第995話 防衛支店

 ん? あれ? 雑貨屋が変わってる!


「なにがあった!?」


 確かに来るのは久しぶりだが、ここまで変わるってどう言うことだよ! オレは浦島太郎になったのか!?


 前は田舎の駄菓子屋サイズだったのに、知らぬ間に二階建ての立派な建物に変わっている。こんなの街にもなかなかないぞ!


「ベー様。ここは、アバール様が買い取り、支店として営業しております」


 はぁ!? なにがどうなっちゃってんのよ? 買い取り? 支店? 意味わからんわ! ってか、おばちゃんはどこにいったのよ!


「サマバさん一家なら別の集落に引っ越しました」


「引っ越したぁ!?」


 なんでだよ! おばちゃんは村始まってから雑貨屋をしてる由緒正しき……なんだ? いや、なんなのかわからんけど、何十年とここで暮らして来たんだぞ、そう簡単に引っ越せるわけねーだろうが!


「新しい家と家具を用意したら喜んで譲っていただけましたよ」


 はぁ? いやいやいや、なに喜んで譲ってんだよおばちゃんよ! 雑貨屋としての矜持は……ねーか。いや、村人としての誇り……もねーか。あのおばちゃん、おしゃべりすんのがなにより好きだしな……。


 雑貨屋の売り上げなんて微々たるもの。利用客だって一日二人も来たら大繁盛。まあ、利益にはならんが、露店の管理費で食っているようなもの。


「あ、露店はどうなったんだよ?」


 店の前は馬車が停められるようになっている。これでは露店なんぞ開けねーぞ。


「露店も移りました。最近、立ち寄る馬車が多くて露店が開けないと嘆いておりましたから」


 まあ、露店は村のもんしか利用しないし、村人の足なら集落一つ変わっても不満は出ねーだろう。どうせそれをネタにしておしゃべりを楽しむんたからな。


「……この短い間に激変してんな……」


 いや、お前んとこほどじゃねーよ! っての突っ込みは甘んじて受け入れよう。オレはそこまで恥知らずじゃねー。


 偉ぶるほどじゃねーけどな! って突っ込みはノーサンキューです!


「ま、まあ、せっかく来たんだし、覗いてみるか」


 あんちゃんにオレを示しても意味がねーが、どんな店かは興味がある。なに売ってんの~?


 アバール商会カラヤ支店へとお邪魔しま~す。


「いらっしゃいませ~」


 と、四十前後のおっちゃんに迎えられた。ん? このおっちゃん、どっかで見たぞ。


「あ、転職さんか」 


 名前は完全に忘れましたが、顔は覚えてます。ドヤ!


 感心してくれる者まるでナッシング。賑やか要員(あ、プリッつあんのことね)を連れて来るんだった。


「はい。ミラジュと申します」


 ミラジュさんね。覚えた覚えた。ミタさんが、ね。次回、後ろからこそっと教えてね。レイコさんだとたまにゾワッとするからよ。


 ……そう言や、最近レイコさんが現れんな? 成仏してくれたか……?


「いや、いますから。ただ、姿を消しているだけです」


 うおっ! ゾワッとした! 心の声に反応しないでよ!


 存在を完全に忘れているオレのセリフじゃないが、ちゃんと存在することを示してよ。皆に忘れられちゃうよ。


「どうかなさいましたか?」


「あ、いや、なんでもねー。気にせんでくれ」


 幽霊と交信してますとか、痛い人を通り越して危ない人だよ。友達になっちゃダメな人だよ。


 改めて店内を見回す。


「……雑貨屋だな……」


 うん。それと言って変わった物がない普通の雑貨屋。山の店より劣っていた。


「はい。一般の方を相手にした店ですから」


 なにか含みのある笑みを見せるミラジュさん。なにか理由があるってことか?


 もう一回、店の中を見回した。


 棚にある商品は村で使うものや旅に必要なもの。冒険者相手に武器も置いてある。


「充分な品揃えで品質もイイか」


 やはり、山の店より商品は劣っている。が、こんな田舎で売るには惜しいものばかりだ。街で売ったほうが断然利益になるだろう。


「……選別、か……?」


 山の店に適した客かそうでないかを。


「それと、この村の防衛ですね」


 防衛?


「この村は、ベー様の大切な故郷。そして、世界貿易ギルドを守るための拠点。探りを入れるとなればまずここに来ますからね」


 なるほど。よく考えている。


「だが、あんちゃんの考えではねーな。商人としての先見の明はあるが、これは軍事を知っている者の考えだ。って、カイナしかいねーか」


 あんちゃんや親父殿が優秀でもそこまで考えるには至らない。せめて国に従事して軍事に携わってなければ考えもつかないだろう。まあ、テキトーな推論だけどよ。


「はい。さすがにカイナーズの方をここに配置することもできませんし、ゼルフィング商会は拠点があるだけでほとんど村の外で商売してますから」


 言われてみればそうでした。宿屋はオレの知り合い用に造ったもんだし、港の工房は作るだけ。売るのは他所だしな。


 結果、あんちゃんのところになるわけだ。うん、ごめんよ。


「なんかワリーな、貧乏くじ引かせてよ」


 もっと利益の高いところで働いても充分な能力持ってそうなのによ。


「いえいえ、そんなことありませんよ。ここでも充分な利益は出ますし、重要な役目を与えられて誇らしいです。それに、なかなか楽しいところですよ。王都以上にいろんな方が訪れて来ますから」


 まあ、街道沿いだしな、いろんなのは来るだろうさ。


「王都だと決まったお客様ですからね」


 意外と交流がねーんだな、王都の商人って。


「そうだ。奥も見てみますか? 食堂もやってるんですよ」


 マジ村にはすぎた場所だな。


 まあ、せっかくなので食堂を見せてもらうことにした。

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