第1105話 雪

 うん。あとは任せた。


 新たなメイドさんズが来たので、捌いたり煮たりを押しつけ、オレは自分用のコンロを創って一人焼き肉(?)をする。


「わたしも食べる」


 と、さっきは否定したクセにメルヘンがクエオルを食い始めた。気持ち悪いんじゃなかったのかよ?


「お肉になれば大丈夫」


 現代人みたいなこと言いやがって。君にはメルヘンとしての自覚がないのかね?


「無駄に美味しいわね、これ」


 メルヘンの舌にも合うのか。ファンタジーの生き物はよーわからんわ。


 焼いたものを爪楊枝(どこで見つけてくるんやら)で突き、旨そうに食っている。


「お酒が欲しくなるわね」


 知らんわ。勝手に飲みやがれ。つーか、なんでオレは焼いてばっかりなんだよ! いや、心情的に食べたくなかったんだけどね!


 もうちょっと胃の繊細な方にも毒──ではなく試食してもらいたかったが、結構な方のお口にも合ってるし、気分を悪くした方もなし。もう自分で試してもイイだろう。


 どれ一口と、イイ感じに焼けたクエオルを放り込む。


 モグモグ。ゴックン。うん、旨い。


 モツの食感って言うよりミノに近いかな? まあ、どっちにしろ万人受けする味だな、これは。


 鍋も作って試食。こちらも旨くてクセになる。寒い日に雪を見ながら食いたくなるな。公爵どのに持ってってやるか。


 雪がないここでは情緒に欠ける。ちょっと自分用に狩るとするか。


 ほとんどクエオルはカイナーズって連中に食われた。五十匹ほどあればしばらくは大丈夫だろうよ。


「ミタさん。オレは寝るからあとはよろしく」


 さすがに眠くなって来たんで先に就寝させていただきます。


「わたしも寝よ~っと」


 プリトラスを出して、さっさと引っ込むメルヘン。自由なやっちゃ。


 自由にかけては負けてられんと、オレも結界ベッドを創ってお休みなさい。


 ………………。


 …………。


 ……。


 ハイ、おはようございます。今日も元気に生きましょう~!


「って、いつの間に屋根ができてる!?」


 屋根ってか布か。なんでまた?


「この雪の中よく眠れるわよね」


 雪? と周りを見たらうっすら雪化粧。マジか!?


「……そんなに寒かったけ……」


 結界を纏っていたとは言え、寒さの気配はわかる。人の息、空気の乾き、音や風からもわかるものだ。


 別に測ったわけじゃないが、眠りにつく前は五度か六度だと思う。眠った時間も日付は過ぎて一時か二時。今が七時半だから四時間くらい。気温落ちるの速くね?


 まあ、気象に詳しくもねーんで、ここではあり得るんだろうが、もうちょっとわかるような気象になっててくれると助かる。結界なかったら凍死してるぞ。


「……滅多に降らないと聞いてたのにな……」


 滅多にないことが今日起きただけってことなんだろうが、それに当たるオレは運がイイのか悪いのか。まあ、なにはともあれミタさんコーヒーくださいな。


 寝たのか徹夜したのかわからんが、ミタさんの顔色は……どうなんだ? 褐色肌だからよーわからんわ。


「徹夜したのかい?」


 コーヒーを受け取りながら尋ねた。


「いえ、ベー様が眠ってから仮眠させてもらいました」


 それじゃ休んでないも同然だろうに。うちはブラック企業じゃないんだからしっかり休みなさいよ。メイドは他にもいるんだからさ~。


「じゃあ、ミタさんには二十四時間の休息を命じる。破ったらクビ。反論は認めぬ!」


 うちは働く者に優しい職場。そんな社畜根性はいらんのだ。


「ミタレッティー、そうしなさい。ベーはわたしが見とくからさ」


 別に君も休んでイイのよ。君の見とくは信用ならないからさ。


「……わかりました。では、こちらのメイドをお側に仕えさせますので、なにかあればご命令ください」


 なにやら久しぶりに見た三人組メイド(クルーザーにいたメンバーだ。と言ってもオレの中ではその他大勢だけどね)。まあ、好きにやってちょうだいな。


 朝食をいただき、食休みしてから狩りへと出かける。


「ってか、いつの間にかカイナーズが消えてたわ」


 キャンプ地にいるのはオレのみ。って言っても武装したメイドさんズが三十人くらいいるけどね! そして、十人くらいついて来てるけどね!!


 邪魔やな~とは思うけど、来んなと言ったところで言うこと聞かんだろう。なんか知らんメイド道とか持ってるからよ、うちのメイドはよ……。


「ぴー!」


「びー!」


「わーい!」


 うちの竜どもがやたらと喜び、庭じゃないけど元気に駆け回る。ウパ子はともかく、ピータとビーダは魔大陸出身なのに雪が平気って意味わからんわ。つーか、こいつらは冬眠せんのか?


「待ってー!」


 そして、いつの間にか混ざってる犬のような竜よ。お前の人に対する恨みはどこいった? お前、完全に犬になってんぞ。


「平和ね」


 頭の上のメルヘンが穏やかに呟きますが、昨日は犬のような竜と殺し合いをしてたんですよ。知ってます? オレは他人事として見てましたけどね。


 なんかもう、突っ込むのもメンドクセーので、狩りに集中することにした。


 さあ、オレの焼き肉ちゃん。じゃんじゃんバリバリ出ておいで~。

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