第1064話 幸せ最前線

 皆よくやるよね。


 なんて、丸投げしているオレが言っちゃいけないことを心の中で呟いた。


 目の前で紅茶を飲む、ニューなタイプのメルヘンさんが訝しげな目をこちらに向けたが、こちらはチョーなタイプの村人。知らぬ存ぜぬな顔で受け止める。


 なんだよ? な感じで睨むが、ニューなタイプのメルヘンでもオレのチョーなタイプのハートの防壁を突破できず、おっかしいな~? って顔して紅茶に意識を戻した。


 あっぶねぇ~! とか心が震度八くらいで震えるが、表情は凪ぎ状態。飛び交う取り決めや今後の流れを右から左に流していた。


 結局、聞いちゃいねーんだが、細かいことをオレが知ったところでかかわりがないのだから流しても構わないだろう。


「なにをお考えで?」


 いつも突然、こっちの事情など知ったこっちゃねーとばかりにレイコさんが、オレだけに聞こえるように囁いてきた。


「世界のいく末かな」


 正確に言うのならオレを中心としたオレの世界だがよ。


「村人が考えることではないような気がしますが」


「村人だろうが貴族だろうが明日はどうなるか考えるだろう。イイ日になるよう願うだろう」


 考えないほうが怖いわ。


「逆に訊くが、今しか考えられない状況は幸せなのか?」


「…………」


 言葉が出ないと言うことは「幸せじゃない」ってことなんだろう。


 まあ、それも状況次第で人それぞれだが、今も考えられない者よりはマシだろう。


「畑を耕し種を植え、手間をかけて育て収穫する。言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなると苦労ばかり。知識と経験も必要だし、天候にも気をつかわなければならない。ふふ。そんなこと考えず作物が作れたら幸せなのにな」


 悲しいかな。生きることは考えること。考えを止めたら先はないのだ。


「他人任せなクセに偉そうに」


 偉そうなメルヘンが咎めて来ます。


「たった少数に決められた未来より、たくさんの者が求めた未来のほうがオレは幸せだと思うがな」


 少数が決めた未来が幸せならそれに越したことはない。が、そうじゃないヤツもいる。大抵は不幸せな方向に持っていくものだ。


「そんな単純な世なら苦労しないさね」


 小さい声で話していたが、どうやら皆さんのお耳に届いていたようで、すべての目がオレに向けられていた。


「そうだな。そんな単純な世じゃないから苦労する。誰も彼も今しか考えないから現状が変わらない。いつまで経っても不幸なままだ」


 世は変化し続ける、とは言うが、別にイイ方向に変化しているとは言ってない。悪い方向に変化しているかもしれないだろう。


「だったらお前さんが王となって導けや」


 なにか不機嫌な感じのチャンターさんが口を開いた。


「そうだな。オレが不老不死で不眠不休で動けるのならやってもイイが、悲しいかなオレは人。食わなきゃ死ぬし、寝なきゃ死ぬ。百年も生きられない人なんだよ。道半ばどころか一歩踏み出す前に死んでるわ」


 国を創るだけでも苦労なのに、王になって導けとか無茶ぶりにもほどがあんだろうが。


「オレができるのは幸せの形を見せ、導けるヤツを集めることぐらい。それでオレの人生は終わるよ」


 それでもオレの周りは幸せに満ち、豊かな人生とはなるだろう。そうなればオレ的には満足。愉快で楽しいスローライフを送れることだろうよ。


 ちなみにここを創ろうと思った理由はいくつかあるが、最大の理由は幸せの領域を拡大するため。その中心にいるオレまで不幸がこないようにするためだ。


「長命種のダークエルフが治め、生きる活力を持つ人が支え、力を持つカイナーズが守る。そして、名の知れた商人が富を運ぶ。ここは幸せ最前線。東に南に侵略してくれや」


 自由気ままな村人も東に南に向かい、好き勝手に幸せを押しつけ、オレのスローライフを送るための壁とします。


「是非とも堅牢で豊かな島にしてくれや」


 堅牢なら堅牢なだけ、豊かななら豊かなだけ、世の悪意や欲望はここに向けられる。他に向けられることは少なくなる。


 まあ、絶対はないのでいろいろ手は打つし、警戒は怠らない。自分の幸せは自分で築け、だ。


 最強の村人によるスローライフはワールドワイド仕様なのだ。


 意味わからんわ! って突っ込みはノーサンキューです。

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