第929話 ビビッドビット

「いちいち城に転移すんのもメンドクセーな」


 門から出てしばらく歩き、ふと城へと振り返って愚痴ってしまった。


 ここから街に出るのも結構時間がかかる。まあ、二十分程度だが、お世話さんやメイドさんやらとのやり取りが手間なのだ。


「では、家を借りますか?」


「そうだな。転移用に借りるか」


 まったく、街は不便だぜ。転移したいところに転移できないんだからよ──って、贅沢な言い分か。大陸すら簡単に飛び越えちゃう身では……。


「あんちゃん、あたしたち、ガラス工房街にいって来るね~」


 フフ。諸君らサプルたちはいないと思ってたろう。うん。その認識は正しい。オレもいないと思ってた。つーか、いなかったよね!? どっから現れたのよ?!


「あ、おう。気をつけてな」


 まあ、サプルなら可能だろうと理解し、レディ・カレットと駆けていく二人を見送った。


「じゃあ、わたしたちも──」


 追いかけようとするカバ子とルンタを引き留めた。


「お前らはオレとだ」


 そのために連れて来たんだからよ。


「いったいなんなのよ?」


「それは着いてからのお楽しみだ」


 まあ、楽しくなくても責任は取らんがな!


 文句を言うカバ子の言葉を右から左に流しながらスラム街を目指した。


 で、スラム街に到着はしたものの、これと言った計画(予定か?)はなし。どうすっぺ?


 前に来た下水道へと通じる場所で考えに入る。


「……スラムで堂々と茶を飲むとか、ほんと、イカれた野郎だぜ……」


 テーブルを広げ、コーヒーを飲みながら考えていると、茶猫がテーブルの上でペ○シを飲んでいた。


 同じテーブルには、カバ子やルンタがいて、オレンジジュースっぽいものを飲んでいた。


「お前だってペプ○飲んでじゃん」


 缶で飲めるお前の体の構造のほうがイカれてるわ。


「バットで橋を壊すヤツの側にいたら怖いものなんてねーよ。マフィア、まったく寄って来ねーわ」


「困ったものだな」


 自らエサにしてんのに全然寄って来ねー。それどころかオレの情報が配布されてんのか、姿を見るなり逃げ去っていた。


「軟弱なマフィアだぜ」


「いや、まっとうな判断だろうが。賢くなきゃマフィアなんてやってられるか、すぐに死ぬわ」


「地域性か」


 寒いところと暖かいところでは習性やら物の考え方が違うしな。


「……それで片付けられるお前が恐ろしいよ……」


 ったく、猫のクセに常識に囚われやがって。もっと柔軟に思考しろや。


「寄って来ねーのならしょうがねー。こちらからいくか」


「……どこにだよ?」


「んなもん決まってるだろう。スラムを仕切っているヤツのところさ」


 と、ニヤリと笑って見せた。


「……無茶苦茶なこと言ってんのに、無茶苦茶なことに感じない自分がいるよ……」


 そうやって生きていく強さを身につけていくものさ。ガンバレ。


 テーブルやらなんやらを片付け、まずは、そこそこ立派な建物を探した。


 木造の二階建てがほとんどで、それ以上となると嫌でも目立つ。しかも、襲撃されないようにとか、強さを示すかのように人を配置するのがマフィアの基本だが、どうも領都のマフィアは一味違った。


「ここのマフィア、予想以上に賢いようだな」


 まず、そう言った目立ったことはせず、らしい建物を拠点としてない。


「マフィアの拠点ってどこかわかるか?」


 住んでいる茶猫に訊いてみる。


「いや、わかんねー。下っぱはカロゲって酒場にたむろしているようだが、幹部連中は滅多に姿を見せねーからよ」


 なんつーか、マフィアってより結社っぽいな。


 秘密結社ってならお手上げだが、スラムの結社ならそう手の込んだ拠点にはしねーと思う。ありきたりで誰もが知っていそうな場所を拠点にしているんじゃねーかな?


 スラムの情報が一手に集まり、そこに集まることが当たり前で、誰もが疑わない場所、とかな。


 まず一番に思いつくところは酒場だが、下っぱがいるならそこじゃねー。あとは、店とか広場、虚をついて教会なんかもあるか。


「スラムに教会ってあるか?」


「そんなものあるかよ。神に見捨てられたようなヤツばかりなんだからよ」


 そうなると益々厄介だな。神の奇跡より仲間の絆を大切にしているってことだ。


「力や恐怖で支配してくれてたら楽なのによ」


 結社って線が益々高まって来たぜ。


「とりあえず、こんなときの出会い運。ビビッドビット。むむ。あっちか」


 と、テケトーに歩み出す。


「……なんの電波を受信したんだよ……」


 行き当たりばったりでイイんじゃね? って神からの啓示さ。

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