第912話 下水道

 猫と村人。


 なんか純文学でありそうな題名だが、ファンタジーな世界では珍妙な光景に見えるようで、もっか街の方々から奇異な目を向けらてます。


 まあ、茶猫を先頭に黒猫引き連れた男の子。これが奇異じゃなかったらなにが奇異なんだよって話たわな。


 スルー力以前にそんなもの気にしねーくらいの視線なので、構わず猫と村人の行進を続けた。


 しっぽを左右に振りながら先を歩く茶猫を見下ろしていると、ふと疑問が生まれた。


 元二足歩行の生き物が四足歩行になるって、違和感とかねーのかな?


「不思議とないな。ただ、ふとしたときに人間っぽい動きはするらしいが」


 尋ねてみたらそんな答えが返って来た。


 ……人間っぽい動きができる時点で猫としての域を出てるよな……。


「ちなみに、二足歩行はできるのか?」


「やろうと思えばできるが、四足のほうが楽だな」


 やはり猫の域、出てるわ、こいつ。


「オレの力ではねーが、立って歩けるようにはできるし、人型にはなれるぞ」


 アリザが脱いだ着ぐるみ(的なもの)を人型にした要領でやれば可能だろうよ。


「ますます変な生き物にならね?」


「今さらだろう。世界最強の願いで猫かも怪しいんだからよ」


 世間がこれを猫と認めてもオレは猫と認めねーぞ。普通の猫の立場(?)がねーわ。


「……そりゃそうだが、気持ち悪がられたりしねーか……?」


「しゃべる猫が気持ち悪く感じなかったら大丈夫じゃね?」


 蟲系はどんなんでも気持ちワリーと思うが、猫なら気持ち悪くはならんだろう。少なくともオレの周りにはいねーと思うぜ。


「試しにやってみるか?」


「そんな簡単にできるものなのか?」


「羊を人型にした経験はある」


 着ぐるみ(的なもの)だけど。


「それ、どんな能力だよ?」


「本来の能力名は知らんが、オレは伸縮能力って呼んでる。こう言う能力だ」


 無限鞄から先ほど余ったMなハンバーガーを出してデカくする。


「質量の法則を無視した能力で、味はそのままだ」


 カイナから軽く説明を受けたが、サラッとしか理解してない。なので、それ以上は聞かないでね。


「……ファンタジーだな……」


 なんだろう。その返しに親近感が湧いたような気がする。


「同感だな。でもまあ、融通が利く能力だぜ」


 まあ、その割には使ってねーけどな。


「…………」


 沈黙する茶猫。どうやら気持ちが揺るいでいるようだ。


 答えが出るまで声をかけず、茶猫の後に続いた。


 相当悩んでいるようだが、周りが見えなくなるほどではないようで、スラム街って感じの街並みになって来た。


「家なしの方々が少ねーな?」


 イメージ的に家なしの方々が道端にいると思ったんだが、下町な感じでおしゃべりしているって感じだった。


「そろそろ冬になるからな。広場に移ってるよ」


 茶猫の説明によると、家なしの方々が集まる広場があり、秋口になるとそこに集まり冬を越すんだとよ。


「スラムも各地に因って違いがあるんだな」


 あまり生きることに消極的なイメージがあったが、結構逞しく生きてんだ。


 さらに進むと、完全にスラム街へとなった……けど、ゴミゴミした感じはなかった。


「びっくりしたろう、意外とキレイで」


「ああ。もっとゴミゴミしてるかと思ってた」


 汚いのは汚いんだが、ゴミ溜めって感じはない。なんでだ?


「ここを仕切ってるマフィアがキレイ好きって言うか、ゴミは専用の場所に捨てさせてんのさ」


「……また、変わったマフィアがいるな……」


 いや、それほどマフィアに精通しているわけじゃないが、キレイ好きなマフィアなんて初めて聞いたわ。つーか、スラム街より普通の街を仕切れよ。意味わからんわ!


「結構、力のあるマフィアっぽいな」


「? なんでそう思うんだ?」


「監視するヤツがそこらかしこにいて、ゴロツキが現れない。そう言うのは決まって統率力が高いんだ」


「それを知っているお前って何者よ?」


「平和を愛するスーパー村人さ!」


「あ、そう」


 と、軽く流された。なぜに!?


「川?」


 なんとスラム街の中に川が走っていた。


「川の名前は知らないが、下水を流す川らしいぜ」


「へ~。そんな仕組みになってんだ。街って結構奥が深いんだな」


 村人のオレには想像つかんわ。


「あの橋の下から下水道に入れるんだよ」


 近くの壁に上がり、前足で橋を指した。


「役人が来ないのもわかるわ」


 橋の下に下りる階段はなく、なにか布を絞ってロープにしたものが垂れ下がっているだけであった。


「まあ、この時代の役人なんてそんなものさ」


 世界最強を願っただけはあり、二メートルの段差など気にしないで、三十センチもない側路に飛び下りた。


 結界で飛び下りることもできたが、こちらを見ている者の前で能力を晒すのも愚か。絞った布を伝って側路に下りた。


「魚がいるんだ」


 それほどキレイな川ではねーが、小魚が結構いた。


「ドロ臭くて食えないがな」


 そう言うところを見ると食ったんだ。


 側路をしばし歩くと、街にいくだろう水路と地下に流れる水路のY叉路が現れた。


「なんか明かりは出せるか? 慣れてない者はよく落ちるからな」


 問題ないと結界灯を創り出した。


「チートな野郎だ」


「このくらい初歩の魔術でもできるぜ」


「魔術か。おれも使えたらな~」


「いや、お前にも魔力があるんだから使えんだろう」


 人外ばかりと接してるせいか、魔力の強大さになんとも思わなくなったが、茶猫の魔力も相当高い。魔術を習得すればオーガの群れでも倒せると思うぜ。


「ほ、本当か!?」


「興味があるなら教えてやるよ。オレ流でイイのならな」


 考えるな、感じろ的な教えになるがよ。


「頼む! それでいいから教えてくれ!」


「おう、任せろ」


 まあ、ニューブレーメン内に入れるくらいにはしてやるが、そこからは己でなんとかしてくれ。アリザやカバ子、ルンタに匹敵するまでは強くしてやれんからよ。


 ……死ぬなよ……。


「なに、その悲しい顔でのサムズアップは?」


 お前の輝かしい未来に幸あれと願ってさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る