第1107話 ギンコ

 うん。イイ収穫でした。


 ウパ子の鼻だか直感だかわからんが、クエオルを見つけるのが的確で、ピータとビーダの土魔法で地中から放り出すと言う連携により、三十分で百匹も捕まえることができたのだ。


「ウパ子。そのくらいにしておけ」


 さすがに捕まえすぎだ。収納鞄に入り切れんわ。


「じゃあ、食べるでち」


「まったく、お前の胃も底無しかよ」


 やっとアリザの胃が落ち着いたってのに、また底無しが現れるとか勘弁してくれ。食料は有限なんだからよ。


「別に大きくすればいいだけのことじゃない」


「オレは百年としないで死ぬ生き物なの。竜のような長命種じゃねーんだよ」


 オレが死んだあとのことまで面倒見切れねーが、だからってなにもしないでは子孫に申し訳ねー。せめて飢えない道筋くらいは立ててやらんとダメだろうよ。


「できれば帝国とは仲良くしたいんだがな」


 帝国の食料生産能力は侮れないくらい高い。イイ関係を結べれば食料問題は解決したも同然なんだが、そう簡単にいかないから悩ましいぜ……。


「ベーって、適当のようでしっかり考えてるんだね」


「テキトーでやってけるほど単純な世じゃねーからな」


 つーか、君にはテキトーにやっているように見えたのね。オレ、結構考えて生きてますから!


 ……まあ、その反動でなにも考えず行動するときがありますけどね……。


「一旦戻るか」


 市長代理殿をほっとくのもワリーしな。


 と言うことでキャンプ地に戻りお片付け。そして、飛行場へと向かう。


「ってか、当たり前のようにいるが、オレはお前を飼うつもりはねーぞ」


 突っ込むのメンドクセーのでサラリと流していたが、さすがに人を恨むもんを近くに置いてやるほどオレは酔狂じゃねー。害は速やかに排除が信条だ。


「え!?」


 いや、なに驚いちゃってんの? その驚きはこっちだわ。


「……プリがいいって……」


 元凶はお前か! なに勝手に許可出してんだよ! オレメルヘンや竜の巣じゃねーんだからな! 


「別にいいじゃない。今さら」


「ギンコは友達でち!」


「ぴー!」


「びー!」


 そうだそうだと騒ぐ竜ども。ってかギンコってなんだよ! 銀子ってことか? いつの間に名前がつけられてんだよ! オレも混ぜろよ! 寂しいじゃねーかよ!


「わたしが考えたの。いい名前でしょう」


 誇らしそうに胸を張るメルヘンさん。


 うん。見たまんまだね。ウパ子と名づけたオレが言うのもなんですが、もうちょっとこちらの世界にあった名前にしてやりなさいよ。まあ、覚えやすくてイイけどっ。


「大丈夫よ。ギンコも立場はわきまえてるから」


 立場をわきまえるって、メルヘンが言うことでもなければ竜に求めるもんでもないよね! なに言っちゃてくれてんだろうな!


「……人は嫌い! でも、一人は寂しいから我慢する……」


 うん、お前は竜な。一人とか言っちゃダメだろう。カイナーズのヤツらにアイデンティティーまで殺されたのか?


「別に人を恨むことを咎める気はねー。人は人同士で争うアホな種族だからな。お前に危害を加えようとするアホがいたら排除すればイイさ」


「そこで殺せとか言わないところがベーの怖いところよね。死ぬのも許さないって感じで」


「当たり前だ。そう簡単に殺してたまるか。生まれたことを後悔させ、毎日死を願うようにしてやるわ」


 オレの人生を潰そうと言うヤツに慈悲はなし。どこまでも冷徹に無慈悲を与えてやるわ。ククッ。


「ギンコ。あなたは慈悲深い復讐者になりなさい。ベーみたいな無慈悲な復讐者になったらお仕舞いよ」


「うん。そうする……」


 なんだろう。今、人生最大の否定を受けたような気がするんだけど。気のせいかな?


「──ベー様。市長代理殿から連絡で薪の補給をお願いしたいとのことです」


 確かめようとしたらメイドさんが割り込んで来た。


 モヤモヤした気持ちが残るが、優先させるべきは市長代理殿の立場と権力の向上。このモヤモヤはあとできっちりはっきり明確にしようではないか。覚えてろ、腐れメルヘンに腐れ竜め!


「船団にはないのか?」


 仕切っただろうメルヘンに尋ねる。


「どうかしら? メイドに任せたからわからないわ」


 うん。少しでも期待したオレがバカでした。メルヘンは自分に興味があることじゃないと役に立たないのでしたね。メンゴメンゴ。


「しょうがねー。オレの鞄から出すか」


 魔大陸で大量に消費したから余裕はねーんだが、一都市分ならなんとかなるだろう。この気候なら生木でもすぐに乾燥すんだろうしな。


 無限鞄から薪を出し、伸縮能力で大木に。結界刀であらよっこらよっどっこいしょーで薪の山ができました。


「って、なんでここでやった、オレよ!?」


 薪の集積場は城にあんだろうが。しかも運ぶことも考えてなかったわ!


「どうすっぺ?」


 まあ、無限鞄に入れるのが一番なんだが、大木を薪にするので疲れた。入れるのも億劫だぜ。


 コーヒーを飲みながら考えていると、シュードゥ族の一団が門から出て来た。


 なんや? と見てたらこちらへとやって来た。


「ベー様。薪をもらってもよろしいでしょうか? 街の薪がもうなくて、炊き出しができないのです」


 おっ、そりゃ渡りに船。ドンドン持っていきんしゃい。


「あ、それと人手が空いたらこの実を集めて、空いてる船に積んでくれ。薪と交換だ」


 援助はするが対価があるならもらいます。


「あと、もう一つ。コーヒーモドキは毎日飲めよ。まだ外に黒丹病の元凶がいるんでな」


 根絶やしにするには年単位でかかるだろう。それまではコーヒーモドキは飲み続けたほうがイイ。将来、本当のコーヒーを普及するためにも、な。


 薪はシュードゥ族に任せ、オレは街へと向かう。そろそろトータたちの様子を見にいかんとならんしな。

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