第963話 典型的な男

 昼食を済ませ、集合場所たる玄関ホールにやって来ると、見学者の人数が増えていた。


「え、誰?」


 見学者は公爵どの、夫人二人、長官、課長、班長、カーレント嬢に、四人のねーちゃんたちが混ざっていた。なにやら大荷物を抱えて。


 ちなみに、オレらはいつものメンバーね。あと、製作者としてプリッシュ号が気に入ったのは嬉しいが、いつまで乗ってんだよ。皆の周りを飛んでんじゃないよ。邪魔だよ。


「わたしのお友達ですわ」


 にこやかに説明してくれるカーレント嬢。あ、そうですか……。


 それ以上は求めない。なんと言うか、カーレント嬢と同じ臭いがプンプンと伝わって来たからな。


「連れていくのか?」


「はい。皆さんはお友達ですが、一緒にマンガ道を極めようとする同志ですから」


 うん、同類な。


「そうかい。だが、これからバイブラストが秘匿している場所に行くんだが、バイブラスト的にはイイのか?」


 と、苦虫を噛み締めたかのような表情をする公爵どのを見た。


 久しぶりの父娘の再会を楽しめと、昼食は別に取ったのだが、なにやらそこでなにかがあったらしい。


 ……よかった。別にして……。


「よくはない」


 だが、押し切られたってことね。ご苦労さまです。


「気にしないでください。シラトリさまからお友達を何人連れて来ても大丈夫と言われてますから」


 オレは訊かなかったが、エリナは聞いたらしいな。


「なら、構わんだろう。これからカーレント嬢が受け継ぐんだからよ」


 オレが口出すことじゃねー。勝手にしろだ。


「そんで、どっからいけんだ?」


 玄関ホールを集合場所にしたのは公爵どのなのだ。


「……こっちだ……」


 と、外に向かって歩き出した。


「公爵どのしか知らねー場所なのか?」


「いや、場所自体は誰でも知っているし、誰でもいける。ただ、秘密を知っているのはおれだけだ」


 公爵ともなると、いろいろ秘密を抱えなくちゃならんとはな。気苦労が多いこった。


 城は領都の真ん中にあるので、裏山的な場所や谷的な場所もない。広大ではあるが、それらしい場所はない。どこだろうとワクワクして着いた場所は、小さな小屋だった。


「庭師の小屋?」


「に見せかけている。本当は城の地下からいけたらしいのだが、どう探してもないのだ。おれが継いだときは、ここともう三ヶ所からしか行けなくなっていた」


 廃止したときに封鎖でもしたのかな? 


 小屋の中に入ると、隠蔽用に道具が壁にかけてあったり荷物が置いてあったりした。


 公爵どのが小屋の真ん中で突然しゃがみ込み、床の板を外した。


 ってか、主人にやらしてイイの? と長官を見ると、その視線の意味を理解したらしく、課長と班長に手伝えと指示を出した。


 床板が外され、現れたのは表面がツルツルした一メートル四方ある石碑だった。


「バイブラストが命じる。道を開け」


 と、石碑が砂塵のように崩れ、地下へと続く階段が現れた。


「他も同じなのか?」


「ああ。おれしか開けられない」


 のはずはないが、それを口にするのは憚れたので黙っておいた。


 階段は狭いが、下りたら結構広い通路に出た。さしずめ、あの石碑は作業員用扉でここは避難路って感じだな。


「……さすがに箱庭以外は数千年は持たないか……」


 朽ち方が酷い。前世なら立ち入り禁止となってるところだぞ。


「直すにもままならんからな」


 確かにこれだけのものを修復しようとしたら大事業になる。もう秘密にはできんだろうよ。金もかかるだろうし。


「予算を組んで直せ。たぶんこれ、どこかに通じてんだろう?」


「ハレン湖まで続いている」


「なるほど。これがバイブラストに飛空船がある理由か」


 バイブラストの飛空船と小人族の飛空船は、規格や魔力炉の規格が違う。まあ、簡単に説明したらバイブラストのはディーゼルエンジンで小人族のはガソリンエンジンって感じだ。


「まったく、お前はバイブラストの秘密を明かしすぎだ」


「その割にはバイブラストに飛空船って少ないよな。オレ、リオカッティー号しか見たことねーぞ」


 他にあるって話も聞いたことねーな。


「帝国との取り決めで飛空船を所有するのはリオカッティー号だけとなっている。バイブラストは造るだけだ」


「帝国ってそんなに飛空船持ってたっけ? いや、持っているって話は聞いたことあるがよ」


 小人族と付き合いがあると忘れがちになるが、飛空船は技術の塊。前世で言えばスペースシャトルみたいなものだ。持ってはいてもそう頻繁には使えないものなのだ。


「何隻とは言えんが、いくつかの飛空船団はある」


「つまり、まだ軍事利用の段階ってことか。民間に下りてくるのは遥か先だな


「村人なら村人らしく無知でいやがれ。政治犯で牢獄送りになるぞ」


「牢獄か。秘密基地にイイかもな」


 灯台もと暗し。まさかそんなところに隠れ家があるとは思うまいて。


「……帝都ではわざと捕まらないでくれよ……」


「冗談だよ。前科持ちになるほど酔狂じゃねーさ」


「酔狂でやっちまうから言ってんだ! ほんと、止めろよな!」


 チッ。わかったよ。牢獄スローライフとか、イイと思うんだがな。


「ベーを閉じ込めておきたいのなら結婚させて家庭を持たせたらいいんじゃない。奥さんに頭が上がらなくなる典型的な男だと思うし」


「ダハハハハ! 確かにそんな感じだな! よし、お前に似合った嫁をおれが捜してやるよ!」


 いらねーよ! そんな牢獄と同等な家庭なんぞ持ちたくないわ!

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