第1059話 敗者

 プリトラスをミタパパの好みに仕上げるのに三日かかった。


 まあ、かかったって言うか、かかったそうだ。


 人それぞれの好み。変に口を出すのも悪いかと、金を出して自分たちでやってもらうことにしたのだ。


 もちろん、カイナーズホームに買いにいかし、細かいことはメイドさんにマルッとお任せしました。


 その間、オレは遊歩道を造ったり、飛空船用と潜水艦用の港を造ったりと、いや、時間を忘れて夢中になっていましたわ~。アハハ~。


「だが、後悔はない」


 ってか大満足。オレ、久々にイイ仕事したぜ!


 完成した作品を眺めなから飲むコーヒーの旨いこと。これだから物造りは止められんぜ。


「……なに一人で進めてるさね。旨いところを先取りしくさって……」


 クルーザーの上でまったりしてたらご隠居さんがジャジャジャーン。オレ、くしゃみしたっけ?


「なにと比べてるかは知らんが、不愉快さね」


 まあ、確かに。比べるのは失礼だな。あっちにはあっちのよさがあり、ご隠居さんにはご隠居さんのよさがある。でも、余所ゆきな顔でお茶を出してるメルヘンより、大魔王さんの娘さんのようなおしゃまな欠伸ガールに飛び出て欲しかったな~。


 ん? あれ? うちのメルヘン、なんかおしゃまな欠伸ガールに似てね? 気のせいか?


「……なんか失礼なことを考えてる顔だわ……」


「確実にしてるさね」


 改めてピーターパンって恵まれているような~って考えてたら白い目に突き刺されていた。あ、オレのライフが……。


 慌ててコーヒーに手を伸ばし、あとちょっとでゼロになるライフを回復させた。


「ライフ全快。気分爽快。元気元気でコーヒーうめー!」


 今なら竜でも狩れるぜ。いや、なんかフラグを立てそうなのでオークくらいにしておくか。オークなら千でも二千でもきやがれ! だ。


「で、なによ?」


 炬燵につかり、修羅のようなオーラを纏うご隠居さんを見た。


「……今なら怒りで魔王にでもなれそうさね……」


「おう。ガンバれ」


 なりたいのならなればイイと思うけど、うちには勇者ちゃんがいるから退治されるぞ。あ、魔王ちゃんが先かな? あの成長速度と言うか、進化のスピードはハンパねーからよ。


 そのうち戦略ニートを超えるかもな。仲良くなってよかった。


「おじいちゃん落ち着いて。あとでわたしがお仕置きしておくからさ」


「す、すまんな、プリッシュ殿。このバカをよろしく頼む」


 え? なぜに殿呼び!? いつの間に敬称つけるような仲になったのよ!? オレたち付き合い長いよね! 仲良しだよね? なんか裏切られた気分だよ!


「まあ、なんでもイイか」


 付き合っていればすれ違い勘違いがあるもの。時間が解決してくれるさ。まあ、人外の感覚でやられたらオレは死んでると思うけどね……。


「用がないんなら、オレ帰るよ」


 さすがにタケルを放っておくわけにはいかない。いやまあ、十日以上、放っていますけどね!


「用だらけしかない状況でよく言えるな!」


 用だらけ? なんだいそりゃ?


「これがベーとはわかっていても腹が立つぅー!」


 なんだい、いったい? 情緒不安定か? それとも長く生きすぎてボケたか? 何年生きてるかは知らないが、穏やかに暮らせよな。


「周りの人を波瀾万丈にしてるってわからないのかしらね?」


 オレは周りのヤツらに波瀾万丈にされているように思うのだが、皆、そこんとこどう思うよ?


 ──満場一致でお前が原因だ!


 とか幻聴が聞こえたが、幻聴なので気にしません。あーコーヒーがうめー!


 さて。身も心も落ち着いたし、帰りますかね。


「なに帰ろうとしてるさね?」


 炬燵から出ようとしたらご隠居さんに殴られた。なによ、突然!?


「言い出しっぺのお前がいなくてどうするさね! 最初くらい他人任せにするな!」


「だが断る! オレは強者の命令にはノーと言える村人だ!」


 なんてカッコよく断ったら、メルヘンがなにかご隠居さんに耳打ちした。


「なるほどのぉ~。さすがプリッシュ殿さね」


 え、なに? なんで悪い顔してるの?


 にんまりしたご隠居さんが消失。そして、すぐに現れた。腰抜けくんのところにいたいぶし銀のおっちゃんを連れて……。


「ベー様。皆様との顔合わせをお願いしやす」


 と頭を下げられた。


「ほら、断ってみなさいよ」


「どうした、強者な村人よ」


 嘲笑うように言う腐れメルヘンと腐れジジイ。グヌヌヌ!


「地獄に落ちやがれ!」


「「お前がな!!」」


 その日、村人が地の底に落ちましたとさ。めでたしめでたし。

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