第918話 フロンティア

「……ミタレッティー。悪いが強い酒をくれ……」


 冒険公爵の異名を持つだけはあり、復活するのも速かった。


「ウォッカでよろしいですか?」


「ああ。カティーヌにも出してくれ。種類は任せる」


 万能メイドに不可はなし。さっと二人の前に酒を出した。


 ……ミタさん、どう言う収納方法なんだろう……?


 わざわざ種類分けしてコップに注いでいるのか? いくら無限な鞄でも把握すんの大変だろう。いや、ミタさんなら可能か。記憶力もよさげだし。


「あ、甘納豆食いたくなった。ミタさん、プリーズ」


 なんで食いたくなったかは自分でもわからん。なんの要因があったんだ?


「アマナットウ、ですか?」


 あれ? またミタさんのわからないものなの? 甘納豆、和菓子屋で売ってねーのか?


「ねーのならイイや。煮豆でも食うか」


 サプルにお願いして作ってもらった煮豆を出してパクついた。うん、旨い!


「……お前は本当にブレないよな……」


 いや、あなたもブレない人でしょう。公爵でありながら飛空船に乗るって、並みの意志と精神じゃやって行けないからね。


「ミタさん。緑茶ちょうだい」


「はい。熱いのでよろしいですか?」


 それでお願い。あ、濃い目でよろしこ。


「……で、グラーニがいるとはどう言うことだ?」


 濃い目の緑茶を半分くらいのんだ頃、公爵どのが問い詰めるように訊いて来た。


「いや、実際にタコを見たわけじゃねーんだが、牙ネズミの腹からタコらしきものの肉片? が出て来た。それまでに百匹以上の牙ネズミを捕らえたことからして産卵できる個体、又は複数体いることは明白。あと、そこの猫からも証言を得た。牙ネズミの主食はタコだってな」


 いつの間にかソファーの下に移動した茶猫をアゴで差した。


「猫か。まだいたんだな」


「公爵どのは猫知ってんだ」


 まあ、冒険をしているだけあって物知りだったがよ。


「先々代が牙ネズミ対策に東の大陸から仕入れたんだよ。まあ、牙ネズミを減らしたものの、冬が越せずほとんど死んでしまったがな」


 どうやらこちらの猫は寒さに弱いらしい。茶猫の一族(?)は例外に生き残ったのだろう。いや、猫外な存在だから実質、滅んだも同じか。


「おい。お前からもタコの情報を出してやれ」


 結界でソファーの下から引きずり出し、公爵どのたちの前に突き出した。


「……くっ。容赦ねーな、お前は……」


「情報出したら好きなだけ続けろ。ほれ、出せ出せ」


 しっぽをつかむように上下に振ってやる。


「止めろや! ゲロが出るわ!」


「ゲロを出す前に情報を出せ」


 本当にゲロを出されても迷惑なので、テーブルの上に置いてやった。


「ったくよ。つーか、情報って言われても牙ネズミがタコを食ってるのを見ただけだし、大した情報なんて持ってねーよ」


「タコを食ってるのを見たっての証言が取れればイイんだよ。タコが災害級の魔獣っての知らない者からの証言がな」


「いや、重要な証言、すまぬ」


 茶猫に頭を下げる公爵どの。随分と猫を受け入れてんだな。第三夫人はポカーンとしてんのに。


「あんたは……いや、公爵さまは驚かないんですね」


「無理に口調を変える必要はない。しゃべる猫より口の悪い村人のほうがびっくり存在だからな」


 いや、しゃべる猫のほうがびっくり存在だよね!? 口の悪い村人、たくさんいるよね!


「……まあ、こんなキャラ濃いヤツより驚かれたら逆に不愉快だがな……」


 テ、テメー、二足歩行にして長靴履かせるぞ! ──おっと。願望が出てしまった。まだ内緒内緒。


「まあ、ってことだ」


「ってことだ、じゃねーよ。バイブラスト、呪われてんのか?」


 心労と言う形で祟られてるのか、らしくない泣き言を口にする公爵どの。大変だね。


「呪いも見方を変えれば祝福さ」


 呪いも祝福も紙一重。捉え方次第だ。


「……なにか、対策はあるのか……?」


「放っておくのが一番だな」


 街に被害が出てないことと牙ネズミのエサになっていることからして生態ピラミッドができているってこと。無駄に壊さないほうが平和ってことだ。


「バレたら街は混乱するわ」


「なら、人海戦術でタコも牙ネズミも駆逐すればイイじゃん」


「さらに混乱するわ」


 思った以上に心理的負担になってんだな、タコって。


「放置もダメ。人海戦術もダメ。バイブラストに打つ手なし。なら、第三者に任せるしかねーな」


「冒険者に依頼を出すのか?」


「穏便に、牙ネズミとタコを狩ってくれるのならそうしたらイイさ」


「無理だな。場所が場所だけに」


 下水道の構造を知っているのか、そう断言した。


「……なんとなく、お前が言いたいことはわかる。だが、お前になんの得があるんだ?」


「オレに、と言うよりはゼルフィング商会に得がある。まあ、まだ婦人には言ってないが、バイブラストでの商売は、害獣駆除と街の清掃。我がゼルフィング商会を専売としてくれんならお安くしておくぜ」


 物を売り買いするだけが商売じゃねー。維持管理もまた商売。まだ、誰も手を出してないフロンティアだ。


「……カティーヌ。おれは了承する。フィアラと話し合ってくれ」


「はい。フィアラと話し合います」


 あれ? いきなり飛び越えちゃうの? まずはオレに承諾するのが筋じゃね?


「……お前、信用度ゼロなのな……」


 まったく持って反論できね~~!

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