第1003話 畜生め!

 直通エレベーターは、意外にもスムーズで、揺れ一つなく、カイナーズホームに到着した。


「技術的におかしくね?」


 猫くんがなにか訝んでいた。なにがよ?


「どこぞの高層ビルならわかるが、これだけデカいものが揺れもせず動くなんてあり得ねーよ!」


「技術進化してんだろう」


 オレ的にはどうでもイイこと。あ、そう、で終わりだ。


 直通エレベーターの扉が開き、店長と白いコンシェルジュさんが立っていた。


「いらっしゃいませ~。高級ホテル、お買上ありがとうございま~す」


「買わねーよ」


 バッサリと切り捨てる。もうあんたのノリに慣れたわ。


「プリッつあん、頼むわ」


「任せて~」


 頭から離脱して、喫茶店を売っているだろう方向に飛んでいった。コンシェルジュさん、よろしく。


「他になにかご必要なものはありますか? 今なら高級ホテルが二割引きですよ」


 まったくめげない店長。そのアイアンハートはどこから来んだよ? もうちょっと人の役に立つようなことに使えよな。


「高級ホテルはカイナがやってんだろうが」


「それがいまいち集客がなくて赤字なんです」


 だからオレに高級ホテルを買って補填しろって言うのか? と訊いたら満面の笑みで「はい!」と答えたそうだから流しておく。


「だったら酒とかお茶でも輸出でもしろよ。お玉さんところで売ればそれなりの売上になんだろう」


 あそこなら貴族も多いし、金払いもイイ。徐々に広めていって、あとはゼルフィング商会で委託販売してもらえば、カイナーズホームの維持費くらいにはなんだろう。


「なるほど。それはいいですね。ミタレッティ様、繋ぎ、よろしいでしょうか」


 様って、カイナーズホームでミタさんの位置ってどこよ? うちのメイドだよね? カイナーズホームでなんかアルバイトでもしてんのか?


「はい。わかりました」


 まあ、ミタさんの人生。オレが口出すことじゃねーか。


「それよりココノ屋ってどっちよ?」


 カイナーズホーム、無駄にデカいから、入ったところが違うとまったくわかんねーんだよ。


「ミレイ。ベー様をご案内して」


 白いコンシェルジュさんと同じ服を着ていることからして、このミレイさんとやらもコンシェルジュなんだろう。ってか、何人もいて採算合うのか? それとも結構需要があんのか?


「ミレイと申します。どうぞお見知り置きを」


 たぶん、店長と同じサキュバスなんだろうが、角が生えたヤツもいるんだ。


 ……なんでそう思ったかはご想像にお任せします……。


「あい、よろしく」


 顔は覚えました。名前は、カイナーズホームを出るまでは覚えておきます。


「では、こちらです」


 コンシェルジュのミレイさんを先頭にココノ屋へと向かった。


「ミレイさん。カイナーズホーム、そんなに売上がねーのかい?」


「お恥ずかしいことですが、ギリギリやっております」


 なんでよ? 人から何百億とかっさらっていったでしょうに。


「実はカイナ様が喪服の方からバルキリアアクティーを数十機買いまして、予算が圧迫しております」


「どっちもバカだからな」


 方向性は違うが、突き抜け方は同じ。もう処置なしだ。


「カイナを止めるヤツはいねーのかよ」


 そのうち破産するぞ。


「宇宙軍を組織すると言われたら反論できません」


「お前よりバカがいんの?」


 猫くん、ちょっと黙ってなさい。あと、オレを一番にしてんじゃない。オレはバカ野郎であってバカじゃねーわ。


「ま、まあ、カイナが決めたんなら好きにしろだ」


 岩さんを宇宙に上げなくちゃならんのだし、頼んだオレがどうこう言う資格はねーさ。


「おや、ベー様ではありませんか」


 と、後ろから声をかけられ、振り返ったら怨霊がいました。ヒィ~!


 コンシェルジュさんを盾にして、バーザさんの娘さんから距離を取った。


「クフフ。相変わらずですね。わたし、怖くないですよ」


 口をニタリと歪ませる不気味ガール。夜道では絶対に声をかけないでね!


「なんだ、このサダコ似のねーちゃんは? 幽霊か?」


 まったく恐れない猫くんは、興味深そうに不気味ガールへと寄っていく。


「あら、猫さんですか。可愛いですね。クフ」


 しゃがみ込んで猫くんの喉を指で転がした。いや、しゃべったことにコメントないの!?


「わたしは、コンゴウジアヤネと申します。よろしくお願いしますね」


「おれはマーローだ。そこで怯えているヤツの家で厄介になってる」


 なに、この猫くん。なんで普通に会話できんの? 不気味じゃねーのかよ。


「まあ、そうですの。仲良くしてくださいね。クフフ」


「ふ~ん。見た目は不気味だけど、中身は普通なんだな。なんで怯えられてんだ?」


「見た目が見た目ですからしかたがありません」


 なぜニヤニヤ笑う、不気味ガールよ!


「マーローさん、抱いてもよろしいでしょうか? わたし、猫大好きなんです」


「構わんよ。なんなら、運んでくれ。疲れたからよ」


 猫! お前の野性はどこにいった! あと、なに言っちゃってくれてんのよ!


「ご一緒してもよろしいのですか?」


「いいか?」


 ダメだわ、このクソ猫がっ! と、あらんばかりの念を送った。


「いいってよ」


「クフフ。ではお供させていただきますね」


 オレの念、届かず! こん畜生め!

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