第1108話 腐れメルヘンども

 市長代理殿や隊長から街の様子は聞いてたが、あまり復旧は進んでないようだ。


 黒丹病が蔓延する前は、道に露店が並んでただろう。そんな跡がある。


「……飛行場のほうに人が流れてたってことだが、なんか流れるようなものあったっけ……?」


 飛行場は西にあり、正門は南だ。これと言って栄える理由が思い浮かばねー。なんなんだ?


「冒険者が出る門ではないですか? 武器屋が多く並んでますから」


 と、ミタさん。なるほど、よくよく見れば冒険者を相手にしそうな店が並び、冒険者ギルドがあった。


「冒険者は逃げたか?」


 沈む船から逃げるネズミのように行動が速いからな、冒険者ってのは。


 まあ、それが悪いとは言わねーし、非難されることでもねー。情に負けて残るヤツは冒険者として失格だわ。


「炊き出しはしてるから人はいるんだな」


 立ち上がる煙が何十と見える。ここら辺の住民は結構生き残ってるのか? 


「ギンコとカイナーズの戦い、結構えげつなかったんだな」


 スクラップになった車は片付けられてるが、壊れた建物はそのまま。復旧はまだ先の先か。


「シュードゥ族って、種族総出で来たのか?」


 飛行場に集まったシュードゥ族は二、三百人いたが、飛空船の数と復旧する人数からすると千人はいるっぽいな。


「いえ、さすがに無理なので八百名を選出したと聞いてます。残りはジオフロントと魔大陸に分かれているそうです」


 たぶん、ジオフロントは比較的マシなヤツらで、魔大陸のは保守派。ここに来たのは推進派、かな? まあ、オレからしたら誤差みたいなもんだがよ。


「……市長代理殿に苦労をかけそうだ……」


 まあ、崩壊手前の都市を立て直すなんて苦労しかねーんだけどな。上手くやってもらいたいもんだ。


「なあ、ミタさん。ゼルフィング家としてメイド派遣部門とか創れる?」


 今さらな気がしないではないが、メイドはサプルの管轄であり、どうなってるかオレはまったく知らねー。念のため聞いておかんと。


「派遣、ですか? 遠征部はありますが……それとは別、にと言うことでしょうか?」


「各都市にメイド派遣商会を置き、メイド業を基本として市場調査や買い出しをさせたい。もちろん、資金はゼルフィング家で出す」


 ゼルフィング商会とは別とし、うちだけの、まあ、正確に言うなら他から干渉されない組織が欲しいのだ。


 まあ、カイナーズが関与しないわけはないが、ご協力いただけるのなら喜んでご協力いただくまで。オレが欲しいのは各地に情報収集する拠点だからな。


「ベー様のご命令とあれば創りますが、レッセルさんとの協議や配置転換、各地に商会を置くとなると相当時間がかかりますが?」


「時間がかかるのは当然だ。急がしたりはしないよ。まずはこのハルメランに建てくれ。今なら空いてる店か土地はあるだろうからな」


 都市が所有する場所もあるだろうが、どうせなら冒険者ギルドの近くがイイ。いや、商業区がイイかな? メイドを雇うのはそれなりに儲けてないとならないからな。


「ベー様。トータ様たちです」


 どうしたもんかと考えてたら、ミタさんがそんなことを言った。トータ?


「あんちゃーん!」


 と、マイブラザーの声。どこや? と視線をさ迷わせていたら頭の上のメルヘンさんが強制的に向けやがる。だから手加減しろや!


 無限鞄からエルクセプルを出していっき飲み。結界を纏っておかないと殺されそうだな……。


「あんちゃん、やっと会えた!」


 うん。軽く放置しててごめんな。


「どうした?」


「どうしたじゃないよ! いったいどうなったの?」


 カクカクシカシカ丸描いてチョン的なことがあったワケよ。わかった?


「そうなんだ~」


 と納得顔のマイブラザー。理解力があってなによりだ。


「……サプルもそうだけど、トータまでこうとは。なんて非常識な兄弟なのかしら……」


「……ベーだけが特別じゃなくて、兄弟すべてが異常だったのね……」


 羽メルヘンと花メルヘンが失礼なこと言ってます。オレから言わせたらテメーらのほうが非常識だわ! 主に存在自体がな!


「で、トータたちはなにしてんだ?」


「街の様子を見にと、依頼の失敗を伝えに冒険者ギルドにいこうとしてた」


「依頼?」


 この都市で? お前らが失敗? ちょっとわかるように説明しろや。


 カクカクシカシカあーだこーだと説明してもらう。


「なるほど。謎は解けた」


 そう言うことだったのね。


「今のでなにがわかったのかしら?」


「見て来たあたしたちが言うのもなんだけど、あれでわかるとかあり得ないわ。兄弟で通じる信号でも出してるのかしら?」


 本当に失礼なメルヘンどもだな。以心伝心、それが兄弟と言うものだわ。


「ようやくしたら呪われた銀竜姫の退治を別な冒険者ギルドで受けて、このハルメランで追い詰めたが、黒丹病で見失ったってことだろう」


 別に難しい説明でもなかっただろうが。


「トータは、その二十倍かけて要領を得ない説明したんだけど。それで要点だけ読み取るとか、ベーの中にはどんな暗号解読機が内蔵されてるのよ?」


 だったらトータに説明させんなや。お前がリーダーだろうが。


 前世の記憶があるクセにメルヘン脳に支配されてんじゃねーよ。それともそれが地か?


「そんなことより、その呪われた銀竜姫は退治されたよ。カイナーズにな」


「なにか証拠とかある? じゃないと冒険者ギルドは納得してくれないよ」


 まあ、そりゃそうだわな。


「なら、オレが説明してやるよ。ここの冒険者ギルドも見てみたいしな」


 せっかくだから冒険者ギルド見学といこうか。国外の冒険者ギルドってよー知らんからな。


「あれはイチャモンつける顔よ」


「むしり取ってやろうって顔じゃない?」 


 うっせーよ、この腐れメルヘンどもが!

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