第919話 お受けします

 皆は、学生ってとき、学校から親を呼び出されたときはあるかい?


 悲しいかな、オレは一度だけある。あ、呼び出されたと言っても悪さをしてじゃねーぜ。進路でだ。


 高校進学校時、野球の名門高からお誘いが来てだが、それを蹴って普通高に志願書を出したからだ。


 まあ、そんな前世って話はともかくとして、親を呼び出され、先生との三者面談の気まずさは転生しても忘れてねーよ。


「申し訳ありません。うちの会長がバカで」


 なぜか公爵どのに謝罪する婦人。オレのオカンか!


「いや、ベーがバカなのもバカをやるのもいつものこと。フィアラのせいではない。謝るな」


 バカなのもバカをやるのも認めるが、バカなことをやってるバカ公爵に言われたくねーわ。


 つーか、なんなのこの状況は? なんでこんなことになってんのよ? オレよ、説明プリーズだ!


 いや、オレに説明を求めんなよオレ! それ、たんなる自問自答だわ。


「それで、今回の呼び出しはなんでしょうか?」


 だからオカンのような口調すんなや。いや、一児の母でしたっけね。あ、婦人の娘、どうしたっけ? 誰かに預けたような気がしないでもないが、まあ、幸せにやってんだろう。婦人なら定期的に会ってるだろうしよ。


「いや、実は──」


 と、領都の状況を説明し、オレが害獣駆除と街の清掃をやると言うことを長い時間をかけて説明した。長げーよ。


 なんかもう、オレが手から離れた感じなので、他人事のように甘納豆をつまみながら緑茶を楽しんでいた。


「……そうですか。ところ変わればいろいろな問題があるのですね……」


「あ、そう言えば、フィアラも領主夫人だったのだな」


「はい。バイブラストと比べるのも恥ずかしい領地でしたが」


 確かに比べるのも笑っちゃうくらいの差だし、領主はダメだったが、バリアルの街はなかなか豊かで、物価の安いところだった。


 その原因、と言うか、それを成していたのは婦人の力だろう。それだけでバイブラストに匹敵するとオレは思うね。


「恥じることはない。ベーが引き抜いたと言うことは優秀以上に賢婦だった証拠。ベーの前に出会いたかったよ」


 妻の前で堂々と口説いてんじゃねーよ。婦人はオレがさきに唾つけたんだ、公爵どのだろうと渡さんわ!


 ドンとテーブルに足を乗せて抗議した。


「ふふ。残念です」


 艶やかに笑う婦人。この人に出会え、手に入れられたことに百万の感謝を。そして、絶対に敵にしないよう、誠心誠意誓います。


「まあ、おれには最高の嫁がいるから残念ではないがな」


 そうサラッと言える色男め。爆死しろ!


「話を戻して、だ。ゼルフィング商会に依頼するとして、どうすると言うのだ?」


 全員の目がオレへと集まる。婦人と話し合うんじゃなかったのかよ?


「下水道の清掃をバイブラストから業務委託してもらい、牙ネズミやタコの捕獲処分はオプション──付属依頼として受ける。ゼルフィング商会は、業務報告、業務管理、作業員の教育、管理、手配などをする。バイブラストは衛生管理部なり局なりを開設して街の衛生に関わる業務をやれ。バイブラストとしてやってもイイし、各商会に話を通して下請け業者を作り出せ。ゼルフィング商会は、中規模商会として商っていくからよ」


 その他諸々の細かいことはやりながら決めていけばイイさ。まだ海のものとも山のもとにもなってねーんだからよ。


「……肝心の作業員はどうやって集めるのです?」


「初期作業員はオレが集めて教育する」


 まずは自分でやってみてから。清掃や捕獲にどんな道具が必要か考えたいしな。


 ……本音は価値が決まる前にいただけるものはいただくためだがな。クク……。


「何日か下水道に潜ってから作業員を見つけるよ」


 作業員確保にそれほど心配はしてねー。オレの出会い運、ナメんなよ、だ。


「……お前、なにか隠してないか……?」


 なにやら厳しい目を向けて来る公爵どの。なんでよ?


「お前が素直なときはなにか隠しているときが多いからな。まあ、おれの勝手な解釈だが」


 その勝手な解釈が油断ならねーから、この男は公爵と言う立場に位置づけてるのだ。


「そこは商売上の駆け引きだ。楽しい商売をモットー──第一としてるが、損を出してまで楽しむつもりはねー。損して得取れがゼルフィング商会だ」


 ニヤリと笑って見せる。ウソは言ってねーぜ。


「……わかった。衛生管理局を作る。その最初の依頼としてゼルフィング商会には下水道の調査を頼む。依頼料は結果を見てからでいいか?」


「ああ。構わんよ。成功報酬でも成果報酬でもな」


 それはオマケみたいなもの。依頼を出してくれた時点でもう報酬はもらっているようなもんたがらな。


「バイブラスト公爵からの依頼、ありがたくお受けします」


 ソファーから立ち上がり、恭しく一礼した。

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