第1066話 カコット
次の日、朝早くチャンターさんが旅立っていった。
って話を昼過ぎに聞きました。ゴメン、チャンター。よき旅路となるのを海鮮スープをいただきながら祈ってます。
「……いつか背中を刺されるわよ……」
大丈夫。オレの背中には怨霊にも勝る幽霊さまが見張ってますから。レイコさん、背後は任せた。後、腐死系からも守ってもらえると助かります。
「ごちそうさまでした」
海鮮スープ、大変美味しゅうございました。
「ミタさん。緑茶ちょうだい」
お願いするとサッと緑茶が現れる。あんがとさん。
イイ感じの渋味を出した緑茶を飲んでいると、ミタパパが入って来た。お昼だけどおはよーさん。
「エルクセプル、移し終わりました」
「ご苦労さん。後の管理と販売は任せる。好きにやってくれ」
得た金はこの島の維持と用心棒なカイナーズに使い、残りはミタパパの取り分。ゼルフィング商会は専用の港を一ついただいて終了です。
「ありがとうございます」
ミタパパの一礼に湯飲み茶碗を掲げて答えた。
「あ、オレら明日には帰るから娘と団らんでもしな。ミタさん、明日まで休暇を与える。団らんして来な」
これは命令。反論は許しません。
「……畏まりました」
不承不承ながらも承諾するミタさん。そんな顔、父親に見せないの。泣くよ、ミタパパ。
って感じではねーが、話し合いはしておきなさい。ダークエルフの今後とかさ。
「帰るとき、なにで帰るの? クルーザー? プリッシュ号改?」
と、メルヘンさんが尋ねて来ました。
「そうだな。そう急ぎじゃないし、プリッシュ号改で帰るか」
クルーザーで外洋とか厳しそうだし、飛んだら味気ねー。もし、客が来たら転移バッチで帰ればイイだけのこと。なんもなければゆっくりでイイだろう。
「なら、出発準備をするわね!」
バビュンと飛んでいくメルヘン船長。よろしく~。
「人生急がば回れ。急いでないのなら遠回りしろだ」
ん? なんか今のフラグっぽかったな。ちょっと変えておくか。
「人生急がば回れ。急ぐならさらに回れだ」
それでフラグは折られたようで、三時のオヤツを過ぎても急変はやって来ませんでした。ふぅ~。
「ドレミ。部屋を掃除するから手伝ってくれ」
「はい。お任せください」
スライムからメイド型へとトランスフォーム。なぜか割烹着スタイルにハチマキをして箒を持っているのはサラリと流させてもらいます。
「ベー様。お掃除でしたら我々が行います」
ミタさんの配下のメイドが声を挟んで来た。
「ワリーな。薬関係は誰にも触られたくねーんだよ」
ミタさんなら構わんが、ミタさんと同じ能力を求めるほうが間違っている。非常識になるのはイイが、論外になるのは止めなさい。当たり前の幸せを失うから。
まあ、最初から論外なら構わんが、途中で論外になったら目も当てられないことになるからな。イイ証拠は考えなしに三つの能力を得た転生者だ。
エリナ然り。タケル然り。チャコ然り。それを修正するオレの身になってみろ。どれだけの労力を必要とするか考えてみろだ。
……まあ、それはそれでおもしろい人生になったがな……。
軽く準備運動してから部屋へと戻り、散らばった器具や器材、中途半端な材料を片付ける。
ドレミには片付けたところから掃除機(箒どこいった!?)をかけ、デカいゴミはどこか異次元に吸い込んでいた。
とりあえず片付けに集中! とばかりにえっさこらさとがんばりマス!
で、夕暮れ近くに片付け&掃除、終~了~で~す。はぁっ、疲れた……。
なんか新品に変えた? と問いたくなるソファーに腰を下ろし、メイドさんに冷たい果物のジュースをお願いする。
「この島で採れた果物を絞ってみました」
なんか白っぽい液体に訝しみ、メイドさんに目で問うたらそんな答えが返って来ました。
出したからには飲めるんだろうと口に含むと、リンゴっぽい味がした。
「……旨いな、これ……」
濃くはないが、あっさりしててオレの好き味だ。
「この島特有のものかな……?」
「いえ、チャンター様のお話では東の大陸のものだそうで、カコットと言うそうです」
オレの呟きにメイドさんが答えてくれた。こりゃどうもです。
「これ、まだある?」
「はい。二百リットルはあります」
結構生ってたんだな……って、忘れてた。ピータにビーダ、それにウパ子を放置してたわ!
念のため内ポケットを覗くが、珍獣どもはいなかった。あいつら生きてる!?
「ピータたち、なにしてる?」
デカくしまままだから目立つはずだ。園花館から出ず、放置していたオレのセリフではありませんけどねっ。
「ピータ様とビーダ様なら館の前に巣を作って眠っております。ウパ子様は海で海竜を食しております」
まあ、敵対してても死ねば餌。マヌケな顔をしていても弱肉強食な世界で勝ったんだから大いに食らえだ。
「魔石の回収と海竜の素材はいかがなさいますか?」
「婦人に任せる。ここじゃ売買もできんしな」
賑わうのは数年後だろうし、それまで死蔵させておくより商会で捌いてもらおう。竜の鱗は粉にして畑に撒くとイイ肥料となるからよ。
「畏まりました。フィアラ様にお伝えします」
上手く説明しておいてよ。
「あと、ウパ子に明日出発するから朝には館の前に来いと伝えておいてくれや」
聞かないなら置いていくまで。そのまま野生にお帰り、だ。
園花館最後の夜、だからなんだと言うことはないが、まあ、夕食はミタパパといただくか。今度、いつ会えるか知らんしよ。
メイドさんに頼み、夕食ができるまでカコットを楽しんだ。
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