第921話 ヒーロー

 じゃあ、いくかと思ったが、時間も時間なので、出かけるのは明日にした。


「まだ寝るには早いが、どうする?」


 時刻は四時半過ぎ。やりたいことがあるなら好きにしてイイぞ。


「どうすると言われても、娯楽の少ないところでは寝るしかねーよ」


 まあ、そりゃそうか。そんなゆとりもねーしな。


「ちなみに、お前の趣味ってなによ?」


 なんかこいつの趣味嗜好ってタケルやエリナの方向に向いているような気がする……。


「…………」


 オレの問いに俯く茶猫。恥ずかしい趣味なのか?


「あ、いや、言いたくねーのなら別に言わなくてもイイぞ」


 人には内緒にしたい趣味もあるだろうからな。


「……アメコミだよ……」


 なにか、ボソッと口にした茶猫。なんだって?


「アメリカンコミックだよ」


 アメリカンコミック? って、アメリカのマンガってことか?


「スーパーな野郎や蜘蛛男なヤツか?」


 あまり詳しくはないが、スーパーな野郎や蜘蛛男がマンガだったのは知っている。


「なんだよ、スーパーな野郎とか蜘蛛男って?」


「世界は違えど守らなくちゃならない決まりとかあんだよ。察しろ」


 オレだって素直に口にできたら楽だが、世の中にはいろいろな決まりがあり、避けるべきことは避けるのが自分を守ることに繋がんだよ。


「……面倒臭いな……」


 生きるってのはそう言うものさ。受け入れろ。


「本とか集めてたのか?」


「ああ」


 と短く返事する茶猫。なんだってんだ? そう渋るような趣味でもねーだろうに。

「……もしかして、なりたいほうの好き、なのか?」


 まあ、それだったら言うのを渋るのもわかるがよ。


「……そうだよ。文句あんのかよ……」


「いや、別に文句はねーよ。それぞれの趣味嗜好だ、人を殺すのが大好きです! とか言われたら速攻であの世に送ってやるがよ」


 オレは殺すより活かす派だが、人を殺すのが大好きですとか笑って言うヤツを受け入れられるほど寛大じゃねー。そうかと言って殺戮阿吽を振り下ろすわ。


「……まず、お前を倒したほうが世界のためになんじゃね……?」


「そうしたいのなら好きにしたらイイさ。オレは敵を差別したりしねーからよ」


 オレの敵、皆平等の精神で相手してやるわ。


「いや、お前に勝てる気がしないからやらねーよ」


 それは賢明だ。かかって来たらオレ好みの長靴を履いた猫にしてやるぜ。いや、かかって来なくても好みの長靴を履いた猫にしちゃうけどさ。


「アメリカのマンガって豊富なのか?」


 本屋で見たことねーけどよ。


「日本と比べたら微々たるものだが、映画はたくさん出てるぜ」


 いろいろタイトルを聞いたが、記憶に当たるものはスーパーな野郎と蜘蛛男くらい。他はまったく聞き覚えがなかった。つーか、映画はあんま観ないほうだったな。本を読むほうが多かったからよ。


「お前は、なんのヒーローが好きなんだ?」


 世界最強を願うくらいだから、やはりスーパーな野郎か?


「……アメ○カン・ヒーローだよ……」


 はん? いや、なんのヒーローだと訊いたんだが……。


「知らねーのか? 八十年代始めにやってたドラマさ。まあ、まだ生まれてないんでリアルでは観てねーけどよ」


 オレはリアルに生きてたが、人生が輝いていた時代だったからテレビなんて観てなかったわ。


「まあ、コメディ要素が多かったが、おれは、あんな主人公が好きだ」


 憧れのような自嘲のような、なんとも器用に笑いやがる。お前、ぜってー猫じゃねーよ。


「とっかかりは人それぞれ。憧れから入るのもイイんじゃねーの」


 オレはカッコイイから入るタイプだし、他人にどうこう言えねーよ。


「どう言うストーリーなんだ?」


 物語は好きなので、そのア○リカン・ヒーローとやらのストーリーを聞かせてもらった。うん、おもしろそうなストーリーだな。


「DVD、カイナーズホームに売ってかな?」


 ちょっと観たくなった。あるんなら欲しいぜ。


「カイナーズホーム? ホームセンターかなにかか?」


「ホームセンターだよ。いや、ホームセンターと言ってイイのか、あれ?」


 戦闘機から空母まで売ってるし、なにを目指しているかもわからない店。正々堂々ホームセンターをやっているところと同じカテゴリーにしたら失礼じゃね?


「まあ、バカ野郎がやってるバカな店だよ。そうだな。三兄弟の身の回りを揃えるついでにバカ野郎にも紹介しておくか」


 カイナならアメリカのマンガにも詳しだろう。バカな野郎だから。


「ミタさん。カイナーズホームにいくから夕食はいらないから」


 ちなみに部屋代にミタさんやメイドさんはいますが、結界を張って聞かれないようにはしてました。


「畏まりました」


 頷き一つでメイドさんに指示を出すミタさん。以心伝心か?


「んじゃ、いくか」


 茶猫の後ろ首をつかんだ。


「……説明はなしかよ……」


「見て聞いて感じて、己で判断しろ」


 決して説明すんのがメンドクセーからじゃないよ。いや、カイナーズホームをわかるように説明しろとか無茶ぶりだわ!


 転移バッチ発動。カイナーズホームへ!

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