第971話 戦略兵器ニート

 こう言うときは、真っ先に動いたもの勝ち。場を握ったものが勝者なのだ──とばかりに公爵どのを見る。


 どうすんだよ? ってな顔で。


 責任放棄? 責任転嫁? いや、これ、バイブラストの問題よ。オレになに一つ責任ないよね? あるって言うんなら三百年後に聞こうではないか。そのときにゆっくり聞かせてもらうよ。


「え? おい! なんだよそれ! お前がなんとかしろよ!」


「おいおい、あれはバイブラストの身内だろう? いくら友達でも家庭内のことには首を突っ込めないよ」


「お前、娘を売ったよな? なんかとんでもないことに突き落としたよな?」


 そんな公爵どのにあえて言おう。


「我が判断に一片の悔いなし!」


 とな。


 本当にあれはイイ判断だった。最高と言っても過言ではない!


「外道にもほどがあるわ!」


「そうだ。外道だ。だが、ダチへの義理を忘れるほど畜生じゃねー! 冷静に考えろ! あのデッカイねーちゃんを得ることにより生み出される価値を。失う損を。どちらがバイブラストにとっての利かをな!」


 オレはいらない。得られる価値より失う損を取る。だってニートだよ? 他人の金で食う飯は最高とか言っちゃうニートだよ? 家にいるだけのニートだよ? あと、いろいろニートだよ?


 なあ、そんなヤツ、本当に欲しいのか?


「……どう考えても損しかなかろうが……」


「本当にそう思うか? 本当に損しかねーと思うのか?」


 価値はある。ニートとして見るから見るものまで見えなくしていることに気がつけ。


「よく見ろ。あれを見ろ。デッカイねーちゃんを包んでいた黒いものを」


 ここから距離があるため、サイズはわからないが、見た目には硬そうに見える。


「これはオレの勝手な憶測だが、あれは硬い。並みの力では破壊されないだろう。硬いだけじゃ使えないとか言うなよ。ここではカーレント嬢は神にも匹敵する力を使える。なら、あれを加工できる工作機器を創り出せばイイだけのことだ」


 それはもう金鉱脈を掘り当てたくらいの富を生む。デッカイねーちゃんを養っても余りうる富だろう。


「オレの憶測が外れてた場合でも問題ねー。デッカイねーちゃんの体からは鱗が取れるし竜の髪と言うだけで使い道は千はある。これも想像だにしない富を生むだろう」


 生きている限り生み出す。まさに金の鉱脈ならぬ富の鉱脈だ。捨てるバカはいない。


 いや、訂正します。ここにいます。アイ・アム・バカ。ヴィベルファクフィニーです。


「それを捨てると言うのか?」


「だが、出元が怪し過ぎる。要らぬ勘繰りを受けてしまうだろうが! ただでさえ真珠で勘繰りを受けているんだぞ」


「それに勝る富を得たんだろうが、そんなもの損とも言えねー」


 真珠がどれだけ富を生んだか知らないが、真珠のネックレスが金貨五百枚くらいで売られたと言う情報はつかんでいる。


 ましてや公爵どのには真珠を万の単位で売っている。それで損しているなど言えるわけがねー。


「そして、それ以外を見ろ。ここにはバイブラスト数百年、いや、数千年の歴史が眠っている。修復する道具でも創り出せばさらに富を生むだろうよ」


 ここにある物は廃棄物じゃねー。過去から受け継がれた財産だ。デッカイねーちゃん一人養うのも簡単だ。


「勘繰られると言うが、それは帝国へ向けて売ろうとするから勘繰られるんだよ。世界を見ろ。人が住む大地はここだけか? オレの側にいてなにを見てきた。ヤオヨロズ国には世界貿易ギルドがあるんだぞ」


 なにも生産者が製品を売る決まりはないし、売れる物を買い、欲しいヤツに売ることに長けた商人に任せたらイイのだ。


「国営ならぬ公営の商会を立ち上げろ。そこで得た金は他の国に預けろ。ほら、誰も知らない裏金のできあがりだ」


 前世なら不正だなんだとうるさいだろうが、今の時代で真面目に手の内を明かすなどアホのすることだ。奥の手を何個も用意しておかなければイイように利用されるだけだ。


「公爵どのの、と言うか、バイブラストの力は子々孫々まで受け継がれることだ。最初、嫁が何人もいると聞いたときは物好きな男だと思ったが、バイブラストの秘密を知った今ならわかる。未来にバイブラストの血を残すためなんだってな」


 まあ、呪いなんじゃね? とは思わなくはないが、これだけの富を生み出すのなら、それは祝福だ。先祖からの贈り物だ。ならば、受け継ぐのか子孫の役目。次に受け継げ、だ。


「……お前、なにを考えている……?」


「すべてを公爵どの、いや、バイブラストに押しつけること考えている」


 天地天命に誓ってウソは言ってない。なんなら、オトンの名は……確認しないとわからないので、村人の名に誓ってもイイ。


「よく考えろ。得るもの、捨てるものの価値を。それでも、それでもデッカイねーちゃんを養えないと言うのなら、すべてを捨てろ。デッカイねーちゃんとバイブラストとは関係を断ち切れ」


 利を得るなら損も受け入れろ。それは表裏一体なもの。どちらか片方だけ取れるとは思うな!


「……すべてを断ち切った場合、リオカッティーはお前が引き取るのか……?」


「正直、いらねー。だから、バイブラストの利を一生懸命説いてんだよ」


 オレに得になることはなに一つない。まったくねーんだよ。


「これが最後の忠告だ。そして、決めろ。デッカイねーちゃんを捨てるな。バイブラストの宝にしろ。損より利が勝る存在だ」


 お願い! 引き受けると言って!


「バイブラストの長として、友人たるヴィベルファクフィニーにお願いする。リオカッティーを引き取ってくれ。リオカッティーに関わるすべてを差し出す」


「カイルド・カニファ・バイブラストの名に懸けてか?」


「ああ。カイルド・カニファ・バイブラストの名に誓って」


 深い、深いため息を吐く。


「……イイだろう。村人の名に懸けて、デッカイねーちゃんはオレが受け入れる……」


 はぁ~。まったく、バカな男だ。戦略兵器を捨てるなんてよ。クックックッ。

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