から生えた(?)狐の耳がすべてを台無しにしている。
いや、それがイイ! と言う変──いや、特殊な性癖の方には宜しいんだろうが、生憎と獣の耳に興味がないオレとしてはギャグでしかねー。なんの仮装だよ! とか突っ込みてーわ。
……ってか、なんでこいつだけアラビアンナイトふうなんだよ? 左右にいる謎の生命体(六つ子ね)はモンゴルふうなのによ……。
まあ、貿易都市群帯だからいろいろな衣装を身に纏うヤツがいるから流せるし、民族衣装に文句はないが、世界観とかTPOとか弁えて欲しい。困る人(絵とか描く人とか)がいるんだからよ。
「まあ、世にも珍しい六つ子が見れてよかった、ってことで、オレになんか用かい?」
人違いでした、ってんなら喜んで帰るがよ。
「せっかちな坊やね」
「それを優しく包んでくれるのがイイ女だぜ」
美魔女の皮肉に皮肉で返してやる。
だが、人外だけあってその余裕が崩れることはなかった。それどころかおもしろそうに笑みを浮かべた。
「ククッ。おもしろい坊やだこと」
「それは羨ましい。オレもこの状況をおもしろいと感じられる感性が欲しいよ」
こんな波乱万丈なんてノーサンキュー。我にスローなライフを与え──いや、止めておこう。また幻聴が聞こえそうだしな。
「そっちと違ってオレは限られた人生を精一杯に生きて、おもしろ楽しく過ごしてんだ。余計なことに時間を費やす気はねーぞ」
それもまた人生と笑えんのは、それが本当に楽しいからであって、つまらんことには一秒足りとも使いたくねーし、記憶からも即効で消し去るわ。
「辛辣だこと」
「オレは言いたいことは言う主義なんでな」
言いたくないことは言わない主義でもあります。
「フフ。そう邪険にしないで。こうして来てくれたのだから話は聞いてくれるのでしょう?」
「経験上、避けてもイイことはねーからな」
逃げられるものなら逃げたいが、まるで神の采配か如く逃げ道を塞がれ、放置すればするほどややっこしくなる。こう言うのは初期対応が吉なのである。
「こちらへどうぞ。お茶を出すわ」
ちなみにここは……なんだ? 劇場か? 舞台みたいなものはあるが、椅子とかテーブルがねー。酒場らしきものもだ。
「なんだい、ここ?」
「劇場よ。わたしが踊ったり、音楽を聞かせたりするの」
やっぱ劇場なんだ。初めて見たわ。
田舎に住んでると、こう言うところは無縁なので、あるとは聞いててもどうなってるかまでは知らんのよね。興味もねーしよ。
で、通されたのは……なんだ? 楽屋か? 私室か? エキゾチックな部屋だこと。
「ごめんなさい。広い部屋がないので二人くらいにしてくれる? ちゃんと歓迎させてもらうから」
ちなみにオレらはいつものメンバー。だけど、珍獣どもが二メートルサイズになっているので大所帯になってるんです。あと、外には武装したメイドが結構いると思う。
「ミタさん、こいつらを頼む」
バカしないように見張っててよ。
「畏まりました」
オレの言いたいことを理解してくれたようで素直に従ってくれた。
「フフ。ありがとう。そこへどうぞ」
促された席へと座り、出されたお茶をいただいた。
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