第956話 ちゃんちゃん

「まあ、話を戻して、だ。牙ネズミやタコと言ったバイブラストを苦しめて来たものは箱庭から漏れたものだ」


「漏れた?」


「漏れたでも逃げたでもイイ。箱庭に生息してたが、なんらかの支障が出て、割れ目から出て来たんだろう」


 箱庭に出入りできる扉はいくつかあったが、どこも堅く閉じていた。そこからは出れないとなると違うところから出たと言うことだ。


「……き、危険なのか……?」


「あとちょっとで大惨事、ってところだった」


 秒読み段階的と言ってもイイだろうよ。


「お前が直したのか?」


「いや、管理者が直した」


 オレは力を貸したまで。結界と同じ力だったのでな、とは言わないでおこう。親しき仲にも秘密あり、だしな。


「……管理者……?」


「リッチ級の不死人だ。あと、護衛に新種の……なんだっけ?」


 レイコさん、補足プリーズです。


「プラヌグラーニーです」


「──ひっ!?」


 レイコさんが姿を現したようで、第二夫人が驚いた。


 第二夫人は初めてだろうが、オレたちには二度目なので簡単にレイコさんを説明。サラッと流した。


「……わたしの扱い、雑になってません……?」


 それで納得できるのならいくらでも肯定してやるが、どうする? と振り返る。


「そう言うのが悪霊を生むんですからね!」


 もうオレの中で普通の幽霊も悪霊も目くそ鼻くそだって言ったら怒るかな? 怒るよね。ならお口にチャック。夜な夜なうらめしや~なんてやられたら嫌だからな。


「まあ、レイコさんの百倍ヤバいのと国一つ滅ぼせるプラヌグラーニーがいる訳だ」


「……お前でもヤバいのか……?」


「オレは金輪際、関わりを持ちたくねーので、箱庭に行きたきゃバイブラストでなんとかしろ。オレは金貨一万枚積まれようと絶対に行かねーからな」


 それで断絶できないことはわかってはいるが、避けらるのなら極力避けさせてもらいます!


「……そんなに、なのか……?」


「それ以上だ。あそこは完全封鎖しろ。ダンジョンからでも箱庭に行けるはずだからよ」


 それでバイブラストの平和は保たれる。主に精神面で。


「それはもう箱庭に行くなと言っているのと同じだ。ダンジョンはまだ制覇途中なんだからよ」


「なら諦めろ。仮に管理者の許可を得ようが箱庭で活動することはできねー。ただただ命と時間を消費するだけだ」


「なら、未曾有のときになっても助からねーだろうが!」


「だろうな。だが、そこで無理だと言って諦めるならそこで死ね。そんな根性なしに未来なんて訪れねーよ。どんな状況に陥ろうと、死にたくない、生きたいとガンバった命だけが未来を得られるんだからな」


 偉そうに、なんて頭の悪いことは他で言ってくれ。そんな平和ボケしたセリフ聞かされたらオレの耳が腐るわ。


「とにかくだ。箱庭から利益を得たいのならその六倍は損することを覚悟しろ。ダチからの精一杯の助言だ」


 それでもやると言うなら止めはしない。好き嫌いで領地経営はできないし、そこに儲けがあるのを黙って見過ごせないのが人ってもんだからな。


「……わかった。箱庭は諦める。だが、なぜおれらにエルクセプルを見せたのだ?」


「それで諦めろと言うのも酷だし、バイブラストの資産で作ったものだからな、その使用料って訳さ」


「……あれ一つで戦争が起こったことがあるんだぞ。もっと穏やかので払いやがれ……」


「メンドーなら内々で使っちまえ。足りなくなったらまた作ってやるからよ」


 材料もありがたく集めさせてもらいましたので、あと百は余裕で作ってやれるぜ。


「できるか。すぐにバレて他から押しかけて来るわ」


 まあ、効き過ぎる薬は逆に使えねー。これ、薬師になるとき教えられるのだ。なにごともバランスが大事だってな。


「これは、門外不出級の情報なんだが、エルクセプルってな、作るだけならそう難しくはねーんだよ。そこそこの薬師でも作れたりするのさ」


 まあ、一からとなると難しいが、材料、配合、調合さえわかれば簡単なものだ。


「欲しいのなら材料と作り方を教えてもイイぜ」


「……つまり、それだけではエルクセプルたり得ないってことか」


 さすが公爵どの。そう簡単に騙されてはくれないか。


「ご名答。エルクセプルは作った瞬間から劣化して行く。十、数えるうちに飲まないと効果は十全に効かねーんだよ」


 簡単なのに広がらない理由がそれなのだ。


「さらに言うと、材料も保存が悪いと効果は薄くなる」


「どうせ材料も集めるのが大変なんだろう?」


「いや、国家予算の半分も使えば集められんじゃねーか? この大陸にあるやつで作れるからな」


 世界樹もあるし、竜の腎臓も手に入るし、コガの実も霊水もあるし、アレやコレもある。何千人と人を使えば半年で集められんじゃねーの?


「ああ。無理だってのはわかったよ」


 諦めんの早いな。まあ、それほど熱意がねーってことだろうよ。


「つまり、容器が最大の問題ってことか」


「ああ、そうだ。状態維持効果がある器に収めて無限鞄に仕舞えば完璧だな」


 それくらいなら帝国にあんだろう。


「……つまり、エルクセプル一つで戦争が起きても不思議じゃねー状況に変わりなし、ってことだ。ふざけんな、こん畜生がよ!」


 ちゃんちゃん。

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